QRコードの奇跡―モノづくり集団の発想転換が革新を生んだ [Kindle]

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  • 東洋経済新報社
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感想・レビュー・書評

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  • 慎み深い。なんとも慎み深い。
    今や日本のみならず、世界各地で存在感を示すQRコードを開発したのは、ほかでもない日本のデンソー。しかしながら、デンソー自身はそれを自慢するわけでもなく、宣伝しているわけでもない。過去の苦い経験の反省から、当初からQRコードのライセンスは無償で開放することを決めていて、他社の要望には広く前向きに応える。そして、いざという時に備えた仲間作りを目的に、所属する業界団体などの役職に積極的に着く。世界に誇れるイノベーションを起こしたと言っても過言ではないにも関わらず、この健気とも言える姿勢はなんとも慎み深い。
    そして、それに合わせるかのように、本書の筆致もまた慎み深い。北米自動車業界という大巨人の前では、日本で行っていた仲間作りなどは全く無意味。味方もいない中、標準化へ向けて地道に愚直にデンソーが努力を重ねたことは想像に難くない。しかしながら、本書ではそうした努力を「米国での標準化には4年を費やした」と簡潔にまとめているに過ぎない。かるく1章か2章は書けるくらいの努力と苦悩があっただろうに、それをことさら強調するわけではない。この慎み深い企業を表現するには、むしろこのくらいの筆致が合っているのかもしれない。

  • QRコードの誕生から国際標準化まで50年の記録が書かれた本。

    日常生活でよく使われるQRコード。日本発のイノベーションであるQRコードがどのようにして生まれたのか。国際標準となったQRコード誕生の裏側や普及や標準化までの道のりが、関係者の証言をもとに書かれています。

    QRコードは日本企業(デンソー)が開発したものとは、本書を読むまで知りませんでした。

  • QRコードの開発秘話。QRコードはデンソーがトヨタのかんばん方式のために開発したSDコードが出発だという。一次元のSDコードから色々と情報が増えてきたため二次元のコードを開発した。米国には先行した二次元コードがあったが、それらのコードを凌駕する機能のコードをデンソーは開発した。また、QRコードをISOの標準化に採用されるように、多大な費用と様々な対策をとったおかげでISOの標準となることができた。その標準化の争いも述べられていた。QRコードはさまざまなところに使われ、思ってもいないような使い方が、現場のユーザーから要求で出てくる。そしてそれは日本だけでなく中国、韓国でもそうである。単にQRコードはどんなものかという好奇心で読みだしたが、開発にかける技術者たちの熱い気持ちも伝わってきたし、標準化の世界とか、先進的なユーザー事例も面白かった。

  • QRコードが開発され、普及するまでの戦記。
    たしか書評で気になり購入。新規技術開発の部分より、むしろその技術をどのように広げるかの部分について学ぶべき点が多い。昔の事例ではあるが、業界標準に認定してもらうために行った活動、特許を取得せずオープンにすることでユーザー側に用途開拓してもらう戦略など、今でも参考になる。なお、本書では人物に焦点を当てているが、臨場感が出て読みやすさに寄与していると感じた。

  • 「QRコードの奇跡」を電子書籍で読了。

    世界中に普及しているQRコードの誕生と開発の歴史が詳細に描かれているビジネス本。QRコードを特許無償開放しなければ、PayPayなどのスマホ決済も誕生しなかったかもしれません。

    印象に残ったのは、開発に行き詰まっていた時の開発者の言葉。

     「迷ったら手を動かす。行動し続けていれば、たとえ失敗してもヒントが得られて次のステップにつながる」

    新型コロナウイルスで先が見えない今、この言葉を胸に刻んで前に進んでいきたいと思います。

  •  現在、日本のみならず、世界各国で利用されているQRコードであるが、本書はQRコードの基礎事項の説明と誕生までの歴史を紐解く。まず、QRコードとはそもそも、どんなもので、どのような機能があるのかを説明するが、これには大きく3つの特徴がある。具体的に言うと、QRコードは、自動認識技術の一つであること、QRコードリーダーとセットではじめて実現すること、情報を担うものである。これは、バーの幅の太さで情報を読み取れるバーコード(捨てバー、データ、インデックス、チェックディジットで構成)以上の情報を収納できる。(ちなみに、QRコードは白と黒の点の配列で構成)以上がQRコードの基本的な情報である。
     次に誕生までの歴史に触れるが、QRコードは、トヨタ自動車の電装部でのちのデンソーによって開発された。元々は、トヨタ生産方式で使われた「かんばん」と呼ばれるバーコード(当時はNDコードと呼ばれていた)がしばらく使われたが、情報をより収納したいという要望で、新人の技術者を中心に開発が進んだ。
     このように、QRコードの誕生は、トヨタの部品供給企業、言い換えると、トヨタにとって細部、局所の企業から、新たなイノベーションが生まれたのは興味深い。

  • 普段何気なく利活用しているQRコード、どういった経緯で開発が始まったのか?開発中、開発後の障碍は何があったのか?誕生以降これまでにQRコード自体どういう進歩があったのか?

    日本初の技術にまつわるストーリーが大変面白かった。読みながらプロジェクトXの音楽が頭の中で鳴っているようでした(笑)

  • QRコードがどのように開発され、広まったのかを解説した本。QRコードの前身であるNDコードから話は始まる。開発の過程ではコードそのものだけでなく、印字品質や耐久性なども大きな課題になっているのが泥臭い。

    デンソーがコードを開発するに至ったのは、トヨタの「かんばん」に限界が来ていたからである。部品数が増え、かんばんから様々な伝票を作成しなくてはいけない。この工数が無視できないほど大きくなり、自動化する必要に迫られたのだ。

    そのためバーコードを二次元化したNDコードを開発したのだが、油汚れの多いエンジン工場でも使えないと導入できないと言われる。かんばんを入れる箱に油が溜まっていることは日常茶飯事で、油に浸かった状態でも印字が消えず、読み取れなくてはいけない。そのため開発者たちは工場で使っている油を全て取り寄せ、耐久評価を行う。

    このような話を聞くと、つい仕事を思い出して「バカじゃないか」と言いたくなる。現状の方式で多大な工数がかかっているのだから、ゼロベースでやり方を見直し、かんばんが油で汚れない工夫をするべきではないか、と。だが強引に油汚れに打ち勝つ方向で進めたことで、デンソーのコードとリーダーは汚れに対して強く、素早く読み取れるものとなった。結果、様々な分野で使われるようになり、現在は知っての通り支払いでも使われている。これは最初が劣悪な環境だったからこそ達成できたことだ。現状の方式に合わせて開発するか、全体を見直すか。どちらがいいのかは簡単には分からない。

  • へぇ〜の連続。、ただ、儚かった。
    QRコードはデンソーがトヨタのかんばん方式を改善する過程で生まれた。
    普及した理由は、規格を世界業界跨いで標準化したから。デンソーは当初ライセンスではなく、コード読み取り機やコード作成ソフトで儲けることを狙ってた。しかし、QRコード規格が標準化されたことで読み取り機が汎用的になり、デンソーのどんなバーコードでも読める機械の強みが失われていった。儚い。バーコードで先行してたアメリカと特許で戦争する投資は不合理だったんだろうなあ、と思ったり。

    QRコードを開発したデンソーがトヨタに営業した際、従来通りの紙ベースかんばん方式継続の意思が強い生産管理関連部署はQRコード導入に反対したため、従来のやり方にこだわりを持たない物流管理部署に営業して好反応だった話、何にでも応用できるな。味方作り。


    QRコードとインターネット接続はシャープと日本テレコムが起源。キャリアはQRコードで通信量増加を狙った。
    当時、日本テレコムさんはじめ、auさん、NTTドコモさんのような携帯電話キャリアのプラットフォーマーとしての収益力が高く、携帯電話端末メーカーに対する発言力もありました。当社のようなメーカーからすると、新機能や新サービスをキャリアに標準仕様として採用してもらうことで、一気に普及が進むというメリットがありました。
     そうした背景から、QRコード読取機能についても、シャープだけのものにすることはせず、他の端末メーカーにも搭載されるような標準機能となりました。QRコードの利用が日本の消費者に普及し浸透したのは、データ通信量の増加をもくろむ携帯電話のキャリアの思惑と、それに歩調を合わせながら特長機能を普及させていく端末メーカーとの関係に一因があったのではないでしょうか。


    QRコード決済普及
    中国はPCよりスマホが普及。スマホでQRコードを読み取り、インターネット接続していた。Alibabaは自動販売機とタクシーに狙いを定め、QRコード決済を普及させた。当時自販機は現金を読み取ってくれないことが多かった。

  • 技術的な内容はほとんど触れられていない。

    バーコードは1949年に発明され、1952年に特許が取得された。
    QRコードはもともとデンソーの工場で使われるために発明されたもので、汚れなどによるエラー回復の機能など設計面ですぐれたところが多々ある。一番よかったのは特許化せずに自由に使わせたことで、それが中国でのコード決済など、世界中で広く使われるきっかけになった。

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著者プロフィール

小川 進(オガワ ススム)
神戸大学大学院経営学研究科教授、MITリサーチ・アフィリエイト
1964年兵庫県生まれ。87年神戸大学経営学部卒業、98年マサチューセッツ工科大学(MIT)スローン経営大学院にてPh.D.取得。2003年より現職。研究領域は、イノベーション、経営戦略、マーケティング。
主な著作に『イノベーションの発生論理』『はじめてのマーケティング』(ともに千倉書房)、『競争的共創論』(白桃書房)、『ユーザーイノベーション』(東洋経済新報社)がある。
英語論文では、フランク・ピラーとの共著“Reducing the Risks of New Product Development”やエリック・フォン・ヒッペルらとの共著“The Age of the Consumer-Innovator”(ともにMIT Sloan Management Review掲載)などがあり、ユーザーイノベーション研究では世界的な評価を得ている。組織学会高宮晋賞(2001年)、吉田秀雄賞(2011年、準賞)、高橋亀吉記念賞(2012年、優秀作)などを受賞。

「2020年 『QRコードの奇跡』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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