中西智明というミステリ作家をご存知だろうか。1990年に、講談社ノベルスから初版刊行されたこの作品が、唯一の単行本である。以下に、過去に書いた感想を転載する。
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なぜ著作リストがないのかというと、中西智明さんの著作は本作一作のみだからである。同志社大学在学中の1990年10月に講談社ノベルスから刊行され、1993年7月に講談社文庫化されたが、それ以降次作は刊行されず、本作も絶版となってしまった。
そんな本作だが、本格ミステリーが好きな方限定の作品であると、まず断言しよう。ストーリー性は皆無。単純かつ大胆なトリックこそミステリの命、と言ってはばからないだけあって、読者を騙すことのみに特化している。一切の濁りのなさは、さしずめ本格ミステリーの大吟醸とでも言うべきか。
タイトル通り、死体と真犯人の消失を扱っている。大きく分けて三つの罠が仕掛けられているのだが、わははははは、これはやられました。露骨すぎるくらいの伏線が、あっちこっちに張られているではないか。文庫版では、さらに堂々と…。でも騙された。実に愉快痛快。うーん、至福の一時であった。
と僕は拍手喝采を送りたいのだが、人によっては青筋立てて怒りまくることうけあいだろう。本格のスピリットを凝縮した作品であると同時に、本格嫌いな人が指摘するところの欠点を凝縮した作品である。それでいいのだ。だからこそ、綾辻行人さんや我孫子武丸さんの後押しが得られたのだろう。
一日も早い再会を期して…とあとがきは結ばれているが、結局再会は果たされぬまま。本作のような作品でデビューしてしまうと、後が続かなくなるのも無理はない。読者を騙し続けるプレッシャーの大きさたるや、さぞかし神経をすり減らすに違いない。常に際どい勝負を強いられるのだから。
この先、中西さんの新刊が刊行されることは期待薄だが、もしも刊行されたら著作リストを作成しよう。同時に、本作の復刊もお願いしたい。本格好きを自認する方は、是非古本屋を探してみよう。手に入れるなら、ノベルス版より文庫版がお薦めだ。その理由は、ここには書けない。
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僕は書籍版も所有しているが、今回電子書籍版を購入したのには、理由がある。電子書籍限定で、『中西智明掌編集』が、特別書き下ろし収録されているという。かなり期待して、その掌編集を読んでみた。
………。7編とも、掌編と呼ぶには中途半端に長いが、何よりとっても期待外れ。まとめ部分もとってつけた感じだし、お金を取れるレベルではないだろこれ。「結界」の話とかは、膨らませる余地がありそうだが、あくまで本編のおまけと思っておいた方がいい。
ミステリ業界との接点は持っていることはわかったが、本気で単行本第2作を出す気はなさそうである。あ、本編は本格好きならお薦めですよ。