スタートアップ・ウェイ 予測不可能な世界で成長し続けるマネジメント [Kindle]
- 日経BP (2018年5月25日発売)
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前著『リーン・スタートアップ』で、予測不能な不確実な時代における仮説検証型の事業開発の手法を確立したエリック・リースが、ベンチャーから大企業まで共通に使えるマネジメント手法として、アントレプレナーシップを企業内に埋め込む『スタートアップ・ウェイ』をまとめた。
新事業などのイノベーションをマネージするには、従来のマネジメントと切り離した「特区」で、やり方も評価も変えてやるというのが定説であるが、『スタートアップ・ウェイ』では、従来型の「総括マネジメント」とスタートアップ型の「起業マネジメント」を共存させるとしているのがユニークである。そのためにアントレプレナーシップによるマネジメントを全マネジャーが理解し、かつ全社員がアントレプレナーのように行動する機会を与えることを提唱している。
対象としている企業は、GE・トヨタのような大企業、シリコンバレー型の DropBox、AirBnB、インテュイット、さらにはもっと初期のシード段階のベンチャーなど、規模を問わない。ベンチャーでもスケールする時には、総括マネジメントとの両立が求められ、一方、大企業では官僚的になり過ぎた従来型総括マネジメントの中に、どのように起業マネジメントを持ち込むかということで、共通の課題を抱えている。この本では、GE を中心として、さまざまな企業の変革の過程がストーリーとして語られる。いかに「スタートアップ・ウェイ」を採用し、活用していったか、そして会社の文化としてそれを根づかせていったか。
GE は起業マネジメントを、ファストワークスというプログラムとして全社展開している。その一番最初の時、リーン・スタートアップの説明を初めて受けた時の、従来型マネジメントの経営幹部たち、たとえば技術・財務の役員・マネジャーや、品質管理のシックスシグマ・ブラックベルトの懐疑的な態度はよく理解できる。「ディーゼルエンジンの開発に 5年かかるのは当然。1日に50回改修できるソフトウェアと同じことが、できるものならやってみろってんだ」
そういう重役・マネジャーたちが、ワークショップを通じて態度を軟化させ、もしかしたら特定の顧客になら、機能を絞り込んだエンジンの MVP(必要最小限の製品)を使ってもらえるかもしれない、一つのプロトタイプだけなら既存エンジンの焼き直しで数ヶ月で MVP が作れるかもしれないと、ポジティブなコミュニケーションに変わっていく様がビビッドに描かれている。ポイントは「5年後の売上・30年後の計画があるが、その『予測』は正しいのか?かつて正しかったのか?」というエリック・リースの問いかけであった。「予測」が正しいかわからない不確実な状況において、仮説・検証で学んでいくことが必要ではないか…。
スタートアップ・ウェイをささえる 5原則:
(1) 継続的イノベーション
組織の上から下までさまざまな人材と創造性を活用し、新たなブレークスルーを見つける方法
(2) スタートアップを仕事の原子単位とする
実験の出来るチーム、すなわち社内スタートアップを従来と異なる組織構造で支えなければならない
(3) 欠けているのはアントレプレナーシップである
追加したスタートアップは従来の手法とは相いれない新しいやり方で管理する必要がある
(4) 再創業
組織の構造をここまで変えるのは、再創業に等しい。
(5) 継続的変容
一度変容して、そのやり方を会得すれば何度でも変容できるし、変容を繰り返すべきである。
全てのチームをスタートアップ原則に基づいて再編しなければならないわけではない。スタートアップチームが機能できるようにすること、どの社員にもアントレプレナーのように考え、行動する機会を与えることである。マネジャーは全員が起業マネジメントに通じていなければならない。他と違う働き方をしている理由・今までと違う基準での評価を理解しなければならない。人事・IT・法務・コンプライアンスといった門番部門が、スタートアップの邪魔をしないようにしなければならない。