森田療法 (講談社現代新書) [Kindle]

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感想・レビュー・書評

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  • 絵本のOWL at HOMEを読みながら神経症について考えていたら本作を再読したくなりざっと読み返した。

    著者は精神科医。彼自身、若い頃に神経症に悩まされ、本書の主題でもある森田療法によって克服した経験をもつ。

    追悼文を兼ねた序文を編集者の松岡正剛氏が書いている。初版は1986年。思ったより古かった。

    けれども本書で紹介されているものに似た神経症例は現代でもあいかわらず再現している、ひょっとして増えているのではないかというのが実感。
    日本社会というのはもともと神経症的な傾向の強い社会だとは思うけれど、インターネットが普及したことにより神経症化がすすみ、本書が書かれたのとは別のフェイズに入り、Covid-19によってさらに拍車がかかった感がある。

    ところで「森田療法」とは、よく知られるように森田正馬によって創始された対神経症の心理療法。
    フロイトの精神分析は、よほど自我の強い欧米の人々でないとあまり効果が期待できないのではないかと小此木氏をはじめ書いているが、精神分析は、不安や葛藤に対峙し、自覚させ、それを除去しようとする。

    それに対して森田療法は、不安や葛藤が「あること」を「あるがまま」にそれはそれとして受け入れ、社会生活における自身の生の欲求や願望を実現するようにあえて仕向ける。こういってよければいくぶん東洋的といってもよい療法だ。

    人はこのとき、「はからい」という、しないことの口実づくり、あるいは現実逃避をしたがるもので、このはからいをしてしまうと悪循環に陥っていく。よけいに視野狭窄、独りよがりにおちこんでいく。そこを治療の過程でどうにか突破するのが肝要。

    森田正馬は神経症を大きく3つに分類している。
    1.強迫神経症(対人恐怖、体臭恐怖、不完全恐怖、疾病恐怖、不潔恐怖、雑念恐怖などなど)

    2.不安神経症(心悸亢進発作、卒倒恐怖、眩暈発作、四肢脱力発作、呼吸困難などなど)

    3.普通神経症(自律神経の不調によるわりあい生理的な異常。症状は多様。)

    1の強迫神経症、例えば対人恐怖などは、家族にきわめて教条的な人がいて、そのなかで育った場合などに発症する傾向が強いという。「こうすべきだ」という彼彼女による押し付けを内面化してしまうのだ。

    2の不安神経症は、当人が両親のいずれかと過剰な依存関係にあるのが特徴。めちゃくちゃ甘やかされたとか。

    いずれにしても、きっかけさえあれば(職場での失敗や、嫁姑の関係の悪化など)発症する。思春期のみならずいつでも。
    いや、自分に限ってそんなことあるものかと強く思う傾向にある人ほど危ないようだ(私の印象では、なんでも法則化したり、法則を見つけたがる人も強迫観念を引き寄せやすいように思う)。これも、そういうこともあるらしい、くらいに、あるがままに知識を置いておく、くらいに、「とらわれ」ないのが望ましい。

    矛盾した観念や感情を同居させることに慣れ、強迫観念に苛まれるようになっている間は他者の意見がまったく聞けない状態になっているため他者の話にどうにか耳を傾けようとすること(できる範囲で)。

    そう、神経症者は自覚症状があるので、心の傾け方によって、あるいはふとした状況の変化によって劇的に改善する。

    「おわりに」は何度読んでも胸打たれる。一部引用。著者がほとんど亡くなる直前に書いたものだ。この頃には全身を癌におかされていた。

    「人間としての自由ーーそれはたいへんに厳しく苦しいものである。しかし、それを遂行しようとするところに人間の尊厳があると筆者は信じている。たとえば、自分の死を意識した瞬間に、患者への配慮を投げやることを許してもらい、若い医師たちにもこれほど重大な極限状態に立たされたのであるから何とかかんべんしてくれと言い訳をいい、筆者の講演を聞きにくる聴衆にも緊急の状態を理解してもらって、講演をやめることを許してもらうこともできる。
    しかし、その一方で、自分が置かれた事実を認め、どうしようもない不安と、将来に対する危惧を「あるがまま」にし、その上で、筆者の人間としての責任を果たす行為を選択することもできる。
    前者を選ぶのか、後者を選ぶのか。筆者はそこで選択の自由の前に立たされているのである。これは筆者にとってたとえようもなく厳しく、そして苦痛だが、また、たとえようもなく大切な自由である」

  • なんか気にしすぎてるな〜って時に読み返す。それは自然なことで、あるがままにするといいことがわかる。

  • 目的志向で、あるがままに。
    自己の本当にありたい姿に到達するための歩みを、これまでの自己、いまの自己を受け入れた上で進めて行く。
    それが要諦であり、神経質症の人もそうでない人も大切にすべき変わらないこと。

    あるがままを忘れると、あるべき姿に拘泥していまい、あるがままとのギャップが心を歪める。
    それがひどくなると病になる。

    大切なことが分かりやすく、かつ根拠をもって、具体例も交えながら書かれている本書は名著だと思う。

  • 同じく講談社現代新書から出ている「はじめての森田療法」を読んでからこちらを読んだ方が理解がしやすいです。2冊読めば、森田療法の基礎をかなり理解できると思う。なお、本書は、松岡正剛氏の「はじめに」にあるように、「おわりに」から読み始めるのがおすすめ。

  • 予期不安で5年ほど満員電車に乗ることを避けていたが、それが心配してもどうにもならないことに対する「はからい」であると気づき、いかに自分が無駄なことに心を砕いてきたのかを実感させられた。
    世の中には思い悩んだところでどうにもならない不確実性や好ましくない状況があり、それは自分だけではなく皆同じであること。
    そこから逃げる(はからう)のか、それを踏まえて自分のやりたい事やなりたい姿を追うのか。
    自分になかった視座を教えてくれた。
    思い返すと、興味のあるイベントや場所も、ちょっと遠いとか、満員電車に乗る可能性があるというだけで避けてきた。その時は、自分は満員電車に乗れないんだから仕方がないと思い込んでいた。もったいないことをしてきたと、今は思う。
    この本のおかげで、満員電車に乗れるようになった。今もこのレビューを朝7:46の地下鉄東西線のなかで書いている。本当にこの本に出会えてよかった。

  • 精神的不調が長らく続いているので何か状況改善のヒントにならないかと思って読みました。森田正馬博士が始めた森田療法の解説書です。不安や強迫観念に悩まされる神経質症の人間がどのような心持ち、行動原理でいればよいのかを簡潔に示してくれました。不安を「あるがまま」に受け入れつつ、なるべく日常の動作を行う「目的本位」を心がけるのが良いとのこと。本書は筆者が癌によって逝去される直前に上梓されたそうです。癌の苦しい闘病生活に追い打ちをかけるように失明、難聴を患いながらも口頭記述によって本書を完成させた筆者の森田療法的思想の体現には心を打たれるものがあり、考えさせられます。

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著者プロフィール

1931年、東京生まれ。上智大学卒業後、早稲田大学文学部大学院で美学を学び、さらに東京慈恵会医科大学を卒業。専攻は、精神医学、精神病理学。医学博士。1986年5月、本書の刊行直前にがんのため逝去。『立場の狂いと世代の病』(春秋社)など著書多数。

「1986年 『森田療法』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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