帳簿の世界史 (文春文庫) [Kindle]

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感想・レビュー・書評

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  •  表紙の西洋画が印象的。何か面白い話でも聞けるかと期待して、ジャケ買い。
     結論は、そこそこ面白かった。世界史を会計という切り口で見るものですが、個人的には中途半端という印象です(すみません)。世界史の本という言うには狭く、また会計(帳簿)の歴史というには、線というより点での書き方に見えました。

     さて、その中で印象的だったのは、ルネサンス期の商人の苦悩です。
     かつて江戸時代に士農工商と呼ばれ当初は商人の地位はきわめて低かったものの、中期以降は権勢を振るうようになりました。西洋でも類似の状態だったようです。イタリアの成功した商人パチョーニがお金に携わること(きちんと会計を管理していること)がキリスト教の教義に反していることに呻吟し、沢山の寄付を教会にする等、生業の『原罪』に苦悩している点が誠に興味深かった。また、こうした当時の金融業者の社会的地位とその変遷が数点の絵画を例示して説明している点は秀逸です。

     もう一つ。世に名が残る人物・企業がいかに会計を使っていたかを例示されています。近世・近代は精神性では生きていけない時代ですしね。例えばウエッジウッド(陶器)、例えばフランス革命、例えばベンジャミン・フランクリンやトマス・ジェファソン(米国建国の父)です。もうお金の管理なしには組織は成り立たない時代なのです。
     また、19世紀以降の米国鉄道の発達に伴う会計の発展に一章を割いており、ここも面白い。複雑になるビジネスに即し、帳尻を合わせることの重要性(今では当たり前ですが)や監査の必要性等、現在の企業会計と監査につながる牽制関係の萌芽を見ることができます。当然のことながら、こうしたことは2000年代初頭にあったエンロン事件にもつながってゆきます。
     マックス・ウェーバーの『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』にも数回言及されていますが、資本主義の発展を宗教性に基礎づける試みの下地になりうる事例が多く描かれています。

    ・・・
     改めて振り返ると、個人的には今一つです。メッセージが弱めなのです。最終章を再読し確認しましたが、筆者のメッセージは『会計が文化の中に取り込まれていた社会は繁栄する』という事でしょうか。歴史を語っているのにあまりに控えめな。。。 
     いや、個々の章は非常に面白いのです。ただ、書籍として一貫しているメッセージが微弱で、かつ後半部で述べられた企業と監査との関係(フィーをもらっている企業を監査するという)の困難さに対する明確な回答を提出していないところが私には消化不足に感じました。その意味では帯の科白『これほど役に立つ歴史書はない。』は明らかに誇張。

    • yomo77さん
      突然のコメント失礼いたします。本書は拾い読み程度で読みましたが、海外おやじさんのレビューに全く同意見でした。
      面白くないと思っていてもこれだ...
      突然のコメント失礼いたします。本書は拾い読み程度で読みましたが、海外おやじさんのレビューに全く同意見でした。
      面白くないと思っていてもこれだけ解像度高く的確でなおかつ謙虚なレビュー、非常に参考になりました。
      2021/08/19
  • この術をよく使う者は世界を従え、この技を遠ざける者は没落する。
    支配者の爪牙となり遍く世を統治し得る最強のツール。
    それが複式簿記で記録された帳簿♪

    支配と権力の秘密が複式簿記にあるとし、成功と失敗も努力も数値化し夢も希望も絶望をも+−で比定する簿記の示す現実を直視する者に勝利がもたらされ、諸表の示す数値から目を逸らす者に衰退が訪れたると、
    太陽王の栄光やアル・カポネの暗黒帝国の興亡を例に引き記述されてる。

    流行りの 〜世界史 や ○☓△全史 は教養として楽しめるが終わった歴史をまとめた物でどこか日向の香りがする。本作の生臭さ際立つ現在進行形な支配の論理は類書のなかで異彩を放ってる。

  • 拾い読み。
    会計は時代の価値観によって受容の度合いが異なり、すでに会計の方法論が確立されている時代でも騎士道などの価値観により会計による規律が働かないことがある。
    以上がエッセンスと理解した。
    内容については細かいエピソードが並んでいるものの、それらをつなげることで大きな知的な驚きがあるかというと疑問。
    現代の会計およびITによるシステム管理がない状況でいかによいコントロールをするかという仮定の想像をして楽しむうえでは面白かった。

  • 帳簿、そして会計から監査の話、リーマンショックの事までを書いている。

  • 帳簿というか、会計の観点から世界史を通史で振り返ったもの。
    古代ギリシャ・ローマから、中世、現代のリーマンショックまで、会計が歴史上どういった役割・価値を持っていたかを記載している。

    個々の時代はよくまとめられていたし、面白かった。ただ、全体を通してぶったまげるような衝撃的な事実・テーマがない。まあ世の中の歴史事項すべてに衝撃の事実があるわけではないので、仕方ないのだけども。

    以下、面白かったところ
    ・古代では奴隷が会計をやっていた。なぜなら、不正をしたら拷問をして吐かせることができるから
    ・複式簿記が本当に大発明ということが面白かった
    ・カルマのような考え方含め、割と帳簿的考え方は全世界共通で持っている
    ・複式簿記の発明者はダ・ヴィンチの教師だった。
    ・ルイ14世は昔はコルベールの影響で帳簿好きだったが、嫌いになっていき、没落した
    ・鉄道によって会計は更に複雑・発達した
    ・会計が正義の時代と疎まれる時代が交互に来ている。

  • 面白かった。
    過去から現在へと会計と社会がどう関わってきたのか、会計がどう進化してきたのかを追うことができて興味深かった。
    まさに世界史をある一側面から追ったような一冊だったので、自分にはハマった。
    そして改めて、会計責任(Accountability)という言葉の元々の想定されているドメインを理解できてよかった。

  • 『権力とは財布を握っていることである』。 アメリカ建国の父の一人である、アレクサンダー・ハミルトンはこう言いました。 中世イタリアからリーマンショックまで、本書には会計と人間の約700年にも及ぶ壮大な歴史が記されています。

  • 帳簿とは何か。生活である。
    会計を日常から切り離したそのときから組織や文化は衰退していくものなのかもしれない、と思った。

  • p.2020/5/19

  • 序章 ルイ16世はなぜ断頭台へ送られたのか
    第1章 帳簿はいかにして生まれたのか
    第2章 イタリア商人の「富と罰」
    第3章 新プラトン主義に敗れたメディチ家
    第4章 「太陽の沈まぬ国」が沈むとき
    第5章 オランダ黄金時代を作った複式簿記
    第6章 ブルボン朝最盛期を築いた冷酷な会計顧問
    第7章 英国首相ウォルポールの裏金工作
    第8章 名門ウェッジウッドを生んだ帳簿分析
    第9章 フランス絶対王政を丸裸にした財務長官
    第10章 会計の力を駆使したアメリカ建国の父たち
    第11章 鉄道が生んだ公認会計士
    第12章 『クリスマス・キャロル』に描かれた会計の二面性
    第13章 大恐慌とリーマン・ショックはなぜ防げなかったのか
    終章 経済破綻は世界の金融システムに組み込まれている
    ソースノート
    日本語版特別付録 帳簿の日本史(編集部)

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