ネガティブ・ケイパビリティ 答えの出ない事態に耐える力 (朝日選書) [Kindle]

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感想・レビュー・書評

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  • ワンワード。なので、いまどき風の嵩高紙のハードカバーであっという間に読み終わる本を仕立てることもできそうなところ、著者はあえてじっくりと、キーツやビオンの生い立ちや古典などを詳細に引用して遠回りしながら説いていく。まさにこの本自体がネガティブ・ケイパビリティである。じっくりしすぎて、読後に、あれ?源氏物語の何がネガティブケイパビリティだったんだっけ・・とわからなくなっていたりもするが・・・><

    しかし、せっかちで人を追い立てがちな自分にとっては常に頭の片隅で意識しつづけないとならない考え方だと思った。

    P84 目の前の事象に、拙速に理解の帳尻を合わせず、宙ぶらりんの解決できない状況を、不思議だと思う気持ちを忘れずに、持ちこたえていく力がここで要請されます。言い換えると、生まれたばかりの手つかずの心、赤子の心で、死にゆく患者と対峙するのです。誰でも一人で苦しむのは耐えられません。誰かその苦しみをわかってくれる、見ている人がいると、案外耐えられます。

    P89 何事もすぐには解決しません。数週間、数か月、数年、治療が続くことがあります。しかしなんとかしているうちに何とかなるものです。これが<日薬>です。もう一つの<目薬>は「あなたの苦しい姿は、主治医であるこのわたしがこの目でしかとみています」ということです。
    ー人の病の最良の薬は人である(セネガルの言い伝え)

    P100 困りましたね、せめて眠ったほうがいいですよと慰め、少量の睡眠導入剤だけは処方します。しかしこれとて根本的な解決には、もちろんなりません。Hさんが生き方に折り合いをつけるまで、困りましたねと同情するのみです。【中略】ネガティブ・ケイパビリティを知っていなければ、私はとっくの昔に患者さんから逃げ出していたでしょう。どうにもならない問題なので、もう来てもらっても無駄ですと言って、追っ払ったかもしれません。この時、私はネガティブ・ケイパビリティを発見した(詩人の)キーツに、それを再発見した(精神科医の)ビオンに、また論文に仕立てて私に知らしめた米国の医師に、心の内で感謝しています。耐えている時、わたし自身の精神科医としての記憶も理解も欲望も、消え去っているような気がします。

    P111 ギャンブル症者の脳の活動を、脳画像検査で検討すると、「勝ちにも負けにも鈍感になっている」という結果が出ました。【中略】ですからギャンブル症者は、必然的に穴ねらいになります。穴ねらいですからやはり負ける確率も高いのです。これはギャンブル症者の脳の報酬系が、ギャンブルによってゆがめられ、壊されてしまっているからです。その脳機能を回復に向かわせるには、多大な努力と時間が必要なのは言うまでもありません。

    P119 なるほど祈祷師は、私たち精神科医の先達だと、納得したわけです。何も出来そうもないところでも、何かをしていれば何とかなる。何もしなくても、持ちこたえていけば何とかなる。Stay&Watch 逃げ出さず、踏みとどまって、見届けてやる。

    P149 詩人と精神科医は、違いよりも似た面が多いのです。【中略】精神科医はなんとか自分なりに工夫し、患者と相談しつつ道を歩いて行くしかないのです。悪く言えば五里霧中、少しマシな言い方をすれば、二人で月の光の下、岸の見えない湖をボートに乗って漕ぎ進めていくようなものです。オールを漕いでいるのは患者さんの場合もあるでしょうし、治療者が患者さんの指示でオールを漕いでいる場合もあるでしょう。

    P195 不登校というのは、本人が選び取った避難所です。底を追い立てるのは、天災で避難所に逃げ込んだ人々を追い出すのと同じなのです。せっかくの避難所ですから、本人に折り合いがつくまでとどまってもらうのが一番です。【中略】親も同じようにネガティブ・ケイパビリティを持つ必要があります。我が子が折り合いをつけて進む道を見出すときが来るまで、宙ぶらりんの日々を、不可思議さと神秘さに興味津々の眼を注ぎつつ、耐えていくべきです。

    P236 平和を維持するためには、為政者は特に、そして国民一人一人が、ネガティブ・ケイパビリティを発揮しなければならないのです。

  • 精神医療とネガティブケイパビリティという組み合わせ理解はわかりやすかった。ロジカルシンキング・問題解決能力・スピード重視といった現代のビジネスのスキルセットでカバーできない状態をどのように「抱える」かという視点。人に対して働きかける仕事、特に福祉の分野では、そういう考え方もあるのだ、ということを理解して、「じっくり見守り、耐える」ということを選択肢として持てると、営みの持続可能性や、質が高まるのではないかと思う。
    著者の嗜好が強い文学作品の紹介・ネガティブケイパビリティとの関連付けは、個人の感想感が強いなとは思ったが。

  • シェークスピア、源氏物語、など例え話が高尚のため基礎教養がないと難しい内容だった。分かりやすい要点があるような本ではなく、私は読みにくかったのでエピソード飛ばしながらじゃないと読めなかったです。基礎教養つけたいなと思いました。

  • ネガティブケイパビリティに関してその出自や歴史的にネガティブケイパビリティが発揮されていたとき、逆に発揮されていなかったときについて述べている。
    物語として面白いなと思ったがいわゆる自己啓発本的なものを想像して読み始めた自分にとっては物足りなさがあった。
    ところどころ使われる単語がむずかしいなと感じるところもあり、勉強がまだまだ必要だなと思った。

  • 今大学2年生なのですが、高校生のときに図書館で借りたことがあるなと思い出しました。
    司書さんの選書センス抜群だなと思うぐらい素晴らしい本でした。
    ネガティブ・ケイパビリティという言葉を初めて聞いた方にはおすすめできます!

  • 好意的な評価が多い一方で、本書の価値を断固として否定する評価もみる。その上での私の評価としては、著者の意見を肯定的に捉える。
    医療の場において答えが出ないことはたくさんあり、それについて正解答を追い求めるのが大切ではあると思うけれども、どうにも解決できないことがあることを受け入れることもまた大切だと思う。著者の、キーツや紫式部に対する考察については私は判断できず。

  • ネガティブケイパビリティの概念を知れた。精神科医の実務を通じ得たこの能力の必要さを、現代の性急に答え得ようとする姿勢への批判も交えた内容であった。共感できる点もあり参考になった。
    キーツ・紫式部等のエピソードが異様に多く読み疲れした部分があった。

  • 答えのない問題にジッと中腰で耐える力
    精神科だけでなく、プライマリケアの現場でも強く求められる能力ですね。
    答えが出る問題の方が少ない、たしかにそうなんだよな。

  • 世の中には答えのない問題のほうが多い
    勝手に問題を定義して解くだけではいけない
    どうにも出来ない状態を受け入れて耐えていくこと力が必要

  • ネガティブケイパビリティ:答えのない状況に耐えうる能力

    ポジティブケイパビリティ:答えのある状況に正確/迅速に対応しうる能力

    学業成績と研究能力に相関があまりないと聞くけど,両者で必要となるケイパビリティが異なるからだと思った.

    プラセボ(本物の薬と同様の外見、味、重さをしているが、有効成分は入っていない偽薬)がもたらす有益な効果をプラセボ効果と呼ぶが,プラセボがもたらす有害な効果をノセボ効果と呼ぶらしい.しかし,ノセボ効果は偽薬に限らず実薬でも生じるらしい.

    教育がポジティブケイパビリティを養成/評価しがちなのはたしかにそうだと思う.とくに解決できない問題を初めから眼中に置かない場合があてはまると思う.

    ただし,ある程度のポジティブケイパビリティがないとネガティブケイパビリティを育てるのは困難と思う.

    ポジティブケイパビリティとネガティブケイパビリティをバランスよく育てるのが教育者や親の腕の見せどころだと思った.

    江戸時代の子どもは,返り点のみ振られた漢文を内容を知らないまま素読させられていたらしい.
    筆者はこの江戸時代の教育が現代教育の対極だと述べていた.

    現代教育でネガティブケイパビリティを育むには,何回も繰り返していくうちに意味が少しずつ分かる経験や,いくら繰り返しても意味が分からずとも慣れてくる実感を教えるのが良いかもしれないと思った.

    主に医療に関するネガティブケイパビリティを扱っているが,芸術・教育・研究・伝統治療などの分野におけるネガティブケイパビリティを扱っていた.

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著者プロフィール

1947年、福岡県小郡市生まれ。東京大学文学部仏文科卒業後、TBSに勤務。退職後、九州大学医学部に学び、精神科医に。’93年に『三たびの海峡』(新潮社)で第14回吉川英治文学新人賞、’95年『閉鎖病棟』(新潮社)で第8回山本周五郎賞、’97年『逃亡』(新潮社)で第10回柴田錬三郎賞、’10年『水神』(新潮社)で第29回新田次郎文学賞、’11年『ソルハ』(あかね書房)で第60回小学館児童出版文化賞、12年『蠅の帝国』『蛍の航跡』(ともに新潮社)で第1回日本医療小説大賞、13年『日御子』(講談社)で第2回歴史時代作家クラブ賞作品賞、2018年『守教』(新潮社)で第52回吉川英治文学賞および第24回中山義秀文学賞を受賞。近著に『天に星 地に花』(集英社)、『悲素』(新潮社)、『受難』(KADOKAWA)など。

「2020年 『襲来 下』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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