BUTTER(新潮文庫) [Kindle]

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感想・レビュー・書評

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  • 珠玉のバター料理小説であり、働く女性の葛藤を描いたジェンダー小説であり、(東電OL殺人事件をベースとした?)サイコパス・クライム小説でもある。とにかく内容盛り沢山な作品。女性心理を深く描いていて、自分には(男には?)ちょっと難しかったな。

    主人公は独身の週刊誌記者・町田里佳。そして里佳の親友、既婚者で仕事を辞め妊活中の伶子。首都圏連続不審死事件の被告人・梶井真奈子(カジマナ)。物語は、この3人の女性を中心に複雑に展開していく。

    梶井真奈子は「婚活サイトを介して次々に男達から金を奪い、三人を殺した罪に問われてい」て、一審は有罪(無期懲役)、現在は控訴中で小菅の東京拘置所に収監されている毒女。

    梶井のインタビュー記事を狙う里佳は、料理をネタにして何とか梶井との面会にこぎ着ける。梶井に勧められるまま、バター醤油ご飯、たらこバターパスタ、塩バターラーメン、ガーリック・バター・ライス、カルトカール(バターたっぷりのパウンド型ケーキ)とバターこってり料理を食し、美食にはまっていく。人間・梶井にも徐々に惹かれていき、やがて梶井に主導権を握られていく。体重が増え続け、容姿のしがらみから解放されるが…。梶井との関係を深めていく里佳に危機感を募らせる親友の伶子は、里佳の出張に強引に同行して取材に介入した挙げ句、行方不明となる。

    本書でキャラがイメージできなかったのは、なんといっても伶子だな。異性への恋愛感情に似た同性への歪んだ愛情、ちょっと理解できなかったな。時々攻撃的になるし、夫との一見円満なのにギクシャクした関係も謎だった。「自分勝手で、他人を疲弊させる。私に関わった人はたぶん、もれなく不幸になる。 梶井真奈子と私はそっくりだ」と独白されてもなあ。

    気に入った相手をたっぷりもてなし、心を惹き付けておいてグサッと傷つける梶井真奈子のサイコパスキャラの方がまだイメージできる気がした(「相手を丸呑みして、消してしまうまで咀嚼すること。それが梶井のコミュニケーションなのだ。でも、それは、彼女なりの愛の注ぎ方なのかもしれない。かさぶたを何度も何度も剝がして、一生消えない跡を時間をかけて作るような」)。

    本書には、刺激的な描写が随所に散りばめられている。「美味しいバターを食べると、私、なにかこう、落ちる感じがするの」、「私が欲しいのは崇拝者だけ。友達なんていらないの」、「現代の日本女性が心の底から異性に愛されるには『死体になる』のがいいのかもしれない」、「かさぶたって美味しいんだよ」などなど。

    バターは大嫌いだけど、本作品は美味しく味わえた!

  • ちびくろ・さんぼは子供のころの思い出となっている。
    それこそ、夢中になって何度も読んだ。
    実際、改めて見つけた岩波の本はぼろぼろで、数ページ欠落していた。

    娘が幼稚園のころ、そうだ、(当時売ってはいなかった)図書館にはあるかもしれない、と思い立って、娘と一緒に図書館に行った。
    欠けているページをスキャナーで読み取って、本を復活させた。
    その本は小学校の読み聞かせの本として、第二に人生を踏み出した。

    ではバターってなんだろう。
    この本では料理をしない彼女への、最初のレシピとして出てくる。
    そしてこのお話は、私でも記憶にある、ある事件が背景にあった(基礎知識なしに本書を手にとりました)。
    いま、いまいちどネットで検索してみたけれど、ああ、そうだったかもしれない。
    そう思うよな、ネットの批判はそうなるだろう。
    でも、人ってそんな単純じゃない。
    いろいろあって、いろいろ考えて、そしてそうなってしまうのかもしれない。

    最後に、再出発のシーン。
    広くて明るいおうちで、明るい未来がみえてくる。

  • 途中から、私も恋だか愛だか分からないような
    気持ちに心を持っていかれました。

    目の前であんな事を話されたら、
    私も支援してしまうかも。。。

    男の人を沼らせる、ってこういうことか!

    勉強になる気さえしてしまいました。

    戻ってこられなくなるとこだった〜
    あぶない(笑)

  • 想像と違ったストーリーだった。木嶋佳苗の事件を元にした梶井真奈子という犯罪者の物語。ハラハラしたり友情も絡んで面白かったけど一回きりでいいかな。

  • ベストセラー1位
    若くも美しくもない女が、男たちの金と命を奪った――。
    殺人×グルメが濃厚に融合した、柚木麻子の新境地にして集大成。
    各紙誌で大絶賛の渾身作がついに文庫化!!

    男たちの財産を奪い、殺害した容疑で逮捕された梶井真奈子(カジマナ)。若くも美しくもない彼女がなぜ──。週刊誌記者の町田里佳は親友の伶子の助言をもとに梶井の面会を取り付ける。フェミニストとマーガリンを嫌悪する梶井は、里佳に〈あること〉を命じる。その日以来、欲望に忠実な梶井の言動に触れるたび、里佳の内面も外見も変貌し、伶子や恋人の誠らの運命をも変えてゆく。各紙誌絶賛の社会派長編。

  • 2017年に死刑判決を受けた木嶋佳苗をモデルとした作品。
    3名の男性不審死に関与したとして逮捕された梶井真奈子と、その素顔に迫ろうとする女性記者町田を中心に話が進んでいく。

    大学中退後から数多の男性に援助を受け、贅沢な生活を過ごしてきた梶井。特に食に対する執念は突出しており、自身のブログではその豪勢な食生活を事細かに綴っていた。一切のインタビューを拒否していた梶井だったが、「レシピを教えてほしい」という町田からの手紙に興味を覚えたことで、2人は面会を果たす。梶井の真意に迫るため、その食生活を追体験していく町田。それまで仕事に専念し続け食事など後回しにしてきた町田にとって、梶井が勧める食生活は彩りに満ちあふれていた。いつしか2人の距離は縮まり、町田は梶井に対して好意的ともいえる印象を抱きはじめていたが…。

    序盤、梶井に勧められるがままバター醤油ご飯を口にする町田の描写があまりに濃厚。ろくに料理すらしていなかった町田が、バターが口に触れたときの衝撃を鮮やかに艶やかに描いている。前半での数々の料理に関する文章は、読者も思わず垂涎すること間違いない。単なる味だけでなく、熱気、香り、そして口に広がる得も言えぬ風味まで再現されているようで美しい。またタイトルともなるバターは作品の要所で登場しており、単なる食材ではなく展開を変化させるキーアイテムとなっている。
    特に終盤、町田が精神的に参った際のバターの描写は秀逸に感じる。「フライパンにバターが溶ける音がする。動物性油脂だからか、命の気配がする。」生から零れ落ちそうな主人公が、バターとそれを調理し支えてくれる人々から命のかけらを受け取ったかのような文章に、思わず見惚れた。

    本書はミステリー・サスペンスでもなければグルメ小説でもない。社会で営む上で抑圧していく自己の欲望と、「性別」「社会的立場」「家族」などにおいてかくあるべきとする社会の固定観念に対して疑義を投げかける書だ。主人公町田は、それまでと打って変わり、自分でレシピを考え、料理し、友人に振る舞うことを楽しむようになる。食、ひいては欲望に従順となることは人生にある種の影響を与える。それは梶井のように悪と断罪されうる方向に進むこともあれば、町田のように前向きな一歩となることもある。大切なことは自身にこう問いかけることだと思える。「私のしたいことは何か」と。

  • 男サイドの思考で男の行動(性犯罪やセクハラなど)を擁護する女ほど、女にとって目障りで気持ち悪いものはないなあ、と度々思う事がある。
    セクハラなんでみんなされてるよ、そんなの可愛いもんだよ。
    胸くらいじろじろ見させてやりなよ。減るもんじゃないし。
    私は生理の日でもバリバリ仕事するよ、あなたは甘えているだけ。
    痴漢される方が悪い。肌露出してこれ見よがしに歩いていたら痴漢されても仕方がない。
    など。へどがでる。

    「女は女神。男は馬鹿で弱い赤ちゃん。赤ちゃんが本能のまま行動するのは仕方のない事。女は男を全部全部許してあげて、一歩下がって、下手に出てあげて、母性で暖かく包んであげなきゃ。」
    そう考える女と、
    「女は馬鹿だ。何もできない。か弱くて馬鹿でどうしようもないデブでブスな女を俺が養ってやっている。そんな俺は有能。感謝しろ。」
    そう考えながら女にずぶずぶハマっていく男。

    そんな私が全く共感できない「女」と「男達」を巡ってストーリーが展開されていく。
    油っぽい、ギトっとした、胃もたれするような作品。

    『自分にとっての適量をそれぞれ楽しんで、人生トータルで満足できたら、それで十分なのにね。』
    玲子の言葉が身体にじわっと染み込んでゆく。ほくほくご飯に載せ、熱で溶けてゆくバターのように。
    自分の適量を知る。その為に私達は毎日、失敗と成功を繰り返して必死に生きているのかも知れない。
    それが『自分で自分を認める』自己肯定感に繋がるのかなあ。

    人の目を気にして、男やブランド、高級なものの価値に執着する女の姿が、SNS上で「映え」を追い求め、幸せである事より幸せにに見える事にすがりつく人々の姿に重なる。

    梶井が自分にとっての適量を見つける日は来るのだろうか。

  • 木嶋佳苗をモデルにした作品。なぜ木嶋佳苗がモテたのか理解できた。しかし主人公である記者の心の変化や親友の謎の行動力には共感できず、読むのに時間がかかった。美味しいものの描写は素晴らしく、食べたいものが増えた!

  • 食事や料理の描写は良かったが、全体的なプロットかキレがない印象だった。

  • 首都圏連続不審死事件の犯人木嶋佳苗(小説内ではカジマナ)を題材にした本。

    カジマナを追う記者の話。カジマナは周りの目を一切気にせず、客観視しようとせず、自分の欲求に忠実に生きている。
    記者はどちらかというと周りの目に合わせた自分を演じていたが、カジマナと接触していくうちに、考えがどんどん飲み込まれていく。

    殺害してしまった点は良くないが、カジマナの生き方は正しいと思う。
    ただ、本当に寂しくなかったのか、本当に自分の欲求に忠実に生きていたのか?は疑問。
    本当は友達が欲しかったんじゃないかとか、寂しかったんじゃないか?とか思ってしまう。そうではないのであればこの生き方は幸せだと思う。

    現実なんて幻想だから、自分が良いと思うものを良しとできるカジマナはすごい。
    一方で相当自分の世界に入り込める人でないと「世間の目」も少なからず「自分が良いと思うか?」の判断基準に入っていると思う。
    その意味でカジマナは「この社会」に生きている人ではなく「自分の世界」に生きている人なんだろうなと思った。

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著者プロフィール

1981年生まれ。大学を卒業したあと、お菓子をつくる会社で働きながら、小説を書きはじめる。2008年に「フォーゲットミー、ノットブルー」でオール讀物新人賞を受賞してデビュー。以後、女性同士の友情や関係性をテーマにした作品を書きつづける。2015年『ナイルパーチの女子会』で山本周五郎賞と、高校生が選ぶ高校生直木賞を受賞。ほかの小説に、「ランチのアッコちゃん」シリーズ(双葉文庫)、『本屋さんのダイアナ』『BUTTER』(どちらも新潮文庫)、『らんたん』(小学館)など。エッセイに『とりあえずお湯わかせ』(NHK出版)など。本書がはじめての児童小説。

「2023年 『マリはすてきじゃない魔女』 で使われていた紹介文から引用しています。」

柚木麻子の作品

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