- Amazon.co.jp ・電子書籍 (178ページ)
感想・レビュー・書評
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持てる者のつらさと強さ
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ハグの怪我を起点としたエピソードに感情揺さぶられる
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旅の前と後とで、竹本君の作る塔の精度が変わっていることに成長を見ました。やはり修復士の仕事を見て、足場をきちんと作ったりするのを見たのはおおきいですね。
「僕は ただ 左右交互にペダルを踏んだだけ それを知ってるから もう ボクは大丈夫」と言う、竹本君はものすごく成長したなと思う。
描くこと=生きること、の、はぐちゃんに訪れた試練、、「描きたい」「描きたくない」の選択ではなく、描くしかなかった人が試練に抗う様は、辛くて、美しいと思った。 -
さあ物語は終わりに向け、
クライマックスの調べを奏で始めました。
9巻に勝手にタイトルをつけるとしたら、
「天才、それぞれの葛藤」
といったところでしょうか。
少女漫画として零点だなあと思いますが、
静かで激しい闘いが展開します。
森田さんとはぐちゃん。
二人は芸術の才能に恵まれた天才です。
お互いの才能を認めて刺激し合い、
ある意味心を通じ合わせています。
凡人の理解を超えた天才ならではのやり方で、
コミュニケーションをとります。
周囲から見ればその様子は子ども同士。
お互いにとって、
同じ視座で世界を眺めることのできる
初めての存在なのかもしれません。
けれど森田さんは一定の距離を置いて、
それ以上はぐちゃんに近づこうとしないのです。
はぐちゃんが距離を詰めないのは、
恋愛にも人付き合いにも奥手だからだと分かります。
でも森田さんは相手のことなんかお構いなく、
ずかずか行くタイプです。
なぜなんだろうと不思議に思っていました。
その謎がここにきて明らかになります。
彼が高額なアルバイトをするのには理由があったのです。
そう言われてみれば、
安い下宿に住み出費も極力抑えています。
お金が、それも目も眩むほどの大金が必要だったのです。
彼の家庭環境、生い立ちが語られます。
彼にはやらなくてはいけないことがあった。
そのためには、恋をして一人だけ
幸せになるわけにはいかなかった。
心を恋だけに向けるわけにはいかなかった。
だから好きだという素直な気持ちを持ちながら、
一線は越えようとしなかったのです。
卒業が近づくはぐちゃんも決断を迫られます。
進路をどうするのか。
自分の才能を思い切り発揮してみたい想いと、
そのためには誰かの助けが必要だという葛藤です。
森田さんならGIVE&TAKE GIVE大目で、
素直に誰かの助けを得られそうですが、
生真面目なはぐちゃんはそうはいきません。
しかもちょっとしたヘルプではなく、
生活を懸け自分をフォローして欲しいというお願いです。
他者の人生を背負う重たさに戸惑い、
自分はそこまで価値のある存在だろうかと
不安も募ります。
加えて、はぐちゃんの才能を揺るがす事件が起こります。
はぐちゃんの才能が根本から失われかねない危機です。
芸術の道を選ぶなら、誰かの助けが不可欠となります。
細々と自分の出来る範囲でやるなんてことは、
できなくなります。
二人はそれぞれの地でそれぞれ闘います。
身を寄せ合って、同じものを目指せないだろうか。
繋がりを感じながらともに戦うことはできないだろうか。
そんなことを感じさせます。
切ないなあ。 -
森田の過去篇から始まる本巻は、何か穏やかだがもの悲しい、ちょっと暗い照明の下にいるようなイメージだった。
そして物語は急転直下、終息に向かっていく。それは急激に訪れた終末のように見えて、1巻からずっと通奏低音で奏でられてきたテーマでもあったのだ。
本作のテーマ。それは「終わっていく」という事である。森田の美大卒業にまつわるエピソードから本作はスタートしており、はじめからおわりが見据えられていることがわかる。
そして当然だが、おわりには「死」が連想される。本作における「死」とは何か。いや、逆説的に言おう。本作で「生きていた」人物とは誰だ。
竹本や山田や真山は生きているのか。いや、確かに生きているが、しかし、彼らはある意味死んでいる。「美大生」として死んでいる。恋愛のみが青春の象徴になってしまった彼ら彼女らは、生きているが死んでいるのだ。
では森田は?森田も実は光ではない方向に邁進していた事が本巻で暴かれる。彼も実は死んでいたのだ。
そう、答えははぐだけだ。はぐだけが絵を描いていた。彼女だけ生きていた。それが本巻において大きな躓きがはぐを襲う。彼女は生きるのか、死ぬのか。最終巻はそこを注視するべきだろう。