八月の光 (光文社古典新訳文庫) [Kindle]

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感想・レビュー・書評

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  • ハイタワー、なんなんだよ?
    読み終わって真っ先に頭に浮かんだ疑問。その後、解説でフォークナーの曽祖父への憧れ、訳者・黒原敏行さんの鋭い読みに触れ、ちょっとわかった気になって、ハイタワーの最期の章を読み返してみる。解像度が上がり、初読よりぐんと面白く読めたうえで、やっぱり最後に思うのは、
    ハイタワー、なんなんだよ?

    ときに巻き戻る時間の流れ、登場人物へのスポットの当て方は非常に映画的で、フォークナーの影響を受けたとされる、私の愛読してきた作家の小説よりもむしろ、ポール・トーマス・アンダーソンの映画、『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』や『ザ・マスター』あたりを観ているときの感覚を思い出した。だから、読んでる途中で『ザ・マスター』観返してしまったけど、戦地のフレディの孤独には、懸命に(だがどこか飄々と)空回りしつづけるバイロンの哀しみが重なるし、フレディが砂漠をバイクで駆け抜ける場面は、クリスマスの前に道が続いている描写に重なる。たぶんこれはたまたまのこじつけで、フォークナーやPTAが峻烈な生の瞬間を普遍的に描いているということなのかもしれない。

    黒原さんの訳者あとがき、とても面白かったです。ハイタワーへの個人的な思いはもちろん、リーナがmixed upされることをメタフィクション的に拒んでいるという解釈もなるほどである。そして、黒原さんの最近の訳書では『チェリー』を読んだのだが、文体も時代も違うのに、登場人物すなわちアメリカの若者の姿がまるでひとつの連なりのように感じられて、ほんとすごいな。

  • フォークナーの作品は以前読みかけて挫折していた(確か「響きと怒り」だっただろうか)が、この八月の光は読みやすかった。途中からクリスマスを巡るミステリーに引き込まれていった。それが最後ハイタワーの個人史に寄り道されるような感覚はありさらに色々な人物が出てくるのでややとっちらかった印象もあるのだが、とはいえ、ぐいぐいと読ませる力のある、力作だと思った。

  • 傷をアイデンティティとし、苦しみの只中にいることで社会における自己の輪郭を保つ者。空想に溺れて孤立を深める者。誰かを傷つけなければ傷つかないと信じ、他人と距離を置いてきた者。ただ愚かで弱く卑怯な者。

    奴隷制度とワンドロップルール、白人至上主義が横行する南部での正義と苦難が、多くの登場人物の来た道の語りによって描かれる。クリスマスは憤怒や絶望、阻害から抜け出ることができない。リーナとバイロンの危うい離脱だけが、ささやかな、先の見えない希望であり、読了とともに苦しみを通り越すようで、忘れてはいけない記憶を抱えながらも、澄んだ気持ちで本を閉じる。

  •  めちゃくちゃよかった。
     アメリカ南部独特の人種差別的感覚を所見の読者にも感じ取れるような翻訳、註が入っている。すごい。登場人物の繊細なニュアンスの思いをリアルに読んで感じられる。これは翻訳がとんでもなくいい。あとがきを読んで納得。訳者に賞賛しかない。
     主人公の一人であるジョー・クリスマスはワンドロップルールにより南部では黒人とされるがほとんど見た目が白人の男。彼の歩んだ数奇な人生。登場人物で出てくる援助者の差別の視点というのが明確にわかってすごい。
    と にかく出てくる人出てくる人の中にちょっとずつ自分がいるのではないかというくらいのめり込んで読んだ。
     妊娠を知って逃げ出した男の後を追うリーナ。リーナの出産を見守り影となりずっと護っていくバイロン。現実逃避をして生きてきた元牧師のハイタワー。クリスマスの祖父母。とにかく濃い。
     90年前の小説で、いろんなところから出版されているけど、わたしは光文社古典新訳文庫をお薦めする。

  • 非常におもしろかった。
    人はなにかに憑りつかれると、どんなに遠くまで逃げても、逃げ切ることはできない。

    宿命というのだろうか。自分も、それなりに生きてくると、人生においていろいろな符合や因縁めいたものにであうことがある。だから、本作で繰り返されるそういったものを見ては、登場人物に感情移入もできたし、その悲しみや苦しみも理解できた。

    読んでいて思い出したのは、ダーレン・アロノフスキーの映画「レクイエム・フォー・ドリーム」や、浅野いにおの漫画「おやすみプンプン」だった。必死に生きていても、なにかに足をつかまれて泥沼の中に引き戻されてしまう。人生とはそういうもので、ある種のあきらめと、あがき続けていれば、どこかにたどりつくのではないかという、かすかな希望のはざまで、生きていくものなのだと思う。

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著者プロフィール

一八九七年アメリカ合衆国ミシシッピー州生まれ。第一次大戦で英国空軍に参加し、除隊後ミシシッピー大学に入学するが退学。職業を転々とする。地方紙への寄稿から小説を書きはじめ、『響きと怒り』(一九二九年)以降、『サンクチュアリ』『八月の光』などの問題作を発表。米国を代表する作家の一人となる。五〇年にノーベル文学賞を受賞。一九六二年死去。

「2022年 『エミリーに薔薇を』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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