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感想・レビュー・書評
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「マチネの終わりに」が面白かったので、同じ作家さんのこの作品を読んでみた。
舞台は宮崎の田舎。林業の事故で亡くなった主人は実は全然別人だった。亡くなった主人は誰だったのか?
依頼を受けて調査していく弁護士の城戸が主人公。自ら在日3世というアイデンティティを持ちながら、自分とは何かというものを考えながら調査を進めていく。
自らの過去を捨てて別人になる。その背景や生い立ち、その必要性などを、恐らく細かい取材に基づいてリアルに描いている。
亡くなった男の本当の姿を追いかけていくうちに、自らの幸せ、家族のつながりの大切さを対比させて描いていく手法は見事だと思う。ストーリーの展開も自然な流れで進んでいき、すっきり読めた。
追いかける男が亡くなっていることがわかっているので、なんだか切ない感じは全編通して続く。しかし、真相を知った妻と子供が希望を持って生きていくのが見れて、読後感は悪くない。
繊細な筆致に感動する。良書。平野啓一郎、他のも読んでみたい。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
凄い作品でした。
今の日本に住む人の心の底にある不安、葛藤、社会の危うさが凝縮されているような気がして、自分と対話しながら読み進めていました。 -
平野さんの小説を初めて読んだ。最初の出だしは少し難しく読み進めずらかったけれど、途中からどんどんのめり込んでいった。
あらすじを知らずに読んでいたので、まさかこういう物語なのかとは露知らず、ドキドキしながらページを進めた。
ネタバレになるが、幾人もの入れ替わった人物が登場するが、皆今までの自分が嫌で新しい自分として生き直している人たちだった。
自分が嫌で嫌で仕方がない。身体を覆っている皮膚全てを剥ぎたくなるような苦痛を感じていた。だから、全く別の誰かの人生を歩むことで、自分自身の過去を忘れることができる。
そんな気持ちにとても共感してしまった。 -
2021.06.19遠藤さん推薦。結婚した夫が死んで、実は実在する別の男になり切っていたという話・・・らしいが、そもそも現実離れしていて気持ちが入っていかない。読んでいて面白くない。1/4読んで諦めた。遠藤さん、ごめんなさい。返却します。
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'「未来のヴァリエーションって、きっと、無限にあるんでしょう。でも、当の本人はなかなかそれに気づけないのかもしれない。僕の人生だって、ここから誰かにバトンタッチしたら、僕よりうまく、この先を生きていくのかもしれないし」'
これまでの帰結としていまが表れ、これからの起点としていまがここにある。
そうなんだと思う。
ほとんどは繋がりによって連続している。断層のように滑りズレて、立っている場所が突然に変わったような気がしても、その遷移さえも何かしらの連続で表れてくるものだ。自分にとってはそれでしかなく、ただ傍から見たときの不予測による抵抗が僅かに生まれるだけで、ほとんどが関係ない。
これまでを捨てて、これまでにない新しさを拾う。
別人になる。そう思いたくなるほどの人生も確かにあるのかもしれない。そういう意思を定めて、確かにそのための舵を切る。そういうこともあるのかもしれない。
それでも、そこで変えられたのは、自分ではなく、周りなんだと思う。
自分とは隔てられた、外側の存在が定める状況を、取り替える。そのためには、自分を捨てるしかない。そして別の自分を拾うしかない。その「自分」とはつまり、周りが定めるだけのもので、ただの状況でしかない。そう捉えることができるだろう。
愛はそこにどうやって表れるのか。愛はどこまでを含めて、存在しているのか。
いまがあるから。これまでがあるから。これからがあるから。ひととひとの間に表れるしかないそれは、状況によって姿を見せるものだということから逃れられないけれども、だれもが確かにそれだけではないと、思えるものだろう。
自分というものも、あなたというものも、立ち表れてくる存在と、そこに映る存在と。
ともにあることで見出すことができる姿を、誤魔化さないということが、それなのかもしれない。
誤魔化したくない、という気持ちなのかもしれない。 -
弁護士の城戸は、かつての依頼者である里枝から、「ある男」についての奇妙な相談を受ける。宮崎に住んでいる里枝には、2歳の次男を脳腫瘍で失って、夫と別れた過去があった。長男を引き取って14年ぶりに故郷に戻ったあと、「大祐」と再婚して、新しく生まれた女の子と4人で幸せな家庭を築いていた。ある日突然、「大祐」は、事故で命を落とす。悲しみにうちひしがれた一家に「大祐」が全くの別人だったという衝撃の事実がもたらされる……。里枝が頼れるのは、弁護士の城戸だけだった。
人はなぜ人を愛するのか。幼少期に深い傷を背負っても、人は愛にたどりつけるのか。「大祐」の人生を探るうちに、過去を変えて生きる男たちの姿が浮かびあがる。
人間存在の根源と、この世界の真実に触れる文学作品。 -
愛にとって過去はどういう意味を持つのか考えされられる作品だった。
過去もその人の人格が形成された一部として受け入れられる事が本当の愛であり、美鈴の言う「1回愛したら終わりじゃなくて何回でも愛し直せる」事だと思った。