Welcome to Jupiter (初回限定盤)

アーティスト : 矢野顕子 
  • ビクターエンタテインメント
4.33
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感想 : 2
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  • Amazon.co.jp ・音楽
  • / ISBN・EAN: 4988002699858

感想・レビュー・書評

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  •  矢野顕子のニューアルバム『Welcome to Jupiter』(ビクターエンタテインメント/3996円)を、2枚組仕様の初回限定盤で聴いた。

     スタジオアルバムとしては前作に当たる昨年の『飛ばしていくよ』は、私にとってかなりガッカリ度の高い作品であった。
     本作は、『飛ばしていくよ』の続編的位置づけ(「オトナテクノ」第2弾だそうだ)ということで、「またガッカリするかなァ」とイヤな予感を抱きつつ聴いてみた。

     なにしろ、前作に「在広東少年」や「電話線」のセルフカバーが収められていたように、今作にも「Tong Poo(東風)」(YMOの曲だが、アッコちゃんも『ごはんができたよ』でカバー)や「悲しくてやりきれない」(フォーク・クルセダーズのカバー)、パット・メセニー作の「PRAYER」の再演が入っているし……。

     前作のセルフカバー曲について、私は当ブログで次のように酷評した。

    《「電話線」と「在広東少年」という初期~中期の代表曲をセルフカバーしているのだが、2曲とも「劣化コピー」という感じの出来。
     とくに、「在広東少年」は原曲とアレンジもほとんど同じ。これなら原曲を聴いたほうがいいわけで、いまさらオリジナルアルバムの曲目を割いてカバーする必然性が理解できない。
     ボーナストラック扱いならまだしも、「電話線」なんか今作のオープニングナンバーになっているし……。》

     今作における「Tong Poo」「悲しくてやりきれない」「PRAYER」についての印象も、おおむね同じだ。
     『ごはんができたよ』『愛がなくちゃね。』『SUPER FOLK SONG』に入っていた元バージョンのほうがずっといいし、なぜいまさらリメイクするのか、意図がよくわからない。そして、出来の悪い「Tong Poo」のリメイクをわざわざオープニングナンバーに据える意図も、さらにわからない。

     では、前作『飛ばしていくよ』同様、本作は私にとってガッカリ・アルバムか?
     ……それが、意外にそうでもなかった。
     リメイク曲はいただけなかったが、オリジナル曲の出来が素晴らしい。「あたまがわるい」「そりゃムリだ」「わたしとどうぶつと。」「わたしと宇宙とあなた」「大丈夫です」など、みんなよい。つまり、彼女は「ソングライターとして枯れてしまったからセルフカバー/リメイクに走っている」というわけではないのだ。

     また、オリジナル曲以外では、はっぴいえんどの『風街ろまん』所収曲「颱風」のカバーが、ファンキーかつブルージーでカッコイイ。終盤のマーク・リーボウのギターが絶品だ。

     全体的に、前作よりはずっと楽しめるアルバムに仕上がっている。
     チープなピコピコ音の比重が前作よりも下がり、その分生ピアノの比重が上がっている点も好ましい。私は何よりもピアニストとしての矢野顕子のファンであるから。

     それに、初回限定盤の特典であるディスク2「Naked Jupiter」が、意外なほど出来がよい。
     これは、ディスク1収録曲から7曲を選び、「オフヴォーカルにし矢野顕子のピアノと各ビートメイカーのトラックのみで再ミックスされたオトナテクノトラック集」である。

     「どうせ、たんなるカラオケ集みたいなもんでしょ?」と思う人もいるだろうが、そうではない。独立した作品として価値をもつインスト集に仕上がっているのだ。BGMにしても心地よいし、随所に胸を鷲づかみにされる切なさがあって、アッコちゃんならではの“ジャズ風味の抒情派エレクトロニカ”という趣のミニアルバムになっている。
     ファンなら、少し高めでも初回限定盤を手に入れたほうがいい。

     『飛ばしていくよ』のガッカリ感がかなり払拭され、長年のファンとしては少しホッとした(もちろん、私とは逆に『飛ばしていくよ』を高く評価したファンもいるわけだが……)。

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