5編収録の短編集
面白かったと感じたのは3/5作品。
「怪人村」は久しぶりに帰郷した主人公の故郷の村が、村おこしで大変なことになっていた話。
特産品も、名産もない村、そうだ!ないなら自分たちが特産品になればいいんだ!ということで村人達がドクターモローよろしく
奇怪な人体改造手術を受けて怪人だらけになっているという話。
その怪人の描写が良かった。大きすぎる眼帯をした母「ものもらいなのよ」と言うが、実は目がある部分には金魚鉢が入っていて、魚が泳いでいる。
明らかに二人羽織と思われるような肩の盛り上がりがある父は、服の下に3体の地蔵を埋め込まれていた。その地蔵が主人公に「大丈夫か?」と話しかけてくるところが最高にシュールでいい。
「粘膜人間」の飴村さんや「少女庭国」の矢部さんと同じで、この作者の頭の中どーなってんだろ??と脳の構造が気になる1作品。
「女瓶」は以前読んだ「瓶人」のスピンオフ作品。現代のフランケンシュタイン、バタリアンリターンズのような「愛する人を生き返らせる」または「死なせないようにする」という、
世の理に抗った結果起こる悲劇?の記録。
「瓶人」は父と息子の親子愛を、今回の「女瓶」は男と女の愛情を描いた。「瓶人」で冷酷な母親だったサエコがまだ子供で、大好きな兄と暮らせていた時のお話。どうしてサエコが瓶人に冷たくするのかが
この「女瓶」をみるとわかる。愛ゆえに、辛く悲しい結果に至るという王道のストーリーだけど、瓶人の制作過程の設定や世界観の描写が作者独特の、一見正常なようでどこか狂った違和感のある文章で綴られていて
やっぱり面白い作品。
「地獄工場」独立して起業した会社が行き詰まり、金策の毎日が地獄と感じる主人公と、居酒屋で偶然出会った「私の職場も地獄なのですよ」と語る男性。
同じ地獄なら交換しましょうか?ということで商談成立。2人は立場を入れ替えることにした。男の職場は本物の地獄だった。
昔、絵本や御伽話で聞いた「血の池地獄」や「灼熱地獄」なんかは、今はシステム化されて効率的に罪人を苦しめられるようになっていることや、牛頭・馬頭の上司が獄卒達の権利を踏み躙って
労働搾取している現実、またそこに労働者階級のストライキや暴動が起こったりしているというアイディアが面白かった。「気づかなければそこは地獄ではない」というオチは
深いようで、いまいち弱かったように思う。
残念ながら1作品「ぼくズ」は2回読んでもちょっと意図がわからなかった。
3人の僕が妄想と現実の同時進行で動いてるってこと??
「キグルミ」もなんとなく、わかるようでわからない。けど、なんとなく瓶女のような哀愁感漂う作品。岩城さんはこういうの上手いと思う。
道理が通っているようで、不条理でどこか哀しいお話。
作者の持ち味である「日常のようで、決して正常な状態ではない日常」の描写が随所に見られて
何度も不気味の谷に落ちるヒュッとした快感を味わえる一冊。岩城ファンなら読んで後悔しない。