欧州ポピュリズム ──EU分断は避けられるか (ちくま新書) [Kindle]

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  • 相当”ポピュリズム”が嫌いなようだが、頑張って我慢しながら「EUの結成理念・意思決定の仕組みと、それに対する”ポピュリズム”政党の主張」を解説しており、現在の欧州の火種を理解する上で非常に勉強になる良書だと思う。

    その評価の上で改めて読み終えて思うのは、(著者の主張とは真逆と思うが)”ポピュリズム”の何が悪いのか理解できない、ということである。むしろ移民排斥等、”反リベラル”な思想を持つ人を”人気取り・大衆迎合的≒愚か”とイメージづけるために用いられている印象操作のキーワードにすぎないように思う。

    著書ではEUの存在理念は、法の支配を最高位とする「リベラル」(法により少数派も守る)と、民意(≒多数決)を最高位する「民主主義」を合成した”リベラル・デモクラシー”であると説く。その心は、「リベラルもデモクラシーもともに最高位なので、そのバランスをちょうど真ん中でとりましょう」ということだ。

    そして著者は”ポピュリズム”はこのうちリベラルを軽視し、民主主義に寄り過ぎている者たち、だからダメなんだと説いている。しかしながら、「そもそも最近のEUが、リベラルに寄り過ぎていたのでは?その揺り戻しが各国で起きているだけなのでは?」とは思わないのだろうか。「弱者を守るのは美しい」のキレイごとで中東やアフリカから移民を無策に引き受けまくってこれだけ問題になっている、各国で反移民の政党が支持率を伸ばしている中で、「リベラルやりすぎちゃったね」と失政を反省するでもなく、拒否感を示す民意に対し「大衆迎合的!人気取り!ポピュリズム!」と叫んでいるのは冷静さを欠いているように映る。

    そもそものEUのこれまでの歴史自体が、最初は石炭市場の統合だけだったはずなのに、通貨やら域内国境やら次々に(ゴールも示さずに・選挙で選ばれたわけでもない人が)勝手に統合を進めていっているのが歪だし、この時点でリベラルに寄っているように思う。「リベラルに寄り過ぎることは別に問題ない!なぜならリベラルは正しい、政治統合していく欧州は正しいのだから。だから民衆は人気取りの各国政治家に騙されずに、選挙で選ばれていない私たちEU委員会についてこい」という考え方は、良き独裁者の支配に通ずるものがある。上手くいっているときはいい、しかし上手く行かなくなったときは意固地になり…。そういう意味では、著者が”ポピュリズム”とレッテル貼りする、”民主主義重視派”政党の台頭は、リベラルに寄り過ぎたという”過ち”を修正する正常な牽制機能が働いた結果なのではないか、というのが自分の結論である。

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著者プロフィール

中央大学教授

「2023年 『はじめてのEU法〔第2版〕』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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