- Amazon.co.jp ・電子書籍 (251ページ)
感想・レビュー・書評
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本書『キッチンコロシアム』は、1993年から1999年までフジテレビで放送されていたバラエティ番組「料理の鉄人」をモチーフにした小説です。
(本文中に出てくる和・洋・中の鉄人たちの名前も番組の名前をそのまま使っている)
ストーリーに淀みがなく、初め、すべてが分からないところから徐々に全体像が見えてくる感じのストーリー展開が読みやすいし、引き込まれました。
本書では、鉄人と挑戦者の料理バトルの場面を中心に物語は展開しますが、
料理という題材をここまで熱く書いた作品を自分は知りません!
本文中で、和の鉄人道場六三郎の言葉として対戦対手に対し、
手を加えすぎて、本来の味を損なわせているという意味を
「しゃぶしゃぶはよかったがサラダはいただけない。
あれは旨すぎるな」
と表現するのはうならされました。
「ただの使用人に過ぎなかった。12年もの時間を使い料理を学んできたつもりだったが、それはあの店の料理を完全にコピーできる技術を習得するための月日だった。そこには自分自身の料理など一つも存在していない。」
と、負けた料理人たちの葛藤の様子もリアリティがある。
試合に負けた日の苦悩というのは鉄人たちも同様で、
「助手の子が鶏に油掛けをしていた時にちょっと雑だなと感じてはいたんだが、それを注意しそこなった。カレームのような挑戦者が相手の場合、どっちがおいしく作れたかという戦いにはならない。どっちが失点を多く積み上げてしまったか、それが勝敗をわける。それがわかっていながらおれはその注意を怠ったわけだ。」
と自らの料理を猛省する。
料理バトルは悔しいだけでなく、バトルを通して成長できるというのが本書の面白いところだと感じました。
「五十を過ぎている僕が、いまじゃ持売れるに勉強をし始めているんだ。鉄人をやるまではなじみの客相手の料理でよかったけど、いまは日本中の人が僕の料理をみている。挑戦者に勝つ以上にその人たちをがっかりさせたくない。」
この意気込みで料理をしているシェフは日本中にもあまりいないだろうと思う。
この料理バトルの裏側で繰り広げられる駆け引きや因縁、浮かび上がる家族の物語とは?
本書は、バトルの熱さ、人間ドラマ、ミステリー、料理、陶芸など様々なテーマが入り乱れているものの、そのすべてがそっくり料理されていて、様々な味が楽しめる絶品です。詳細をみるコメント0件をすべて表示