日経ビジネスのウェブサイト上で著者が亡くなったことを知った。その時ふと読んでみたのが本作である。
著者のパーソナリティについての認識は読者によって分かれるかもしれない。彼は国内広告業界では第一人者として有名だそうだが、私は広告に関心がない。私にとっての認識は彼がコラムニスト小田嶋隆の悪友という点であるということ、そして日経ビジネスの連載記事「人生の諸問題」で登場した彼のユニークな人生、これが私の興味である。
本作は自伝的小説ということで、正確には彼の自伝ではない。内容には脚色や虚構がかなり含まれるようだ。たとえば「人生の諸問題」では息子の教育についてのくだりがあるが、本作では主人公に息子は生まれない。また父親の借金は5億とされるが、人生の諸問題では3億である。登場人物の名前はおそらく全員仮名だろう。
いっぽうで真実と思われる記述も多く存在する。広告業界就職後に経験する労苦や興奮、特徴的な家族間に起こる事件やそこで生じる多くの悩みや悟り。著者の特徴的なパーソナリティを起源とする情緒や論理には、他からの借り物っぽさでない真実味を感じる。本作に対する私の主な関心は、著者を通した小田嶋氏の人間性であったが、若松という名で登場する彼は期待通り重要人物として登場し、バカ話ばかりしていた人生の諸問題とは違ったシリアスな関係性を見せる。
本作は人生の諸問題の読者に対するファンアイテムとしての価値は十分にあると思う。