魔導の矜持 〈真理の織り手〉シリーズ (創元推理文庫) [Kindle]

著者 : 佐藤さくら

• 東京創元社 (2017年11月13日発売)

感想・レビュー・書評

[山川欣伸さんの感想 · 2024年1月22日]

〈真理の織り手〉シリーズ第3弾となる本作は、魔導士への迫害が激しい世界が舞台。落ちこぼれの魔導士の卵デュナンが、仲間や敵と出会いながら成長していく物語です。デュナンは自分の師や兄弟子たちが殺されたあと、弟弟子と妹弟子を連れて逃げる途中で、貴族の庶子ノエと元騎士のガンドに助けられます。しかし、彼らは魔導士ではなく、デュナンたちは自分たちの正体を隠さなければなりません。そんな中、デュナンは自分の魔力に秘められた可能性に気づき始めますが、それは同時に危険な選択を迫られることでもあります。

この本の主要なテーマは、「自分の力をどう使うか」ということだと思います。デュナンは自分の魔力を隠すことで生き延びることもできますが、それでは本当の自分を生きていると言えるでしょうか。一方で、自分の魔力を開放することで、他人や社会に迷惑をかけることもありますが、それでも自分の信念を貫くべきでしょうか。デュナンはそのようなジレンマに直面しながらも、自分なりの答えを見つけようとします。その姿勢は、私達読者にも自分の力や役割について考えさせるきっかけになるかもしれません。

心に残った場面や言葉は、デュナンがノエとガンドに助けられたときに言った一言です。これは、彼女が自分たちの正体を隠すために嘘をついた言葉ですが、同時に彼女の心情を表しています。彼女は魔導士であることを否定したくないという気持ちと、魔導士であることを恐れるという気持ちとの間で揺れ動いています。この言葉は、彼女の内面の葛藤を象徴しており、物語の展開にも大きく関わってきます。

この本は、魔法や冒険が好きな人はもちろん、自分の力や使命について考えたい人にもおススメです。

[明るい朝さんの感想 · 2022年10月26日]

ファンタジーの骨格に、非常に現代的な、というか現実的な問題を被せてくるシリーズだなと思う。魔法にわくわくしたり、初めて見る世界や情景に浸ったり、ストーリーが深刻でも幻想世界はどこか浮世離れしながら没入するものだと思っているが、この作品は問われるもの、あるいはその問い方が卑近で、半分現実を見ているような気分で読み進めている。それが最初は居心地が悪くもあるのだが、中盤あたりから一気に読み進めてしまう。私にとってはちょっと不思議な感覚の作品。

[mmkomaさんの感想 · 2022年7月17日]

主人公とその弟子たち、そしてそれを取り囲む人たちの物語。主人公の優しさが事態を難しくする場面もあったが、最後は最小限の犠牲で収まった。
人は差別するものという部分はその通りと思った。
また、所々、胸が熱くなる場面もあり、おもしろかった。

[yoshio2018さんの感想 · 2020年5月12日]

ラバルタのある私塾で魔術を勉強するデュナンは落ちこぼれの魔導士だ。仲の良い姉弟子のエステルとは違って、勉学でも魔術でも人並みにはできない。そんなある日だった。村で魔導士狩りがあり、村人達が魔導士を見つけては捕らえ殺戮していく。姉弟子のエステルに弟弟子や妹弟子を連れて逃げてくれと頼まれたのは。落ちこぼれの魔導士の自分がどうやって弟妹弟子を連れて逃げたらいいのか、泣きたくなるぐらいのプレッシャーだった。必死に逃げるそんなデュナン達を救ったのは貴族の庶子であるノエと元騎士のガンドだった。魔導士から追われてると嘘をついて助けを求めたのだった。