- Amazon.co.jp ・電子書籍 (174ページ)
感想・レビュー・書評
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恵介は30歳になる前に死ぬという呪いを受けた一族の末裔だ。その呪いを解くために心霊科と言う変わった看板を掲げて心霊現象に悩む患者の依頼に応える日々を送っている。
文庫化で「呪いのカルテ」に改題。文庫の方がわかりやすいタイトルになった。
ホラー大賞受賞の「牛家」や「三丁目の地獄工場」が面白かったので、岩城裕明作品の3作目として拝読。
幽霊の死体が見える妻。幽霊の誘拐事件、ゾンビと暮らす女、自分が人間だと思っている犬の幽霊の姿は何?……と作者独特の一風変わったネタで話は進んでいきますが、はっきり言って3件目の事件「結婚してから彼が変わってしまった」までは、いい意味での岩城氏らしさがない文章が続きます。3話目が少し気持ちの悪い話なので、ここでやっと岩城氏の持ち味であるグロテスクで不快な(褒めてる)文章を拝めます。
しかし「最後はきっと、切ない」と帯にある通り、この本は最終章こそが真骨頂です。
「牛家」に同時収録された「瓶人」や、そのスピンアウトにあたる「女瓶」のような、人間と異形の間の、切なく哀しい物語が巧い作家さんだと思います。
切ないホラーってあまり思いつかないのですが、似たような話に宮部みゆきの「あんじゅう」に出てくる「くろすけ」も大好きなキャラのひとつでした。あぁ、くろすけや……(涙)
主人公の祖母が「その時が来たらなるべく苦しまない方法で送ってあげて」と言っていたことや
父親が亡くなる時に墓麿にも「すまないね」と語りかけていたことからも、憎い呪いであった墓麿は、みんなに愛されていたことが伺えます。
最後に妹夫婦、主人公、墓麿が三つ巴というか三すくみ状態になって全員が「どうして?」っていうシーンがあるのですが
全員が同じ言葉を使っているのに、答えは全員が違うことを考えているというのが構造的に面白いなと感じました。
また、正直に言うと、読み始めた時からオチは予想がついていたのですが、それでも涙が出てきてしまうのは、やはり岩城氏の文筆力に他ならないです。
岩城氏の描く異形は、AIのようにひたむきで純粋です。人間の方がよほど利己的で汚い。それがまた、うらがなしい。詳細をみるコメント0件をすべて表示