本書の主人公は,人工知能開発に関わっているIT技術者という設定だ。しかし,mixi的なSNSのウェブページを保全するためにそのページを印刷し,スキャンしてクラウドにアップロードするとか(Evernoteのようなアプリケーションを使って保存するか,PDFライタでPDF化し,必要なページだけ印刷すればよいのでは?),画像ファイルにEXIF情報が含まれていることを知らないとか,やや不自然なところがある。もっとも,それは瑕瑾であって,全体として満足のいく読書体験だった。
このタイトルを見て,二次元嫁を手に入れようとする女性の話だと思った人はちょっと鋭い。本書に出てくるものは正確には二次元嫁ではないのだが。念のため断っておくが,本書の著者がそれを意図してこのタイトルを付けたと本気で信じているわけではない。
生者でも死者でもよいが,実在の人物を人工知能で再現できるかという点には興味がある。恋愛対象を再現したいという欲望には共感できるところもあるが,結局は作り手の自己満足に終わるのではないか。なぜなら,恋に落ちた人は恋愛対象を理想化して,本来の人格とは別の人格を仮想していることがほとんどだからだ。恋に落ちた人が時にナルシシズムに陥っているように見えるのは,実はその人が単に自己の内側にある仮想の偶像を見ているにすぎないからかもしれない。それを客観化するために本書の主人公は「デバッガー」を用意するが,「ぼくのかんがえたさいきょうのかのじょ」像を完全に修正することはできなかった。恋を諦めるまでは。