湯川博士、原爆投下を知っていたのですか―“最後の弟子”森一久の被爆と原子力人生― [Kindle]

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  • 戦前、京都大学でノーベル物理学賞を受賞した湯川秀樹に師事した森一久を題材にしたノンフィクション。

    本の帯には
    父母係累を一瞬にして失い、自身も爆心地で被爆した…。
    恩師の湯川秀樹は原爆投下を知っていたと聞かされた。「なぜ言ってくれなかったのか」事の真偽を確かめるため、森はひとり調べ始めた。

    とあり、その疑問を追う本か…と読み始めたが、それよりも、被爆者である森が原子力についていかに勉強し、原子力界の中枢に身を置き、どう奮闘したかが書かれている。

    「森さんが原子力に入られた動機は、原爆を見た、それに触れた人間として、この技術を人間が制御できる、安全に使えるようにするのが宿命、亡くなった人たちのために技術をつくっていかなくちゃならない、それができると信じたのだと思います」

    発電会社主体で動いていく原発。どうしても利潤を第一に考える。けれど、「基礎研究をして実力をつけた上で、地道に国産の原子力施設を時間をかけて築いていく」が彼の理想だった。
    基礎研究がないから事故が起こった時に対処できない。
    根拠のあやふやな原発の安全神話のせいで、補償の議論も進まない。
    利潤第一だからコスト削減で細かなところが疎かになる。
    原子力界に身を置きながら、〇〇委員会などの要職に就きながらも、独りでは流れは変えられない。

    そんなジレンマがずっとずっと続いている。

    東日本大震災の前年に亡くなっている。
    彼が言い続けてきた理想が、ほんの少しずつでも現実になっていたら、フクシマは起きなかったのではないか。

    今、この本を読んで、いったい私に何ができるだろうと考える。

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著者プロフィール

藤原章生(ふじわら・あきお)1961年、福島県いわき市生まれ、東京育ち。北海道大工学部卒後、エンジニアを経て89年より毎日新聞記者として長野、南アフリカ、メキシコ、イタリア、福島、東京に駐在。地誌、戦場、人物ルポルタージュ、世相、時代論を得意とする。本書で2005年、開高健ノンフィクション賞受賞。主著に「ガルシア=マルケスに葬られた女」「ギリシャ危機の真実」「資本主義の『終わりの始まり』」「湯川博士、原爆投下を知っていたのですか」。

「2020年 『新版 絵はがきにされた少年』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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