信頼学の教室 (講談社現代新書) [Kindle]

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感想・レビュー・書評

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  • 読んでいて飽きてしまった。
    知らなかった発見はたくさんある言ったのだが、なんだかとても読みづらかった。
    また具体的なことが書かれていなかったのが、ふに落ちなかった。

  • ■誰か他人を評価するときの評価軸として「能力」と「人柄」があるというのは対人認知研究の基本。
     「人柄」の要素は大変幅が広く研究者によって考え方が多様。「誠実な姿勢」と「他者によい行いをする姿勢」との二つの要素に分かれるという研究者もいれば、「相手への配慮」という一つの要素にまとめられるという研究者もいる。もっとシンプルに「感情」というまとめ方もある。概念的な議論をしだすときりがない。
    ■主要価値類似性モデル
     従来の信頼規定要因についてのモデルでは相手の特定の特性(例えば能力の高さや動機付けの強さ)への評価で信頼が決まると捉えられていた。それに対し主要価値類似性モデルでは、信頼は信頼される側の特性への評価だけで決まるのではなく信頼する側とされる側の共通性、特に価値の共有によって決まると考える。
     我々は様々な問題に囲まれて生活しているがそれぞれの問題ごとにうっすらとした、或いは明確な見解を持っている。ここでいう「価値」とは提示された問題をどのように捉えその中で何を重視しどういったプロセスや帰結を望むかといったこと。
     ある問題に関して自分と相手とが同じような見立て方をし、求める内容が同じと感じられるならその相手を信頼するというのが主要価値類似性モデル。
    ■信頼の非対称性
     他者から信頼を得るには信頼に足る根拠をたくさん積み重ねていくことが必要でそれには長い時間がかかる。ところが信頼を失うにはたった一度のまずい出来事があれば十分で、信頼はごく短時間で失われる。このように信頼を築くための時間や一つ一つの根拠の重みと信頼が崩壊するまでの時間や出来事の影響力の大きさが非対称的な関係にあることを信頼の非対称性という。
    ■信頼の非対称性を生み出す二つの仕組み
    ①悪い出来事は良い出来事よりインパクトが強いことを「ネガティビティ・バイアス」という。
    ⓶我々が接する情報は必ずしも固定的で明確な意味を持ったものばかりではなく、あいまいで解釈の余地が大きいものもある。そのような場合すでに抱いている相手への印象に応じてその情報を解釈しようとする。或いは悪い印象を持っている人について良い情報悪い情報の両方に接する機会があるとしても良い情報は無視して悪い情報を取り入れ元の悪印象を維持する傾向があり「確証バイアス」という。
    ■従来から信頼に必要な要素として能力があるとみなされること、人柄が良いとみなされることが重要とされる。
    ■能力や人柄を活かして信頼を引き出すためには根っこに価値の共有が必要。
    ■信頼の構図
    ┌→価値共有認知┐
    │ ↑     │
    │ ↓     ↓
    │ 能力認知─→信頼─→リスク管理の
    │ ↑     ↑   有効性評価
    │ ↓     │
    └→動機づけ認知┘
    ■「寄り添う」という姿勢の方が公正に関わろうという姿勢よりも信頼されやすい。
    ■信頼が低下してしまっているときこそ価値の共有が重要になってくる。
    ■未成年者喫煙防止策についての政府への信頼
     価値共有認知─0.43──┐
                 ↓
     能力認知───0.24─→信頼
                 ↑
     公正さ認知──0.13──┘
    ・重回帰分析を使用
    ・数値は「標準化ベータ係数」でプラス1に近いほど結びつきが強く0に近付くと結びつきは弱い
    ■たばこ税増税についての政府への信頼
     価値共有認知─0.46──┐
                 ↓
     能力認知───0.10─→信頼
                 ↑
     公正さ認知──0.31──┘
    ■1日目のまとめ
    ・一般に相手をどれくらい信頼できるかはその相手の能力の高さと人柄の良好さの評価次第と考えられる。
    ・一口に人柄といってもその評価軸は真面目さや公正さ、思いやり等々多様な要素がある。しかし機能的には自分の業務に一生懸命に取り組み、目標を達成しようとする動機づけの高さとしてまとめられるのではないか。
    ・能力の評価と動機づけの評価以上に信頼にとって重要と考えられる要素がある。それは価値の共有である。
    ・相手と自分が価値を共有している一つの形態として、いわゆる利害の一致というものがある。しかし単なる利害の一致は相手を自分に利益をもたらす道具としてしかみなさないケ-スもあり得る。
    ・ある事柄についての価値とは、対象となる事柄をどのように捉え、その中で何を重視し、どういったプロセスや帰結を望むかということ。そういった価値の主要部分を相手と共有しているという認識はお互いを単なる道具とみなす関係を超え仲間としての信頼関係をもたらし得る。
    ■2日目のまとめ
    ・一般に信頼は得にくく失いやすい。信頼構築には時間がかかるが信頼の崩壊はあっという間に起こる。これは信頼の非対称性と呼ばれる。
    ・信頼の非対称性が生じる理由は悪い出来事はよい出来事よりもインパクトが強いという「ネガティビティ・バイアス」、悪い印象を持っている人について良い情報は無視し、悪い情報を取り入れて元の悪印象を維持する「確証バイアス」、何か不祥事があると信頼は他の側面にも波及して悪化するのに、良いことがあっても波及せず全体的に信頼が高まることはあまりない「悪い事象の一般化と良い事象の限定化」などにある。
    ・人間が文明社会を築いたのは単に知能が高かったからだけではなく相手を信頼し、協力しあえる傾向を持っているから。なぜ、そのような性質を備えるようになったのかは現在でも完全には解明されておらず主要な研究テーマの一つである。
    ■3日目のまとめ
    ・DJポリスが群集誘導に成功したのは単に話術がウィットに富んでいたからだけではなく、日本代表のサッカーワールドカップ出場というその場の価値を群集共有できたことにあるのではないか。
    ・薩長同盟などのように共通の目的を見出すことによってそれまで敵対していた勢力が協力関係を取り結ぶことは古今東西の政治の世界で多く見られる。
    ・しかし、敵対していた勢力が協力関係を持つのは必ずしも「敵」が必要なのではなく相互依存的な協力により問題解決が可能となる上位目標があればよい。
    ・価値の共有が信頼の基本であるという考え方は能力や努力により信頼が得られるという考え方をお互いが認識するとそこを覆すことは困難だからである。
    ・企業トップの一言がその企業の主要な価値を表現することがある。その内容が消費者の価値と異なる場合企業への信頼は大きく損なわれる。
    ■4日目のまとめ
    ・BCP(事業継続計画)の一環としてクライシス・コミュニケーションの方針を設定する場合、自らへの通常の社会的評価を前提に考えるのではなく、信頼の低下が起こっているという前提で準備を進める必要がある。
    ・東日本大震災に関連したと指揮を対象とする信頼調査では、東京電力、原子力安全・保安院の信頼が大変低かった。一方、気象研究所とJR東日本の信頼は比較的高かった。この差は全二者が放射能汚染の原因に直接関わる組織だからだと解釈できる。
    ・信頼の低い組織の場合、価値共有認知、能力認知、動機づけ認知の3要因のうち、信頼のレベルを決める要因として最も影響力の強いのは価値共有認知であった。一方、信頼の高い組織では価値共有認知の重要性は低下し、能力認知や動機づけ認知が信頼の規定する要因として重要性を増していた。
    ・関西電力は震災直後の信頼レベルは高い方だったが、1年後には大きく低下した。この変化に対応する形で価値共有認知の大きさも増大した。このことからも信頼が危機に瀕するときほど価値の共有が重要になると言える。
    ・再発防止のため問題を生じさせた部分について組織の能力を向上させることそれ自体は大変重要である。しかし、信頼の低下が起こっている場合、能力認知はそれほど信頼回復に寄与しないと考えられる。
    ■5日目のまとめ
    ・タバコ政策は政府によって進められているが、未成年者喫煙防止が殆どの人に支持されているのに比較すると、たばこ税増税による喫煙抑制策は賛否が分かれている。
    ・いずれの政策においても政府への信頼を最もよく説明する要素は価値の共有認知であった。
    ・その次に影響力を持つ要素は賛否が分かれるたばこ税増税では公正さ認知であった。一方殆どの人が賛成する未成年者喫煙防止に関しては能力認知の方が信頼への影響力が強かった。
    ・関心が強い人ほど価値の共有が信頼を決める程度も大きかった。
    ・問題が発生したときメッセージを送ろうとする相手の価値を理解する姿勢は常に重要である。自分たちの提案する対策がなすべきこととして衆目の一致するところであるような場合には、その対策を実行する能力があるとみなされるかどうかが信頼を左右する。一方、対策への賛否が分かれている場合には公正な姿勢であるとみなされるかどうかが重要となる。
    ■6日目のまとめ
    ・裏切らないことを担保するための制度として監視と制裁システムがある。これは人質供出と呼ばれるただし、人質を出していることそれ自体は裏切り防止策となり得ても信頼を高めるわけではない。
    ・しかし、自発的に監視と制裁システムを自らの導入すること、即ち自主的に人質を供出することは相手からの信頼を高める。
    ・人質を受け取るということは相手が裏切った場合、自分が手を下して相手にダメージを与えるという特徴を持つ。しかし、この特徴は法治国家において機能させにくいし、道徳感情も妨げになるだろう。むしろ人質ではなく、対手が裏切った場合に自動的に制裁が発動する仕組みの方が現実的である。
    ・積極的に価値を共有し自発的に自動的制裁システムに入ることで信頼は高くなった。同じことをしても受動的なプロセスでは何もしないのと変わらず信頼は低い
    ・不祥事によって低下した信頼を高めたい場合、まずは積極的に対象者との価値の共有を図り、不祥事の再発が自身への大きなダメージと連動する仕組みを自発的に導入すべき。能力面や動機づけ面のアピールはその次の段階の取組となる。

  • 大きく3つから信頼は左右される。価値の共有。能力。動機。中でも価値観の共有が大事。

  • 同志社大学心理学部教授の著書ですが、先生と生徒の対話形式内容から大学講義に使うために書かれた教材だと推察します。内容は、各章のまとめで概略は把握できます。信頼についての基本的な考え方がやさしく解説されているわけですが、提示内容に驚きと新たな発見が少なく「そうだよね」「そうだろうね」という読後感しか得られなかったのは残念。
    「価値共有から信頼へ」という章では2013年6月渋谷スクランブル交差点でW杯予選突破で沸き立つ歩行者誘導を見事にさばいたDJポリスの話題が取り上げられていますが、再度本書で掲載された言葉を読むと、当意即妙・ユーモア・仲間意識の醸成など「信頼」を得るための要素が詰まっていることに気づかされます。
    閑話休題。それもそのはず、彼は2013年1月に行われた警視庁広報技能検定試験に優勝し数人しか受かっていない技能資格「上級」を受賞したわけですが、既にその年の明治神宮の初詣で「急がなくても神様は逃げません。急いでもご利益は変わりません」との戦慄デビューを果たした実績からの6月のDJポリス起用と相成ったわけです。不祥事が続く企業の会見コンサルタントとして起業すれば引っ張りだこ間違いなしでしょう。

    著者プロフィール:
    同志社大学心理学部教授。博士(心理学)。 専門は社会心理学。人が自然災害や科学技術のリスクとどう向き合うのかというリスク認知研究、および、リスク管理組織に対する信頼の研究を進めている。著書として『安全。でも安心できない』(ちくま新書)、『リスクのモノサシ』(NHKブックス)、翻訳書に『リスク』(丸善サイエンス・パレット)。論文”The Unintended Effects of Risk-Refuting Information on Anxiety”がRisk Analysis誌の2013年最優秀論文賞受賞。

  • 信頼についてを対話形式で教えてくれる新書。
    コミカルな掛け合いが面白く、なかなかうまい手法だなと感じた。
    題材として、泣いた赤鬼や東日本大震災など状況が想像しやすいテーマを選定し、信頼を失ったり構築したりするにはどういったことが大事なのかを解説してくれる。
    あとがきにもあるが、爆発時計の例えは非常にわかるやすく、抽象的な信頼における説明性の事例としては非常によかった。

    ◆目次
    1日目 泣いた赤鬼への信頼
    2日目 信頼の特徴
    3日目 価値共有から信頼へ
    4日目 信頼危機状況での価値共有
    5日目 信頼の決め手の変動
    6日目 信頼を得るためにできること
    7日目 東日本大震災後、不信の波及は起こったのか?

  • 信頼をテーマにした社会心理学の科学的考察。
    「信頼学」という言葉は著者の造語だろうけど。
    先生と学生の軽妙な掛け合い形式で、気軽に読めるし、内容も難しくはない。

    まず、信頼を生み出す3つの要素が提示される。
    (1)能力の高さ
    (2)動機づけ(人柄のよさ、真面目さ)
    (3)価値の共有

    特に大事なのが3番目の「価値の共有」。
    対象となる事柄をどのように捉え 、その中で何を重視し 、どういったプロセスや帰結を望むか、そういった価値の主要部分を相手と共有しているという認識があってこそ信頼は生まれる。
    単なる「利害の一致」「共通の敵(敵の敵は味方)」とは異なる。

    そして、信頼には非対称性という特徴がある。
    一般に 、信頼は得にくく失いやすい。
    信頼構築には時間がかかるが 、信頼の崩壊はあっという間に起こる。

    また、信頼が危機に瀕するときほど「価値の共有」が重要性を増す。
    信頼の低下を生むような問題・不祥事を起こしてしまった場合、問題を生じさせた部分について組織の能力を向上させることそれ自体は、再発防止という観点では意味のあることである。
    が、信頼という点では、能力向上はそれほどその回復に寄与しない。
    問題が発生したときにこそ、信頼回復を目指してメッセージを送ろうとする相手の価値を理解する姿勢が重要になるのだ。

    信頼回復のために打ち出す対策が、社会からどう受け止められるものなのかによっても、何が信頼回復により大きく寄与するかは異なってくる。
    その対策が、なすべきこととして衆目の一致するところであるような場合には、対策を実行する能力があると見なされるかどうかが信頼を左右する。
    一方、対策への賛否が分かれているような場合には、公正な姿勢であると見なされるかどうかが重要となる。

    不祥事によって低下した信頼を高めるために、まず必要なことは、積極的に対象者との価値の共有を図ること。
    そして、もし不祥事を再発させてしまった場合に自身への大きなダメ ージが連動して発生するような仕組みを、自発的に導入すること。
    それが信頼回復に寄与する。

    この本は、企業や政府部門などが、社会一般や消費者からの信頼を如何にして得るか、或いは、不祥事を起こしてしまった場合に如何に信頼を回復するか、という視点で書かれている。
    が、基本的な考え方は、個人間の信頼関係にもそのまま適用できると感じた。
    やはり、価値の共有、相手が大切にしている価値を尊重し理解を示す姿勢なくして信頼関係は生まれないのだと思う。

  • どちらかというと、「組織的な信頼」寄りでしょうか。
    「個人的な信頼」の部分も、もう少し厚いとより良かったかなと思います。

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著者プロフィール

1962年生まれ。同志社大学卒業。 同大学院の心理学専攻を単位取得退学後、 日本学術振興会特別研究員、静岡県立大学、帝塚山大学を経て現在、同志社大学心理学部教授。人が自然災害や科学技術のリスクとどう向き合うのかというリスク認知研究、および、リスク管理組織に対する信頼の研究を進めている。著書に『安全。でも、安心できない……』(ちくま新書)、『リスクのモノサシ』(NHKブックス)、『信頼学の教室』(講談社現代新書)などがある。

「2021年 『リスク心理学』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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