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感想・レビュー・書評
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ホワイトファングはインディアンやならずものの飼育下で半端ないやさぐれオオカミに成長するが、裕福な主人に引き取られた後は愛に溢れた余生を過ごす。
「白い牙」は小学校の頃、小学館の少年少女世界文学全集というシリーズで読んだ。これは、まあ豪華絵本版といったもので、かなり省略したストーリーと大きなカットがふんだんに入っている大判の子ども向けのもので、ストーリーもさることながら非常に質の高い絵がこれでもかとたくさん使われていることが印象的だった。
図書館で古い訳本(1975年)を見かけたので、折しも谷口ジローがマイブームになっていることもあって小学校以来の再読。
子どもの頃に読んだものの印象とは全然違っていて(それは当然だろう)、実に密度の高い文章でとても新鮮だった。ストーリーそのものは頭に入っているので大差ないのだけど、主人公「ホワイトファング」(こちらの作中では白いきばと表記されているが、子どもの頃に読んだ印象で自分の中ではホワイトファングに定着している)の生き様を背景に、哲学的に、情緒的に、あるいは宗教的に自然や動物や人間の営みを描く、その描写が豊かでとても読み応えがあった。小学生の頃と違った印象といえば、ホワイトファングのあまりの凶暴ぶりで、とにかく死と流血まみれの展開の容赦なさにはさすがにここまでのものは子どもに読ませられずに手加減したのだろうな、と思わされた。それからホワイトファングに関わる3人の三者三様の関わり方の描写が実によくて、インディアンでは犬は愛玩ではなくて使役動物であって、お互い支え合う意味でのパートナーとは信頼の意味が違う。ならず者は信頼も愛情ももちろんないし、裕福な白人にとってはほぼ愛玩動物(ペット)で、無償の愛がホワイトファングの心を開かせる。この描き分けからロンドン自身がたくさんの動物と人間の付き合いに触れてきたことがわかるし、当時の社会構造も十分に書き込めているのがすごい。
ともあれ、一匹のオオカミの生きた道を本当に生き生きとリアルに、豊かに描いてみせるジャックロンドン(と訳者の)筆致を存分に楽しめた。やはり犬好きとしてはバイブルに連ねるべき良書だ。
ただし難を言えば、ちょっと宗教がかった部分(キリスト教っぽい匂いが強い)や、最後に無償の愛を与えてホワイトファングの心を開かせるのが裕福な白人男性という点が気に触る。これは時代的な側面なのでロンドンのせいではないだろうけど、今の世だったらどう書くだろうな、とも思わされた。
「白い牙」は名作なのでさまざまな訳で出版が重ねられたり、安彦良和が関わってアニメになったりしてるらしい。まだまだ掘り下げると面白そう。詳細をみるコメント0件をすべて表示