愛と呪い 1巻: バンチコミックス [Kindle]

著者 :
  • 新潮社
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感想 : 13
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感想・レビュー・書評

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  • 一読して思ったのは、この作者は自分が無いのかな?ということでした。

    自伝的な作品のようですが、作者が四十歳近くになって描いてる漫画であることに留意して読むと、主体性の無さが際立ちます。

    淡々と日常が描かれます。

    父親からの虐待、一家が信仰する宗教、素っ頓狂な思想の同級生、酒鬼薔薇事件。

    虐待は最悪ですよ。そして、心の傷は無論、後々も引きずるとは思います。
    けど……どう見たって主人公はいつまでも空っぽのままです。一反木綿も真っ青。

    実祖母に信仰してよかったか?と問う場面。
    ここは「(宗教は)私のことを救ってくれなかったよ」とでも言いたいのでしょう。口にはしてないけれど。

    酒鬼薔薇事件が劇中に登場しますが、酒鬼薔薇に娘を殺害されたお母さんの著書『彩花へ 生きる力をありがとう』を読み返しましたが、山下さんは逞しく戦い抜きました。山下さんと対照を為す存在のようにも読めました。

    責任の所在をどこかに押しやっても、自分自身の境涯は落ちたまま。乗り越えることなくいつまでも愚痴や文句、嘆きをこぼしているのでしょうか。くだらない誤魔化しで心を癒やすのでしょうか。
    ……敗北の人生とはこのことか!

    思考停止して甘ったれ根性で、自立心も無いという意味では、当世風の作風です。

    自分自身の命と人生に責任を持てず、言動も思考も赤ん坊のままの年だけ取った人に共感を生む作品だと思いました。

    • 夜型さん
      変わろうと行動に移した人は幸福をつかみ取ってます。
      何かしら理由つけて行動しなかったり誤魔化しで済ませたりする人は変わりません。

      応援しま...
      変わろうと行動に移した人は幸福をつかみ取ってます。
      何かしら理由つけて行動しなかったり誤魔化しで済ませたりする人は変わりません。

      応援します。
      2022/04/29
    • 夜型さん
      変わるか、変わらないか、のどちらかです。
      断言します。
      変わるか、変わらないか、のどちらかです。
      断言します。
      2022/04/29
    • 5552さん
      夜型さん

      厳しくも温かいお言葉、ありがとうございます。
      心に深く刻んでおこうと思います。
      感謝します。
      夜型さん

      厳しくも温かいお言葉、ありがとうございます。
      心に深く刻んでおこうと思います。
      感謝します。
      2022/04/30
  • 傑作の条件は「読者に『これは自分の物語だ』と思わせること」らしい。
    この主人公は私だと思わせる、そんな人を引きずりこむ力がある、強烈なシンパシーを放つ漫画。
    新興宗教や酒鬼薔薇聖斗、キレる17歳など、作者が青春を過ごした当時の事件とオーバーラップして描かれる話。
    これを安易に再生の話とはよべない。
    三巻を読めばわかるが、主人公の地獄はまだ続いている。根深いトラウマに苛まれる彼女が、本当の意味で救われることはもう決してない。

    家族からの性的虐待を受け、思春期に入るまでその異常さに気付けなかった愛子。
    リアルな虐待とは誰も問題を問題として認知しない、悪ふざけの延長として笑ってごまかす、ズルさの中で生まれるんじゃないか?
    それは行き過ぎたいじりを断じていじめと認めない学校ともよく似ている。

    どうして愛子が手紙にああ書いたのか、想像できる。
    物心付く前に父親に唇を吸われ、いたずらされ、大事なところを汚されてきた愛子にとって、まだ体験してない中で夢を持てることが「それ」しかなったのだ。
    「それ」だけは父親ともしてない、本当に好きな人とだけやると決めていたことだから、ラブレターへああ書いたんじゃないか。
    その純粋さを「気持ち悪い」と、最悪の言葉で裏切られた愛子の心情を思うととても切ない。

    家族やクラスメイトからの疎外を経験した読者には、「朝起きて、目が覚めたことを後悔する」愛子の気持ちが痛いほどわかるはずだ。毎日目覚めなければいいと思い眠りに就く、それでも朝は必ずやってくる。愛子がどれほど現実に絶望し、終わりを望んでも関係ない。

    大人になった酒鬼薔薇の追跡取材を読んだことがある。
    彼は職や住まいを転々とし、いわゆる貧困層のフリーターに近い生活をしているそうだ。
    唯一元半グレの作家の取材のみ応じたというが、それは「あの頃自分が怯えて逃げたヤツが、頭を下げて取材を申し込んできた」いじけた優越感から発した行為じゃないか?残虐な事件を犯した彼もまた、ただの卑小でツマらない人間だった。

    皆が信じ敬う教祖はただの口が臭いオッサンで、すでに頑張っている愛子に「頑張りなさい」と無神経な言葉をかける。
    彼にとって部活をしてない人間は「頑張ってない」のだ。
    そんなテンプレな価値観に抑圧された息苦しい正しさの中で、でも圧倒的に美しく正解なのはあちら側の世界で、汚れてしまったと思い込んでる愛子はそこへ行けない。

    収録された対談にもあったが、単純な毒親や毒母の話にしちゃいけない。
    そうやって一方的なレッテルを貼って安心する事は、人間の複雑さを軽く見積もりすぎてはいまいか?

    ある意味じゃ自分の人生をだれかのせいにした時点で絶対に負けだ。
    自分の人生を生きれてないのだ。
    たとえ本当にだれかのせいで悪くなっていても、被害者の人生を磨り潰すその「だれか」は自分のしてることに気付いてないし、なんなら悪いとも思ってないし、「せいにし続ける」本人だけがただただ損をする。
    だれかを憎むことだけに使う人生はしんどい。

    これはどこの家庭にも起こり得るヌルくズルい地獄で、助けてもらえなかった子どものまま大人になってしまった彼女は、なにもかもに期待することを打ち止めた。
    半自伝的作品とのことだが、どこまで事実なのかは明らかにされてない。
    作者の他作品を見ると、ジェンダーやセクシャリティへのただならぬ関心がうかがえるので、なんらかの性的トラウマを抱えているのは確実だろうが漫画という表現手段を持ち得たことを祝福したい。

    小説でも音楽でもなんでもいい、自分の中におさえこんでねじ曲がったモノを吐き出して、あの頃救えなかった自分を、だれかを、ほんの少しでも救うことができたら、それこそが創作の意味じゃないか?

    コレは強烈な毒と薬になる漫画だ。
    愛子と境遇が重なる人には特に重たいだろうが、反面、「可哀想な私の再生の物語」なんかじゃ決してない。
    自己憐憫に浸って自分の不幸を正当化する甘えを、この漫画は許してくれない。

  • 絵がきれいで好みだった。話の展開が絶望的で、とても現実感があって、物語の中に引き込まれるようだった。
    環境は全く違うけれど、主人公の思いに深く共感した。

  • 心が、痛む。

  • ほんわかした絵柄であまりにダークすぎる展開。父の性的虐待、母の暴力。なぜか笑ってる家族。救いになる存在だと信じた友人の裏切り。狂気に満ちた救いようのない展開がひたすら続く。宗教の描き方がとにかく怖い。

  • 震災、新興宗教、父親からの性的虐待…と扱う題材としてヘビーな半自伝作。
    著者が酒鬼薔薇世代だそうでキレる14歳、キレる17歳と連日TVがこぞって囃し立ていたの思い出す。其れからノストラダムスの大予言と終末思想、オカルトブームがあって子供心ながらに世界が終わる、無くなると思ったけど結果今も生きて居て乙一の小説「ZOO」で99年前と後では生まれた子には死生観に違いがあるではないだろうか?とあったが、覆われた閉塞感、死の影が側にあったあの時代を体験したかしていないか世代間によってこの漫画のもつ印象は大きく変わるだろう。
    最近は虐待のニュースが騒がれているが精神的拠り所となる信じるべき身近な存在、居場所である筈の家族が崩壊した家族神話をこの漫画は改めて問いただす形になるのだろうか。
    徹底的に否認された先に何に縋り、何に救いを求め、そして、何に希望を得られたのかまたは得られなかったのか落とし所として気になる。

  • サカキバラ事件とかの比重が大きすぎる感じ。もっと自己を掘り下げてくれると良いのだけれど・・・。

  • 家という世界は選べず捨てれずしんどいよね、という話を最近は捨てなさい、だとか切り捨てる事が多いけど、これはまだとけない呪いの中のようで、自らの何かと共鳴してしまった…

  • 良かった。事件を絡めるとリアリティが増す

  • 90年代カルトの時代に10代を過ごした主人公にとって、日常が、家族が、穢れという哀しさ。圧倒されてまう。

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著者プロフィール

「COMICリュウ」2011年3月号掲載『女の穴』でストーリーマンガデビュー。2011年9月に刊行された処女コミックス『女の穴』は各方面で反響を呼び、2014年に実写映画化された。「COMICリュウ」2012年5月号より『ぼくらのへんたい』連載開始。コミックス全10巻のヒット作となる。『ふつうのおんなのこにもどりたい』は【COMICリュウWEB】にて2021年3月より連載開始。現在も好評連載中。

「2023年 『ふつうのおんなのこにもどりたい(5)』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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