経済の観点から世界史の流れを解説した書。「歴史はカエサルやナポレオンら偉人によって動くのではなく、名もなき人々の怒り・不満・欲望・執念の集積によって動きます。経済という尺度によって、それらの動向を追い、人間社会の一般法則を導き出すこと、これが本書の目的です」、「景気後退、格差拡大などの経済要因が人々の不安・不満心理を増幅させて、それが大きな社会的エネルギーとなり、制度・体制を転覆させる、このようなパターンの繰り返しが歴史であると言えます」。
本書を読んでいくと、歴史を動かしているのが経済だということがよく分かる(さらにその背景には、気候変動や疫病の流行などがあるんだろうな)。「ローマ帝国の支配の原理乃第一は絶え間ない領土拡大政策によって国内の不満を外に向けさせることにありました。侵略政策を行うことができたて間は形勢も拡大し、人々の不満は抑えられ、2世紀にパクス・ロマーナ」と呼ばれる平和な繁栄を享受できました」、「北宋、金王朝、南宋、元王朝、明王朝などの中世の中国王朝は全て、紙幣増刷により、財政を補塡し、市場の信用を失い、衰退、もしくは滅亡しています。前王朝の負債を一掃するべく、新王朝が成立するも、やはり、紙幣増刷に麻薬のように依存し、信用を失い、次の王朝へ移行していくというパターンが繰り返されました」、等々。
特に面白かったことを幾つか。
イギリスを覇権国家に押し上げたのは産業革命による生産力拡大ではなく、悪辣な収奪システム(16世紀の私掠船の略奪、17~ 18世紀の奴隷三角貿易、19世紀のアヘン三角貿易)による。
中国の近代化が大きく遅れた原因は、大量で安価な労働力、そして肥沃な大地から収穫される大量の農産品から十分な収益が確保できていたこと。一方、イスラムが近代化できなかったのは、イスラム教が自由な学術研究を許さず、また利子が禁止されていたから。