MMT〈現代貨幣理論〉とは何か 日本を救う反緊縮理論 (角川新書) [Kindle]

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  • MMTはクズの理論、と言ったのはブラックロックCEOだが、他にも歴代FRB議長やノーベル経済学者など様々な経済人からぶっ叩かれている噂の経済理論である。

    「自国通貨で国債を発行している国は、最終手段として紙幣を刷ればいいからデフォルトしない。だからたくさん国債発行して人々にお金を撒きましょう」平たく言うとこういうことだ。

    自分はこの手の主張が嫌いだ。

    ここ数年のベネズエラやアルゼンチンを見ていれば、バラマキ政治→財政悪化→自国通貨暴落→輸入インフレで食料品高騰で餓死者、みたいな惨状を目の当たりにしているし、欧州でも大量に国債を発行してバラマキ政治をやろうしたイタリアやギリシャのような国が、国債暴落(金利上昇)の洗礼を受けて、結局撤回に追い込まれたりしているのを見ている。すべて10年以内の話だ。

    紙幣を刷ったら無限に国債を発行できる?そんなうまい話はない。それをやろうとした愚かな国々は為替や金利に罰せられてきたのを見ているだろう?ということだ。
    だがそんな理屈云々の前に、カネが無くなったら無限に紙幣を刷りゃいいじゃんなどという「クズの思考」への侮蔑と、資本主義への挑戦に対する不快感が根っこにある。市場参加者にMMT支持者がほとんどいないのもこの辺にあるのではないかと考えている。

    よって、どうせ実現することもない間抜けの理論と捨て置いていたのだが、2020年、コロナという想像もしなかった危機が発生したおかげで(?)、結果的に日米欧は「緊急事態」という御旗の元、財政赤字なんて無視したレベルでの大量の国債増発を決め、さらに中央銀行がその国債を事実上無限に買い取ると宣言してしまった。
    MMT論者が希望するような状況が得てして作り出されてしまったのである。パンドラの箱は開かれてしまった。無限に国債が刷れるという快楽は、一度始めたら止められない。政治家も国民もその麻薬の虜となるだろう。ならば学ばなければならない、と思い、本書を手を取った。本当はランダル・レイの「MMT入門」という金ぴかの本が原典っぽかったので買おうか迷ったのだが、クズの理論に3,000円も使うのは癪だったので、原典の翻訳に携わった著者の書いた本書をAmazonの半額セールで購入した。400円ならまあいいか、と。

    さて、前置きが長くなったが、中身について。

    読んでいて気付いたのは、MMTの理論はなにも革新的な理論ではないということである。景気が悪い?ならば政府が国債発行して国民の面倒みましょうね、というのが基本で、これは財政支出を重視するケインズ経済学そのものである。著者はMMTか反対勢力(主流派経済学)か、などと新旧対立を煽ったような構図を見せかけているが、本書の大半の論点は昔からある、新自由主義かケインズか、という対立構図をスライドさせているだけだ(もっと言えばケインズは社会主義と同じく20世紀に敗れ去った側だ)。

    じゃあMMTはケインズ経済学と何が違うのか。
    本書を読んだ自分の理解だが、ケインズは財政支出を重視するにしても、ある程度の財政規律は意識しているのに対して、MMTは文字通り無限に財政赤字を作ってもよい、つまり財政規律を完全に無視するというスタンスだ。

    そんなMMT理論がなぜ著名人にここまでトンデモ理論と揶揄されるのか。
    著者はMMTの定義する貨幣感が斬新だから、と説明しているが、自分は違うと思っている。
    問題は主に2つある。

    1つ目は、結論ありきの強引な言葉の定義だ。

    自国通貨を刷れば自国通貨建の国債の返済は滞らない。MMTの主張するこの一文は確かに正しい。だが、MMTの理論は、この一文に繋げて「だから無限に国債を刷ってもよい」というロジックを正当化したいがためだけに、「貨幣」「租税」「国債」というものを無理やり再定義して造り上げているように感じる。

    たとえばMMTの主張する「貨幣」とは、「国家が納税として受け取ることを約束したもの」らしい。こう定義することで、「納税は国家の定めた通貨で行うもの」→「納税(租税)は、貨幣への需要を生み出す行為」と言い換えることができる。
    この時点で多くの人は「ん?」となると思うのだが、こう定義することによって「租税とは何か?それは政府の収入でしょ、だから収入の中で政策を作るんでしょ(税収の中から支出するんでしょ)」というMMTにとって厄介なロジック(=現代の常識)を破壊できる。
    すなわち「租税はただの貨幣需要を生み出す仕組みで、政府の財源ではないし、社会を維持するための財源でもない。だから収入の範囲内で借入なんて企業的なことは考えなくていいし、国債の返済は紙幣を刷ればデフォルトしないんだからそれでいいでしょう」と持っていきたいのである。(つまり「貨幣」というものの定義を「現代的に」再構築すると称して、財政規律への意識を薄める行為を行っているのである)

    問題なのは、この文脈のなかで「なぜ」の説明が全然ないこと。上述の通り「ん?」となる「貨幣」「租税」「国債」がなぜその定義になるのか、という理由が全然語られていない。どこもかしこも「原書ではこう書かれています」「MMT論者はそのように定義します」という表現ばかりだ。

    例えば貨幣を「国家が納税として受け入れるもの」と言うが、別に国家が介在せず、民間が発行した貨幣が機能していた例なんて古今問わずいくらでもある(例えば、70年代のアイルランドの銀行小切手、仮想通貨のなかでもおとなしいステーブルコインなど)。そういった”貨幣”をどう説明するのか。人々が価値の保存と決済と物事の尺度に用いていたとしても、無限国債に使えないなら「それはMMT的には貨幣ではない」という都合のいい反論でもするつもりだろうか?
    現代”貨幣理論”と言っておきながら、貨幣というものが「どうあるべきか」を貨幣サイドから考察したのではなく、結局は無限国債をどう正当化するか、という結論ありきで無理やり定義しているように見えるから説得力がないのだ。


    そして2つ目は、明確に見えているMMT理論の致命的欠点(=自国通貨暴落によるインフレリスク)への対策が全然ないことだ。

    増刷された自国通貨は、供給超過から他国通貨に対して下落し、それは輸入物価のインフレとなって国民に跳ね返ってくる。
    原典たる「MMT入門(ランダル・レイ)」にどこまで弁明が割かれているかは知らないが、本書についてはこの誰もが思いつく一番の、そして最大の欠点に対する対応策への記述があまりに少なく雑なのだ。

    例えばWW1後の大量増刷でハイパーインフレに陥ったドイツや、ハイパーインフレの代名詞ともなったジンバブエ。これらの事例に対して「戦争とかのしょうがないことが発生して」かつ「混乱して租税がちゃんとできなかった(通貨の需要を引き付けられなかった)」のが原因と書かれているが、まず後者については本当にこれしか書いていないので、租税がちゃんとできなかったとはどのような状態を示すのかさっぱりわからない。

    そして前者の「しょうがない理由」については、そんなもん国債発行しまくる時なんてたいていはしょうがない理由が起きているに決まっているだろう、今回のコロナで国債増発したとしてそれでハイパーインフレになったらしょうがない、MMTの間違いではない、で片付けるのか、ということである。

    このような問いに答えることなく、そのかわりに「日本が財政赤字大量だったのにインフレになっていない、だからMMTの理屈は正しい」という主張が何度となく繰り返される。このうまくいった事例だけに注目した帰納法論法は全然納得感がない。
    うまくいかなかった南米諸国ではハイパーインフレで餓死者まで出しているんだぞ?うまくいかなかった側の理由を適当な説明しかしていないのに(挙句の果てに民主主義国家でないとダメとか、変動為替相場制でないといけないとかあとから追加、ここでも「なぜ」がない)、そのような議論で国家にとって致命傷が発生しうる政策をなぜ採用できると思うのか。

    以上2点、MMTの書籍を初めて読んだが、自分はこの理論を肯定的に捉えることはできなかった。

  • Withコロナ時代に現代貨幣理論Modern Monetary Theory; MMTのような理論の支持が広がることは滑稽です。MMTへの大きな批判はインフレーションです。田中芳樹『銀河英雄伝説』でジョアン・レベロには紙幣の発行高を増やすと「紙幣の額面ではなく重さで商品が売買されるようになる」と答えました。現実に日本では江戸時代に荻原重秀の貨幣改鋳でインフレが起きました。インフレが起きることは直感的に理解できるものですが、MMTの支持者はインフレが起きないということを長々と力説する傾向があります。
    Withコロナ時代はインフレだけが問題でないことも明らかにしました。緊急事態宣言下は、いくら現金を持っていてもイベントや旅行などの消費ができませんでした。私達はインフレーションが起きなくても、貨幣の意味がなくなってしまう経験をしました。貨幣は財と交換できるから価値があり、貨幣だけを増刷しても問題解決にはなりません。第二次世界大戦後のインフレも財の絶対量の不足や流通の機能不全が背景にありました。

  • 最近メディアを賑わすMMTを学びたいと思いつつ、後回しになってけどようやく学習開始。第一弾は、代表的論者のランダル・レイ『MMT現代貨幣理論入門』の監訳者である島倉原氏による入門書『MMT〈現代貨幣理論〉とは何か 日本を救う反緊縮理論』。レイ氏やケルトン氏と親交もある著者による本なので信頼も厚いです。この本で門戸を叩いてあとは(分厚いけど)『MMT現代貨幣理論入門』を読めばいい気がします。
    MMTの
    通貨は、債務証書(負債)であるという信用貨幣論
    経済活動内部における資金需要に基づいて変動するという内生的貨幣供給論
    はとてもしっくりきます。私も大学院でマクロ会計を少しかじったこともありますが、マクロ会計の基本原則を遵守しつつ、現実の経済の実態にも合った論拠のある説を展開しているなと。
    ただし著者も本文中で述べていますが、まだまだ脆弱な部分もある理論だと思うので(個人的に気になったのは就業保証プログラムで、公共サービス供給の安定化は可能だろうかなど)、今後も追っていきたい理論ですね。次は『MMT現代貨幣理論入門』を読みましょうかね。

  • 本書はMMTについて解説した本である。
    個人的な感想としては、まず経済学という巨人の肩の上に乗ろうとしておらず、知的誠実さが全体的に垣間見得なかったのが残念だった。本書で語られている内容は間違ったことではないとは思うのだが、なんというか近代経済学の前提を無視してうわべだけの解釈で否定しつつ自らの理論を際立たせようとしているように思えてならなかった。あとは実証性のなさが説得力のなさを際立たせているように思えた。
    つまるところ、新しいことを言っているわけではなく、経済学を生半可に勉強した人が自らの定義で書いちゃったような議論なのかな、という気がした。
    やっぱり経済評論家が書いた本は理論的・実証的論拠が乏しく読んでて頭が痛くなるだけな気がしてならない。。。

  • 自国通貨を発行し変動相場制を取る主権通貨国は自国通貨建てである限り支払能力は無限大である。

  • MMT(現代貨幣理論)のエッセンスを解説した本。

    主流派経済学との比較を行いつつ、MMT(現代貨幣理論)の重要なポイントが何かが明確に書かれています。ランダル・レイ『MMT現代貨幣理論入門』をあわせて読むと、MMTへの理解が深まると思います。

  • 自分にもう少し簿記の知識があれば、より理解が深まるような気がしました。
    MMTの根本的な考え方として、「税金は財源ではない、国債は資金調達手段ではない」「税金は所得、国債は金利にはたらきかけ、経済を適正水準に調整するための政策手段である」というのが、もっとも大事な部分だと思いました。
    この前提を誤って認識しているために、政府は緊縮財政を支持するし、国民は泣き寝入りするしかないのです。
    経済学の主流派に変わって、MMTの理論がもっと多くの人に理解されてほしいです。そうならなければ、日本の将来は暗いままになるでしょう。
    この理論を実践して、何か問題があれば、またその時に考えればいいと思います。
    少なくとも日本経済の悪い現状をキープし続けるよりも、遥かに有用ではないでしょうか。

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著者プロフィール

1974年愛知県生まれの千葉県育ち。東京大学法学部卒業。株式会社アトリウム担当部長、セゾン投信株式会社取締役など経て、現在、クレディセゾン主席研究員。経済理論学会及び景気循環学会会員。著訳書に『積極財政宣言』(新評論)、『MMTとは何か』(角川新書)、ランダル・レイ『MMT現代貨幣理論入門』(監訳、東洋経済新報社)がある。

「2022年 『MMT講義ノート』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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