欲望の資本主義3―偽りの個人主義を越えて [Kindle]

  • 東洋経済新報社
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感想・レビュー・書評

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  • ・ティロール、ガブリエルは面白いことを言っている。彼らの本を読みたい。

    ・ガブリエル教授の前アメリカ大統領についての意見には完全に同意する。彼は人を騙してお金を儲けることについては天才だ。人を騙すことは学校では学べない。彼は家族、家業からそれを学んで実践した。

    位置No. 144
    GAFA は、それぞれ人間の基本的で本能的な欲求に訴えかけ、大成功を収めたのだと思います。グーグルは人々の神への、アップルはセックスへの、フェイスブックは愛への、アマゾンは消費への欲求にそれぞれ訴えかけています。

    位置No. 159
    次に消費についてです。私たち人間が洞窟を飛び出して以来、最も深刻な問題は飢えでした。飢えをしのぐには、より多くの食糧を蓄えなければなりません。ですから、私たち人間の脳には、「もっともっと」という欲求が刷り込まれています。私たちは常に、より多くを所有しなければならないという強迫観念に縛られています。食器棚もクローゼットも、不必要なもので溢れかえっています。しかし、不必要だという合理的な感覚は、「もっともっと」という欲求に打ち克つことはできません。つまり、消費への飽くなき欲求です。 そのため、「安価な商品を多く提供する」ビジネス戦略は非常に有効です。世界で最も経済成長が著しい中国は、安価な製品を大量に生産しています。ウォルマートやユニクロの戦略も同じです。そして、その戦略で最も成功しているのがアマゾンです。アマゾンは私たちの消費への欲求に訴えかけています。

    位置No. 167
    そして、アップルはセックスです。私たちは異性にとって魅力的でなければなりません。より良いパートナーを得るため、つまり、より良い遺伝子を持った子孫を残すためです。 今日、異性に最もアピールできる価値は、「高収入で、都会に住んでいて、創造的な仕事をする才能がある」ことです。そして、それを異性に示すことができる最も簡単な方法は iOS を持つことなのです。 iOS を持っているということは、 1300 ドルもする電話を購入する経済力があることを意味します。つまり、アップルの製品は、より良いパートナーと巡り合いたいという性的な欲求に訴えかけているのです。

    位置No. 186
    GAFA は巨大になり過ぎたと思います。彼らが成功した秘訣はいくつかありますが、私はいくつかのポイントを指摘しました。彼らは「崇高なビジョンを掲げ」「人間の本能を刺激し」「法律を無視し」「競争相手を資金で踏みつぶし」て、成功を収めたのです。 例えば、 GAFA は他の企業と同じ基準で規制されたり課税されたりしていません。

    位置No. 224
    多くの人々は、私たちはイノベーションの時代に生きていると思っていますが、実は違います。私たちはイノベーションのない時代に生きているのです。この 40 年間で日々生まれる新たなビジネスの数は、半分に減りました。アメリカでは今よりも 1970 年代の方が、より多くの新たなビジネスが生まれていました。経済の最も急成長している分野に独占企業ができ上がってしまっていることが、イノベーションを阻害しています。これでは、小さな会社が成長するのは不可能です。

    位置No. 1508
    忘れてはならないのは、私たちがこうした企業に搾取されていることです。メールを送受信したり、ネットニュースを見たり、検索したり、買い物をしたり、動画を見たり音楽配信を受けたりといった、私たちがインターネット上で行っている行為はすべて「労働」です。その労働がデータ付加価値を生み出し、何十億ドルというおカネがカリフォルニアの口座に支払われるのです。 ソーシャルメディアはカジノのようなものです。人々はインターネット上の書き込みや投稿画像に「いいね」をクリックしたりすることで、いわば「賭け」をしています。投稿者はフォロワーを集めていく。ポイントを稼いだ人は大儲けができる。その構造の中で、ユーチューバーの成功者が増えれば、それは賭けに参加したユーザー側の利益にもなります。 しかし、最も利益を上げているのは、投稿者や「いいね」をクリックするユーザーではなく、胴元、つまり、ソーシャルメディアの運営管理者です。これはカジノとまったく同じメカニズムです。しかも、ソーシャルメディアは、世界中のどのカジノより不公平なカジノだと言えます。どんなダーティーなカジノより、 GAFA の方がはるかに汚いと断言できます。

    位置No. 1522
    ソーシャルメディアなど、情報のデジタル化によって構築された社会システムは、持続的なものではありません。交通規則のない高速道路と同じで、いつかは壊れてしまいます。既に多くの犠牲者が出ています。このようなテクノロジーを使った暴力や犯罪、組織的なテロが起きています。しかし、そうした現象だけでなく、グローバルな価値観そのものが崩壊しつつあり、それが「民主主義の危機」だと言われています。 民主主義の危機とソーシャルメディアは、実は同じ現象です。二つは別々の事象ではありません。メディアが世論を操作し、その結果世論が不安定になることで民主主義が危機に陥る、といったような構図ではありません。そうではなく、この二つは一つの同じ現象なのです。

    位置No. 1536
    ソーシャルメディアはもともと、離れ離れになった家族や友人知人同士が手軽に連絡を取り合える手段として利用されていました。つまり、最初は、自分に近い関係の人たちとの?がりを保つための便利なツールだったのです。 しかし、今日では、多くの人々が姿の見えない相手とやり取りをし、架空の?がりを持つようになりました。そのコミュニケーションは完全にフィクションで、小説を読むのと同じです。そうした架空のコミュニケーションに大部分の時間を使っている人々は、顔が見える相手との真のコミュニケーションをほとんど行っていません。哲学における存在論の見地からすると、私たちの日常は、ほとんどの時間をビデオゲームに費やしているようなものです。身近な人との手軽で安価なコミュニケーション手段として普及したソーシャルメディアが、身近な人々同士のコミュニケーションを破壊しているのです。 ──それが、民主主義を崩壊させるということですか。その通りです。インターネットは決して政治的に中立なプラットフォームではありません。見えない影がインターネットを支配しているからです。

    位置No. 1560
    真のジャーナリズムとは簡単には見えないことを白日の下に晒すことです。しかし、ソーシャルメディアで拡散されるニュースは、内容が非常に表面的です。

    位置No. 1563
    ジャーナリズムの危機は民主主義の危機でもあります。ジャーナリズムなどの力によって真実を突き止めようとする姿勢が失われた民主主義は、もはや民主主義として機能しないからです。

    位置No. 1591
    そして、ポストトゥルースの時代に政治的なゲームで最も多く使われるトリックが「真実そのものが存在しない」かのように振舞うことです。これはある意味、パーフェクトなまやかしです。 まやかしは真実を前提としたものですから、真実がなければごまかす必要はありません。まやかしが存在しないかのように、つまり、真実そのものが存在しないかのように振舞い、それを前提とすれば、あとはごまかし放題ということになります。「まやかしそのものが存在しない」と思わせることが、現代のまやかしなのです。 ポストトゥルースとは、知識よりも意見が重視される新しい潮流です。

    位置No. 1599
    知識は事実に基づいており、意見はそうではありません。ポストトゥルースの時代に、私たちがインターネット上で目にする情報の大半は、知識ではなく意見です。

    位置No. 1634
    これには、先に述べた「知の価値にダメージを与え」たポスト構造主義的な特徴と、自然主義に傾倒するという特徴があります。自然主義とは、あらゆる知は自然科学的な知であるという考え方です。その考え方は、リアルな現実は我々の脳内に場所を移して展開されるという思想に発展しました。しかし、それはまやかしです。自然主義はもはや、私たちに日常的な知があるという前提に立っていません。 私は、あなたには意識があると思っていますが、それを自然科学的な検査によって知ったわけではありません。そもそも、あなたに脳があると思っているのは私の錯覚かもしれない。私には人間に見えていても、あなたはロボットかもしれません。そうなると、まずは自然科学的な検査を行って、あなたに脳があるか、あなたに意識があるかどうかから確かめなくてはいけなくなります。 そう考えると、自然主義の「知とは自然科学的な知のことだ」という考え方は、まったくのナンセンスだとわかります。しかし、実際には多くの人が、現代の文明社会は自然科学的な知を礎として形成されねばならないと考えています。 この自然主義への傾倒とポストマルクス主義的社会批判が、ポストトゥルースの生みの親です。

    位置No. 1655
    アメリカには 2 種類のイデオロギーしかありません。自然主義と宗教です。この二つがアメリカ全体を支配しています。

    位置No. 1665
    神が世界を、つまり、自然を創造したというのは、まったく誤った自然観です。そのような立場に立つ自然主義では、自然を理解することはできません。アメリカ文化はそのような間違った自然観に基づいて成り立っています。 理由は簡単に説明できます。アメリカのプロテスタント文化は、先住民族のジェノサイドから始まりました。先住民族は、もともとまったく違った自然観を持っていました。しかし、西欧の侵略により、先住民族の意味のある美しい自然観は壊され、空疎でブラックな唯物論的な自然観が形成されたのです。例えば、グランドキャニオンがそのモデルです。 アメリカ人にとっての現実とは、グランドキャニオンのような、いわば「意味のない巨大な穴」のようなものなのです。これはニヒリズムですが、そうした意味のない穴に何とか意味を与えるために全力を尽くすべきだと考える。これがアメリカ人の行動パターンです。

    位置No. 1772
    今日、私たちは、人間の生活環境が完全に破壊される危険に直面しています。 100 年以上前から、そうした危険な状態が続いています。現在の消費文化を、この先もずっと続けていくことは不可能です。コーヒーやストロー、自動車や携帯電話など、日々の生活必需品を 100 億人の人間が要求したら、地球は壊れてしまいます。現代の社会モデルが持続可能なものでないことは、誰もが知っていることです。 もう一つ、私たちが忘れてはならないのが過去 2 回の世界大戦です。この二つの世界大戦は「マテリアルな戦争」でした。これは、ドイツ人が好んで使う表現です。非常に多くの自然科学的実験が行われました。ドイツは強制収容所で多くの人体実験をしましたし、アメリカは原子爆弾を落としました。つまり戦争によって、自然科学は大きく進歩したのです。 インターネットも軍事的に利用されています。もともとは情報伝達手段として開発され、世の中に広く普及しましたが、観察と予測のための武器としての適性は、開発当初から明白だったのです。現代の自然科学分野には、極めて大きな軍事的側面があります。 つまり、自然主義や自然科学は、宇宙の仕組みを解き明かすだけでなく、もともと、経済や権力闘争のために利用される存在だったわけです。自然科学者たちはこのことに気づいていません。彼らは人文科学や社会学の専門家ではないからです。

    位置No. 1784
    一方、人文科学者や社会学者の言うことには誰も耳を傾けません。彼らは役立たずだと見なされています。これこそが、ポストトゥルースの時代の特徴です。人文科学者の余計な口出しを封印することで、自然科学と経済との完璧なコラボレーションを可能にしたわけです。

    位置No. 1801
    「自由」は私の「新実在論」においても、中心となる概念の一つです。新実在論では、自由は「自己決定」を意味します。私たち人間は、人間とは何かという「イメージ」の中で行動しています。そして、そのイメージにより自己意識が生まれます。いわゆる「価値観」も、自分自身や他人についてのイメージの中で形成されます。つまり、人間はイメージの中に存在していると言えます。そして自由とは、このイメージを作り出し、それに基づいて行動する能力のことです。それが自己決定です。

    位置No. 1808
    ところが、そうした移動手段が、実は自由を壊すものであることは見落としています。例えば、環境破壊を引き起こす飛行機を利用することは、人間自身の命を奪うもの、つまり自由を壊すものです。環境を壊してしまったら人間は存在できませんから、当然、自由を享受することもできなくなります。 私たちは自由を享受できる方法を見つけなければなりません。またそれが、未来の世代でも保障されるような道を歩まなければなりません。

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著者プロフィール

丸山 俊一(マルヤマ シュンイチ)
NHKエンタープライズ エグゼクティブ・プロデューサー
1962年生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、NHK入局。「欲望の資本主義」「欲望の時代の哲学」などの「欲望」シリーズをはじめ「世界サブカルチャー史 欲望の系譜」「人間ってナンだ?超AI入門」「ネコメンタリー 猫も、杓子も。」「地球タクシー」他、異色の教養番組を企画・制作。
著書『14歳からの資本主義』『14歳からの個人主義』『結論は出さなくていい』他。制作班などとの共著に『欲望の資本主義』『欲望の資本主義2~5』『岩井克人「欲望の貨幣論」を語る』『欲望の民主主義』『マルクス・ガブリエル 欲望の時代を哲学する』『マルクス・ガブリエル 欲望の時代を哲学するⅡ』『マルクス・ガブリエル 危機の時代を語る』『マルクス・ガブリエル 新時代に生きる「道徳哲学」』『AI以後』『世界サブカルチャー史 欲望の系譜 アメリカ70~90s「超大国」の憂鬱』他。東京藝術大学客員教授を兼務。

「2022年 『脱成長と欲望の資本主義』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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