それでも、日本人は「戦争」を選んだ [Kindle]

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感想・レビュー・書評

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  • 近代以降の日本の4つの戦争。日清、日露、第1次大戦、そして満州事変・日中戦争・太平洋戦争。著者が栄光学園(神奈川)の中高生との対話でわかりやすくその背景を考えさせる。正に総合的俯瞰的な観点からその歴史の意味を考える最適な材料である。私自身さえ初めて知って目を開かれた深い内容が多く、充実ぶりに驚いた。著者が戦争へ突き進んでいった日本人の心情に広い視野の説明で迫る。東京帝大の学生たちの大部分が満州事変に肯定的な回答をしていたということも驚きの事実だったし、日米戦争の開戦が、中国への「虐め」から、明るい戦争になったという開放感が竹内好などの知識人の中にあったなど、興味の尽きない話の数々だった。一方、南原繁は「人間の常識を超え、学問から導かれる判断を超え戦争は起こされた、日本は世界を敵としてしまった」との嘆きは、重工業などの基礎産業の日米格差が鋼材17倍。石油721倍、航空機1509倍という驚く差を知っていたからこそ。そしてこの差を日本当局は国民に隠そうとせず、克服するのが大和魂だと強調すらしていたという無謀さは改めて驚く。そもそも日本は戦争する資格などなかったとの海軍・水野廣徳との文章(1929年)は凄まじさを感じる。
    驚きの事実も多い。真珠湾でなぜ米国があそこまで無防備だったのかの謎は、著者によれば、日本の魚雷技術への米側の見くびりにあったという。日中戦争の直前まで中独の親しい関係、中ソの平和条約の存在など。また軍人の中で平和主義的な人の紹介が嬉しい。宇都宮徳馬の父・太郎の日記の中で、勧告での不当な弾圧「堤岩里事件」について危惧しているという。石原莞爾が第1次大戦敗戦直後のドイツでドイツの敗因を探り、「敵の消耗戦略に負けない」重要性に気がついたとのこと。米国人捕虜の死亡率がドイツ1.2%に対して、日本37.3%という数字、ドイツが国民の食糧を全く減らしていなかったのに対して、日本は6割にまで減少していた、いずれも人の生命を軽視していたとまで高校生に説明しているのはあまりにもショッキングである。
    最後に高校生の反応の言葉も含蓄に富む。「歴史をこんなふうに考えたことはなかった。いつもとは違う頭の使い方をした感じがしてクタクタになったけれど、かなり有意義だったと思います。太平洋戦争については、日本がなぜあんな可能性のない戦争をしたのか、これまで当時の人たちの感覚が全くわからなかったけれど、今回、いろんなデータを知ることで、「この時点の世界の動きを切り取れば こんなふうに見えるんだ」とか思ったし、いろんな人の考えや文章に触れて、少しだけかつての人の感覚がわかったような気がした。」
    忘れてはいけない大切な言葉の数々を引用する。
    「述べたかったことは、国民の正当な要求を実現しうるシステムが機能不全に陥ると、国民に、本来見てはならない夢を擬似的に見せることで国民の支持を獲得しようとする政治勢力が現れないとも限らないとの危惧であり教訓。」(p5)
    「イギリス人に受けがいいトインビーなどは、なぜヒトラーのような邪 悪な精神が登場したのか、といった大上段の文化論を語り、最終的には人間性の美を信ずる議論を展開する理想家でした。しかし、カーは非常に冷徹なことをいう。国際連盟、パリ講和会議のやったことはまちがっていたのだ。ドイツなどに強制したから国家がそれを打破しようとするのは当然。」(p55)
    「人々は重要な決定をしなければならないとき、自らが知っている範囲の過去の出来事を、自らが解釈した範囲で「この事件、あの事件、その事件……」と参照し、関連づけ、頭のなかでものすごいスピードで、どれが参照にあたいするのか、どれが今回の問題と「一致」しているか、それを無意識に見つけだす作業をやっているものです。そのような作業が頭のなかで進行しているとき、いかに広い範囲から、いかに真実に近い解釈で、過去の教訓を持ってこられる かが、歴史を正しい教訓として使えるかどうかの分かれ道になるはずです。ですから、歴史を見る際に、右や左に偏った一方的な見方をしてはだめだというのは、そのような見方ばかりしていますと、頭のなかに蓄積された「歴史」のインデックスが、教訓を引きだすものとして正常に働かなくなるからですね。
    これを逆にいえば、重要な決定を下す際に、結果的に正しい決定を下せる可能性が高い人というのは、広い範囲の過去の出来事が、真実に近い解釈に関連づけられて、より多く頭に入っている人、ということになります。」(p72・米国の歴史家アーネスト・メイの説明文より)

  • 日本学術会議の新会員の任命に際し、菅政権から任命拒否された6人の学者さんの中の1人である加藤先生の著書。加藤先生というのがどのような考えの方なのか、1冊の著書でそれが理解できるとは思いませんが、少なくともその”さわり”程度は見えるのではないかと思い、読んでみました。
    本書は日清戦争、日露戦争、第一次世界大戦、満州事変と日中戦争、太平洋戦争という日本が近代史で経験した5つの戦争について「なぜ戦争へと進んでしまったのか」という疑問について、加藤先生が高校生相手にされた特別講義を1冊にまとめたものです。基本的に講義を文字に起こした形式なので、非常に読みやすいです。
    一方、その内容は高校生相手とは言え非常に深いものです。特に日清戦争、日露戦争の背景について本書で語られている内容は私は初めて触れたような内容でしたし、なぜヨーロッパで拡がった第一次世界大戦に日本が参戦したのかという問題も、今までちゃんと考えたこともありませんでした。
    満州事変、日中戦争から太平洋戦争に至る経緯については多くの書籍が出版されていますが、加藤先生によって語られている理論は非常に腑に落ちるものでした。
    高校生の時、どちらかというと日本史、とりわけ近代史が苦手だった私にとって、その時代への先入観なく読んだ印書として、もしこういう講義が聞けるなら是非聞いて見たかったな、というものでした。偏った思想とか、歴史観を捻じ曲げているような印象もなく、なぜこれほど”真っ当な”考えの学者さんが学術会議の会員にふさわしくないと判断されるのか、非常に疑問に思います。
    戦争を軸に日本の近代史をおさらいしたい、けど歴史を正面から扱った本はちょっとハードルが高い、そんな人には非常にお勧めできる1冊だと思います。

  • 数年を経て読了。語り口は中高生向けだが、超進学校の歴史好き相手なので、内容はかなり難しかった。特に近代史に詳しくない身としては。それでも、明治以降の1つ1つの歴史的分岐点を、為政者から国民までが、それを選択したのか、先行研究や書簡などの資料を丁寧に読み解いていく、歴史学ってこんなに謙虚で慎重な学問で、それを現代に活かしたい、その思いを知ることができた。

  • 中高生のための特別講義なのだけど、生徒たちがハイレベルなので問答についていけないことも多々ある。でも私のような歴史素人でもわかるよう丁寧に説明してくれている。日本が辿った道筋をなぞる作業は結末を知ってるだけにもどかしく悲しい。松岡洋右の見方も変わった。これからも自分の無知を恥ずかしがらずに知識を得ていきたい。

  • 栄光学園の歴史クラブの生徒たちに特別授業をしたものを本にした内容だが、自分もこのような授業を当時受けられていたらなあと思った。
    誰かを加害者にしたり、被害者扱いするのは簡単なことだが、ものごとはそんなに簡単で一面的なものではないはずで、そのことを深く考えさせられた。
    恥ずかしながら胡適という人は全く知らず、鬼になりきったような冷徹な思考には衝撃を受けた。
    「昭和16年夏の敗戦」と合わせて読みたい一冊。

  •  ロシアのウクライナ侵攻により戦争がより身近に感じられるようになり、「戦争」とOPACで検索したところ、この本と出合った。東京大学教授である加藤陽子氏の著作である。本書は、日清戦争、日露戦争、第一次世界大戦、満州事変と日中戦争、太平洋戦争が1章ずつ取り上げられている。文体が中高生に講義する口調であり、難しい専門用語は使われておらず、大変読みやすい。日本史を専攻している学生には物足りないかもしれないが、歴史資料の引用も多く含んでいて、大学の講義のようで、大学生の私が読んでも飽きるどころか、「そうだったのか!」と思わせられる連続である。

     特に印象に残ったのは本題に入った直後にある、「日本が中国に侵攻する・中国が日本に侵攻されるという物語ではなく、日本と中国が競い合う物語とすることで、日本の戦争責任を否定するわけではないが、見えにくくなっていた中国の文化的・社会的・経済的戦略を日本と比較しながら日中関係を語る(84頁、要約)。」という部分である。一面的な見方しか知らなかったが、柔軟な思考に導かれた。

     題名にもなっている、日本が戦争に進んでいった過程が一連の流れで語られ、スッと納得させられる。しかし、出来事を羅列した「覚える歴史」ではなく、「どうして、そのような行動をとったのか」「誰がどんなことを考えていたのか」を考える歴史である。教養として歴史に触れたい人におすすめな本である。
    (文科三類・2年)(2)

    【学内URL】
    https://elib.maruzen.co.jp/elib/html/BookDetail/Id/3000061759

    【学外からの利用方法】
    https://www.lib.u-tokyo.ac.jp/ja/library/literacy/user-guide/campus/offcampus

  • (2021/176)11年ぶりに手に取る。歴史好きな中高生を対象にした5日間の特別講義で、日清戦争から太平洋戦争(大東亜戦争)まで、近現代の日本が主体的に戦った戦争を採り上げる。当時、将来我が子にも関心を持って勉強して欲しいと思ったものだが、そんな息子もこの講義を聞いていた子たちと同じような年齢になった。正直、普通の中高生にはやっぱりハードル高いと思うけど、この夏休みに読ませてみよう。生々しい「歴史」は知っておくべきだし、なぜ?という問いは持つべきだから。

  • 1930年代当時、日本の国民は政党政治を通じた社会民主主義的な改革や、民意が正当に反映され政権交代が可能となる政治システムを求めていた。しかし、既成政党、貴族院、枢密院などの壁に阻まれて実現できなかった。この政治システムの機能不全の下で、擬似的な改革推進者としての軍部の人気が高まり、戦争に突き進んでしまった。日清戦争から太平洋戦争までの「日本人の選択」を高校生と考察する。

  • 中高生向けに書かれた本だが、日本の近代史がよく理解できる
    近代史の勉強が圧倒的に足りてないと猛省

    それぞれの戦争にいたるプロセスを、当時の背景を交えて説明

  • わかりやすくまとめてある。図書館で借りたのだが、購入してじっくり読んだ方がよかったかも。
    →文庫化

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著者プロフィール

東京大学大学院人文社会系研究科教授

「2023年 『「戦前歴史学」のアリーナ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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