双極性障害【第2版】 ──双極症I型・II型への対処と治療 (ちくま新書) [Kindle]

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  • うつ状態の際は理由もなく死にたくなる。躁状態の時は他人に怒鳴り散らかし、時には嚙みつくことも。さらに、うつと違い双極性障害の原因はよく分かっておらず、再発症率は90%を超える

    ●感想
     「プロが書いた本だ!」と読んでわくわくする本が好きだ。全く知らない世界を描きながら、その最先端での奮闘ぶりが伝わってくるような本。読んだだけで世界が広がるし、著者という尊敬する人に出会えたことが嬉しい。この本は間違いなく「プロ」による本。それほど、双極性障害とは何なのかが濃厚に語られる。専門的な分野・研究に関する記述も多く、説得力がある。治療薬に関するレビューにもかなり多くの文量が割かれており、「情報を求める患者」のために熱い情報提供をしてくれている。それでいて、一般読者にとっても面白い。読んでいて背筋が凍るような双極性障害の「症例」の章は衝撃的だ。なにせ、穏やかだったおばあちゃんが「医師や看護師に嚙みつく」のである。重度の躁状態の行動がここまでに及ぶケースがあるとは、知らなかった。
     突然訪れるかもしれない双極性障害について、本書を通じて学べたことは大変ラッキーであった。万人に一読を薦められる本。

    ●本書を読みながら気になった記述・コト
    ◆双極性障害はもともと「躁うつ病」と呼ばれていたが、呼び方が変えられた。うつ病と混合を招いたからである
    →双極性障害はうつ病と違い、その原因がはっきりしていない。治療法も異なる
     →うつと違い、人為的に、動物を双極性障害の状態におくことができないからである。うつ状態の動物は、故意にストレスを与えて作ることができっる
     →双極性障害のうつ状態時に、うつ治療に使われる抗うつ薬を服用すると、軽躁状態を引き起こす恐れがある
    ・英語上では、双極性障害は、「disability」ではなく「disorder」として扱われている。実際には、障害があるというよりも、日本語上の「症」に近い減少。
    ・双極性障害、統合失調症の有病率は1%ほど

    ◆双極性障害には2パターンある。躁的な状態とうつを繰り返すⅠ型と、軽い躁状態とうつ状態を繰り返すⅡ型がある。Ⅰ型は躁状態の行動によって、社会生活を破壊するケースがある
    ・双極性障害は、精神疾患の中でも、脳や遺伝子といった身体的な側面が最も強い疫病であり、「心」の病気ではない
    →双極性障害は薬なしで、カウンセリングのみで治療することはできない

    ◆境界性パーソナリティー障害とは、情動が不安定で、安定した対人関係が築けないこと。たとえば人の気を引くために手首を切るなど、極端な行動に走る
    →一方で、双極性障害のうつ状態、躁状態には明確な原因がない。とにかく二週間以上毎日気分が落ち込んだままであるとか、一週間以上、一日中気分が高揚している、というような状態

    ◆典型的な抑うつ気分とは、大切な人を亡くしたときよりももっと苦しく、形容しがたいうっとうしい気分が、逃れようもなく、1日中何日も続く状態

    ◆うつ病は再発が少ないが、双極性障害はⅠ型、Ⅱ型ともに再発リスクが高い
    →再発率は90%のため、定期的に精神科に通いながら、診断、薬の処方をしてもらうことになる

    ◆うつ状態よりも、双極性障害のほうが社会、コミュニティ内で問題になりやすい
    ・躁状態になると、今まで何の問題もなく仕事をこなしていた人が、急に会社のお金をつぎ込んだり、会社を訴えたりする。大きな損害をコミュニティに与えることもある

    ◆精神科に通っていても、自殺してしまう人が多い。医療によって自殺を防ぐのは、まだ大変なことである
    →死にたいと言っている人に、死にたい気持ちを話してもらうことは、ガス抜きとして効果がある。しっかりと死にたい気持ちを語ってもらったうえで、傾聴者と「死なないこと」を約束してもらうとよい

    ◆躁状態であることと、当人の性格であることを判別するのは簡単ではない。ヒントは「いつものその人と比べてどうか」。いつもの人と違いがあるのであれば、双極性障害の疑いがある

    ◆ひどい躁状態
    ・とにかく知り合いに電話をかける。内容は無いのに大声で早口になる。平気でうそをつく
    ・診断を受けた病院で、医師や看護師に暴力をふるう。首をしめたり、ひっかいたりする
    ・お金遣いが荒くなる。到底使わないものを購入する
    ・すぐに怒り出し、知り合いに怒鳴る
     →ひどい状態になると、他人とコミュニケーションが取れないほど、暴れる、わめく という状態になる

  • 双極性障害だという方に出会ったことで、知見を深めたく手に取った。この症状の知識があるかないかで接し方が大きく変わると痛感する。本書に出てくるような例を見ていても、何も知らない状態であれば「面倒に巻き込まれないように近づきたくない」と感じてしまっても致し方ないような言動が多々ある。しかし、その背景にあるこの病を知っているだけで、一歩引いたところで接することができる。かなり納得度が高く、そして、この手の症状を学んで毎回思うのは、本当に人間とは不思議な生き物だ……ということ。双極性障害も、リチウムなどの薬を飲み続けていれば再発なく暮らせるらしいが、それを飲まなければ再発率90%だという。しかも、この症状に最も効果的なのは、規則正しい生活リズムだそう。なかなかこれができず、症状が悪化するという。なるほど確かに双極性障害の方は昼夜逆転したり、睡眠時間が少ないわけだ……
    本書で知ったが、双極性障害は統合失調症と同じく人口100人に1人の発症率とのこと、知り合いの中に必ず1人は出会ってきている、ということだった。非常に興味深い。統合失調症についても知識を深めたい。

  • 双極性障害の基本的解説をした本。治療薬について詳しく書いてくれている。

  •  スタンダードな医学的理解を平易に学べる。DSMとICDの違い,保険病名にまつわる葛藤,躁うつ病から双極性障害を経て双極症となる訳語の変遷など,個人的には実務に有用な情報を得られた。
     日本でのケタミンの治験は著者の予想より遅れているのか,まだ承認されたとの情報は見当たらなかった。うつについてはむしろ幻覚剤による治療に希望が持てそうな感覚があるのだが,双極性のうつ症状にも効果があるのかはもう少し調べてみないと分からない。

  •  以前、友人がこの病気だった。概略は知っているつもりだったが、改めて本を読んでみることにした。
     当人が読んでも、病気の人の周囲の人が読んでもよい内容だと思う。前半の病気の説明、類似した病気との違い、混同してはいけない注意点、症状が出てから診断までなどとても具体的でわかりやすかった。
     ケーススタディとして、病気による周囲への影響を想像できるものがたくさんあり、参考となる。今大丈夫でも、この先どうか、かつて起こったことの予想も出来る。
     後半の薬の説明については、当人と家族が参考に出来るのでは。Q&Aでは患者本人の質問がすごく鋭い感じだった。友人も自分の本棚を病気の本でいっぱいにしていた。

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著者プロフィール

順天堂大学大学院医学研究科 精神・行動科学 主任教授。1988年に東京大学医学部卒業後、同附属病院にて臨床研修。滋賀医科大学附属病院精神科助手、東京大学医学部精神神経科講師などを経て、2001年理化学研究所脳科学総合研究センター(当時)精神疾患動態研究チーム チームリーダー。博士(医学)。2020年より現職。

「2023年 『「心の病」の脳科学 なぜ生じるのか、どうすれば治るのか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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