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感想・レビュー・書評
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なにをして生きていくにしても、これに似たことはこれからもたくさんあるだろうけれど、うまくいこうがいくまいが、いつだって、こうしてできるだけのことをすればいい。それでたまに吹いてくる甘い香りがする自由の風を吸い込もう。
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アムリタを読んでゐたら、吉本さんのことばにもつと触れてゐたくなり、買い漁つてきた中の1冊。
話がよくわからずまるで霧の中を進むかのやうに進む。登場人物たちの多くがあまり語られず、それぞれがベールに覆われてゐる。ひととひとが関はる時に、そんなはつきりとした状態で関はるといふことは、本当にフィクションの中でしかない。
それがひとつの絵画をシンボルに少しずつ焦点があってくる。ぼけた映像がくつきりと結ばれるやうに。それでも背景のすべては見えてこない。ことばにしやうとしなくてもいい。ただ共にそばにゐることができるのなら。
過去は決してなくなることはない。忘れることやなかつたことにして蓋をすることができたとしても。折に触れて靄のやうに立ち込めて自分の前に現れる。心に誰もが深いみずうみをたたへてゐる。確かあれは茨木のり子だつたか。夢でもまぼろしでもなく、ひとは心の底に深い深いみずうみをたたへてゐる。ひとが重ねた年齢の分だけ。培つてきた経験の分だけ。
その底のすべてをのぞくことはできない。だけど、そのみずうみがあることを知つて汚さないやうに大切にすることはできる。それがたとへ、永遠のものでなかつたとしても、一時そのみずうみを守つてくれたことは、互ひのみずうみがまた静まり深く澄んだ水をたたへる新たな一滴となる。