心理療法家の河合隼雄先生が、著書で児童文学を紹介されたり、読むことをお勧めされたりすることが多いので、読んでみることにした。
エーリッヒ・ケストナーの作品では、この「飛ぶ教室」と「二人のロッテ」の紹介があったが、こちらを読んでみた。
「飛ぶ教室」とは奇抜なタイトルだが、本書の内容はこのタイトルからイメージするものではなかった。
第一次世界大戦後のドイツのとある寄宿学校に通う子供たちの物語で、時期はクリスマスの直前。彼らがクリスマスに演じるという劇のタイトルが「飛ぶ教室」という設定で、その配役たちが繰り広げる校内ドラマと言える。
本文に入る前に、エピローグ的に、このクリスマス劇の脚本を書いた少年ジョニーの身の上話が紹介される。
少年ジョニーは何もわからない少年期に親から捨てられ、船に乗せられ見知らぬ土地へ流された。その土地で育ち、寄宿学校で暮らす彼と彼の仲間たちのドラマをケスナーが書いている。
ケスナーはこの物語を通して何を伝えたかったのか。心理療法家の河合先生は、なぜ本書を推奨されるか。
ケスナーは、まえがきにこのようなことを述べている。
「人生、何を悲しむかではなく、どれぐらい深く悲しむかが重要なのだ。誓ってもいいが、子どもの涙は大人の涙より小さいということはない。大人の涙より重いことだってある」
当時、ドイツはナチスの統制下で、出版規制されていたなかで、出版が許された児童文学を通じて、大人にも子供にも重要なメッセージを残したかったのかもしれない。
河合先生は、大人になっていくにつれて忘れ去っていく大事な何かを、本書を通じて思い出せと言われているような気もする。