三体Ⅱ 黒暗森林(下) [Kindle]

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感想・レビュー・書評

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  • 黒暗森林の下巻は羅輯以外の二人が八年後に人工冬眠から目覚めたところから始まる。
    テクノロジーが発達し彼らの面壁計画に少しずつ現実性が増すも、うち一つの作戦は破壁人により、看破される。

    そして185年ののち、羅輯や先に冬眠していた史強、そして宇宙軍の将校・章北海ら多くの冬眠者が目覚める。
    冬眠の間に人類は「大峡谷」と呼ばれる大きな絶望の時代を経て、”技術爆発”と称される科学の発展を達成し、地下に大規模な都市を築き、三体文明への驚異もなくなっていた。人類は三体文明への勝利を確信していた。
    間も無く三体文明の発信した”探査機”が近づこうという時、宇宙艦隊”自然選択”に載り艦長代理を務めた章北海は、宇宙空間への逃亡に出る。
    強固な勝利主義者と思われた彼は、実はとうに人類文明の敗北を確信し、”逃亡主義”にのみ希望を見出していた。

    一方で他の宇宙艦隊は”探査機”の捕獲を準備していた。
    一巻から続けて出てくる丁儀(史強以外では唯一?)がその探査機に触れ分析すると、それは完全な”強い相互作用”による物体で、人類の持つ武器では破壊できない代物だった。
    人類の誇る幾千の艦隊が、その小さな探査機1つに破壊され、人類文明はパニックを迎える。

    もはや希望を失い、章北海と同じ”逃亡主義”にのみ傾く中で、宛先のない宇宙空間への逃亡を選んだ艦隊たちも、燃料をはじめとする資源の問題に直面する。残されたのは互いの資源を奪い合うことのみ、だった。
    章北海は他の艦隊への攻撃を仕掛けようとするも。それより少し早く、攻撃を受けてしまった。”自然選択”の乗組員たちは全滅する。

    希望を失った地球文明で、誰も期待しなくなった面壁者の羅輯。
    しかし彼の本当の作戦は「”呪文”を太陽系と地球にかけ、”暗い森”の中に解き放つ手段を手に入れること」であった。
    「宇宙社会の公理」を授けられた葉文潔と楊冬の墓の前で、羅輯は智子との最後の交渉を行う。

    本作で一旦三体文明の脅威は去る。結局人類は三体文明に及ばなかったが、最後は他の面壁作戦に似て、実質的な相討ちの脅迫により危機を逃れた。
    宇宙文明は”暗い森”であり、まさにハンターたちが互いに息を潜め、狩りを行う、慈悲のない世界。
    ストーリーとしては漫画レベルなのかもしれないが、とにかく引き込まれる。
    三巻の死神永生はどんな内容になるのか・・待ちきれませんね。。

  •  すごい長い時間をかけて上下巻を読み終わった、、、。
    でこその疲労に合う壮大な物語、黒暗森林の意味に宇宙の不条理さと恐ろしさを感じた。
     上下巻ともなるとやはりすごいスケールだった。そしてこの結末で死神永世にどうつながるんだろうと期待と不安がすごい笑
     劉慈欣のアイデアと構成力には本当に脱帽する。
     まだまだ長い旅になるが、楽しんで三体の旅を続けたい。

  • 三体文明がなぜか脅威と感じる宇宙社会学者のやる気のない感じがいい。
    冬眠から覚めてもある天体に向け放った呪文の成果について気にするより、目の前の日常や妻子が第一で、気負いなど感じられず肩の力が抜けている。
    読者は最後までこの脱力具合に騙され、最後に明かされる真相を知り、彼の異能に舌を巻くことに。
    もうこれからは、純粋な気持ちで映画『コンタクト』など観れないし、地球外生命体と人類の接触の物語も、常に第三者の存在が頭にチラつくようになった。
    ただ三体も情けない。
    先発機の圧倒的な力をもってすれば、やりようがあっただろ。

    「黒暗森林」理論も、なるほどと思う一方で、釈然としない部分も残る。
    これだけ探しても地球外生命体が見つからない理由の説明にはなっているが、狩人の標的にされ一瞬で消滅させられるというのは、少し安直すぎる。
    技術や知能の発達は不明でも、知的生命体が育つことのできた惑星の希少性は無視されるのか?
    それに技術爆発も、彼我の比較すら困難なほど圧倒的に進歩した場合、第一条件の意思疎通の困難さは解消される可能性があるのではないかとも思ってみたり。
    クライマックスの智子を呼び出しての脅迫交渉を見せられると、強くそう思った。

  •  現代編をちょろっとしてついに二世紀先の未来へ。現代と変わらない科学技術って感じなのに冷凍睡眠技術がしっかりあるせいで未来でも史強は引き続き出てくる。作者のお気に入りすぎる。
     作者の重厚な表現を持って書く宇宙での特大の戦いはすげぇわ。長くてクドいと感じるところもあるけど、ここまでじっくり書くのに脱帽。
     一番好きなのはラスト。いままでの総決算だ。1から続いた物語にひとつの区切りが打たれる。メチャクチャ良いと思える終わりなんだけど一方400年の戦いをあと2巻に渡り描くことを期待してたからここで一度終わってしまうのはちょいと悲しい。ただここで終わらなかったら陰鬱な話が続くだろうしちょうどよいタイミングかもね

  • 難しい。 ただ三体人との絶望的な状況での戦いであると考えるとちょっとまだ読み続けられるか。
    主人公が最後に三体人への対抗手段で地球の危機を救ったことは凄かった。次は1年後。忘れてしまいそう。

  • 暗黒の宇宙から迫りくる三体艦隊
    “わたしがおまえを滅ぼすとして、それがおまえとなんの関係がある?”

    対する地球では智子の監視にも関わらず科学技術が爆発的な進化を迎えていた。
    「人間性の解放は、必然的に科学とテクノロジーの進歩をもたらす」

    面壁人としての羅輯(逻辑=logicだ!)の戦略は?

    “星に呪いを”

  • はぁぁ……馬鹿っおもれっっーーー!!

    上下巻もある本作『黒喑森林』総ページ数は
    なんと!700ページにも及ぶボリューム!!
    しかしながら一切の中だるみはなく
    読み入る事間違いなし!!
    前作『三体』を大きく凌駕する壮大な物語になっていました!!

    よーし!ネタバレ全開、自己満全開で感想言ってきまーす!!

    前作で三体文明が明らかになり、400年後の地球に侵略して来ますよ〜ってな具合だった前作……
    そして今回は人類もね!負けてられない!
    上等じゃあねーかよ!やってるよ!と
    息巻いてたんですが……如何せん.…文明の差が
    ありすぎて…太刀打ちできない…
    尚且つ、智子(ソフォン)という。
    多次元陽子のスーパーコンピュータが
    科学進歩の障壁となり科学進歩の衰退と
    地球全体の監視する事による情報の筒抜け
    以上の事が判明した人類は…「やべ…マジ詰んだわ…」と意気消沈…
    世の中では三体星人来るから宇宙に逃げようぜ!という。逃亡主義まで誕生してしまう始末……
    しかし!
    人類も黙っちゃ〜いない!!
    『面壁者計画』を実行!!
    この計画は三体星人が唯一読み取れない。
    人間の脳を利用した計画になっている。
    簡単に言うと一人の人間に最終決戦までの
    戦略を一人で考えろ!一人でだ!
    一切の助けもなく、頭の中で考え
    来るべき時に実行しろ!との事…
    いや…プレッシャー半端ない……無理…
    人類の存亡を一個人に託すとか…無理…
    えげつない重責……
    そして世界から四人の面壁者が先発された。

    アメリカの国家戦略に多大な影響を及ぼした。
    行動する巨人こと
    フレデリック・タイラー

    南米の雄!米国を撤退させたミサイルマニア
    ベネズエラ大統領 
    マニュエル・レイ・ディアス

    ノーベル賞ダブル受賞、脳科学のスペシャリスト
    妻の恵子にゾッコンラブ!
    ビル・ハインズ

    宇宙社会学者、天文学者、
    そして輝かしい功績など一切なし!
    そんなもんカンケーねー!
    羅輯

    さ〜一癖も二癖もあるありそうな…四人の面壁者が400年後の決戦に向けて戦略を思考する。
    果てしなすぎて想像できねーよ!笑笑
    まぁ〜主人公の羅輯の計画が1番やばいのだが!
    個人的にはディアスの計画がめちゃ良かった〜
    良かった〜というよりはウケた笑笑
    三体星人に勝てないと踏んだディアスは
    100万発の恒星型水素爆弾で水星を爆破しその衝撃で水星と太陽を衝突させて連鎖反応で
    太陽系もろとも崩壊させるという…捨て身作戦…笑笑
    やべぇ〜まじ凄まじすぎる笑笑

    しかしね、三体星人も黙ってはない!
    三体協会を駆使して対面壁者の刺客を送り込む
    その名も…『破壁人』ウォールブレイカー…
    名前めちゃ!か、かっこいい…
    そのウォールブレイカーたちが各々の面壁者と相対するのだが、、肉弾戦と思いきや、、、
    ガッツリの頭脳バトル
    犯人対名探偵の様な頭脳合戦
    見事な推理力を披露するシーンは圧巻で
    読み応え抜群!!
    次々と論破されまくる面壁者たちは慄きまくるしかない!
    素晴らしいデスカッションでした。

    しかし…一人だけ攻略できなかった人物がいました。それが本作の主人公、羅輯くん
    彼は何をしたかというと…理想の別荘地に理想の家に自分の、どストライクな理想の女性を
    面壁法に則り用意してもらい、
    仲睦まじく隠居生活を送っていくのでした….
    …何してんねんッッ!!と三体星人はおろか
    総人類から総ツッコミを受けたことは間違いないでしょう。笑笑
    しかし奥さんの体を張った説得により
    ようやく戦略を考える事にそして…その戦略が
    なんと…恒星187J3X1の惑星に対して…
    呪文を唱えたのでした………え?笑笑
    これを聞いた国連の代表理事国の皆様
    鳩が豆鉄砲をくらったどころか
    鳩がロケットランチャーをくらってしまった。
    状況に陥りした。笑
    うん、わかるよ、僕も何言ってんの?って思いましたよ。笑笑
    そしてそのまま冷凍冬眠することにした羅輯くんでした……わぁーお

    さてここまでが前半戦でした…ながっ!!笑笑

    では後半戦行ってみよー!!

    さて来るべき時が来たとの事で時代は
    危機紀元205年…
    実に185年間も寝ていた羅輯くん…
    すげぇ…つか、実際に冷凍冬眠はあるらしい…
    現在、世界で300人程度が保存のこと…まじかよ
    さて、未来の地球は暗黒時代を想像していたのだが、
    まるっきり逆の近未来的な世界に変わっており
    確かに暗黒時代なる大峡谷時代という
    激ヤバ世界恐慌があったの事、、恐ろしい…
    しかしそれを経てたのちに科学技術の爆発が
    起きて一気に太陽系を全網羅するまでのレベルに至ったらしい…爆発力がすごい
    地球では地下都市なるものがあり
    そして宇宙では…恒星級航宙艦という宇宙戦艦まである始末…ひゃあー
    しかも千隻以上と来た…やばい…人類の底力やばい
    高エネルギー砲に電磁砲…勝った…三体星人に
    勝った…と思わず、胸躍るぐらいに凄まじ軍事力になっていた地球文明
    そしていよいよ最終決戦の前哨戦が開戦
    三体艦隊、探査機『水滴』1隻
          vs
    地球連合艦隊、恒星級航宙艦2500隻

    いざ!開戦!!
    いや、待て待て、お前らどんだけビビり散らかしとるや!!笑笑
    2500!アホか!
    1隻に対して2500隻…圧倒的戦力…
    しかし…蓋を開けてみると…連合艦隊の惨敗
    光速で動き回る水滴はその速さと無敵の硬さで
    突撃し次々に戦艦の横っ腹をぶち抜き
    ものの20分で1000隻を沈めた…やばっ
    終わってみれば無事に帰還した艦はなんと…
    2隻……終わったな…地球…笑
    三体文明…恐るべし!笑笑
    天国から地獄に綺麗に叩き落とされた人類
    もうカオス状態に陥る。
    しかしここで立ち上がった人物が…
    唯一の面壁者こと羅輯くん!
    人類の為ではなく家族のために挑んだ様に
    個人的には思えた。
    彼には秘策があり、それがあの冬眠前にした
    『呪文』だったんですよ。
    こっからやばいかった。
    簡単に説明すると
    タイトルにある『黒喑森林』という理論に基づき
    やられる前にやる心理をうまく利用したのです
    そこであの呪文言うのが地球と三体星の
    位置を宇宙に向けて大々的に発表しようという
    呪文だったんですよ。
    そんな事したらどうなるかというと
    普通の文明ならフルシカト
    しかし中には跳ねっ返りみたいなイケイケな文明がいるわけですよ
    その証拠に最初に送った呪文のせいで恒星187J3Xは木端みじんに破壊されました。
    さてそれを交渉材料に三体星人に持ちかけた。
    羅輯くん、三体星人はすべての要求を飲まずには
    いられなかった…なぜかって?
    そんなことしたら他の文明が、地球にやって来て
    人類はおろか三体星人も殲滅させられる可能性が
    あったのでした。
    こうして三体危機に打ち勝つ事ができたのです
    ちゃんちゃん!という物語でした。

    だいぶ長くなったな…笑笑
    さて今回の黒喑森林は非常〜〜に濃ゆい内容でした。
    三体危機が始まり人間社会がどうなるかと
    政治、経済、と細かく書いていて
    面白さ抜群でした!
    そしてなんといっても人類対三体の頭脳戦は
    見事な内容でとても良かったです!!
    さて、いよいよ自作『死神永生』でいよいよ完結
    果たして!どうなるのか!…わかりません!
    読むしかない!!
    読むぞーーーーー!!٩(๑ᵒ̴̶̷͈̀ ᗜ ᵒ̴̶̷͈́)و ̑̑ ✧わぁ~ぃ

  • 三体Ⅱ 黒暗森林(下) 2020

    黒暗森林(こくあんしんりん)と読む
    2020年6月25日電子書籍版発行
    著者 劉慈欣(りゅうじきん)
    訳者 大森望 立原透耶 上原 かおり 泊 功
    扉イラスト 富安健一郎

    劉慈欣(りゅう じきん、リウ・ツーシン、1963年6月23日 - )は、中華人民共和国のSF作家。山西省陽泉出身。本業はエンジニアで、発電所のコンピュータ管理を担当している。
    中学生のころから創作を開始。1999年、中国のSF雑誌『科幻世界(中国語版)』でデビュー。その後、銀河賞に連続して入選。2010年、第1回中国星雲賞(世界華人SF協会主催)で作家賞を受賞(韓松と同時受賞)。2015年、アジア人初のヒューゴー賞受賞者となった。
    SFに興味を持つきっかけになったのはジュール・ヴェルヌ『地底旅行』で、その後アーサー・C・クラークの『2001年宇宙の旅』で本格的にSFにのめり込むようになった。

    『三体II 黒暗森林』(さんたい に こくあんしんりん)は、劉慈欣による小説である。中国のSF、地球往事三部作(中国語版)の第二弾であり、2008年5月に重慶出版社より出版された。プロローグと3つの章(面壁者・呪文・黒暗森林)より構成される。
    2020年には早川書房より日本語版が出版された。

    あらすじ
    地球三体組織(Earth Three-body Organization, ETO)の精神的首領である葉文潔は、ETO成員として逮捕される前に、娘の高校時代の同窓だった羅輯と会った。そして葉文潔は羅輯に宇宙社会学————つまりもし宇宙に数知れない文明があるとしたら、その文明たちにどんな社会が成立つか——を研究しないかと勧めた。その後、彼女は羅輯に宇宙社会学の二つの公理を授けた。

    1. 文明は生き残ることを最優先とする。
    2. 文明は成長し拡大するが、宇宙の総質量は一定である。
    この二つの公理のほか、彼女は羅輯に二つの言葉: 猜疑連鎖と技術爆発をヒントとして与えた。この会話を「目撃」したのは、その場にいる蟻と、どこかに潜んでいる「智子」(三体文明に一個の陽子で造られたスーパーコンピュータ)だけだった。この会話の後、羅輯はETOの残党に命を狙われることになったが、運よくETOによる暗殺から逃れた。

    ETO鎮圧で三体文明の侵略計画を明らかにした地球人類社会は、危機紀元に入った(危機元年=西暦201X年)。人工冬眠などの技術が開発されるものの、智子による妨害のせいで、素粒子物理学などの基礎科学のさらなる発展は最早不可能となった。民衆の懐疑論と敗北主義を危惧した各国政府は、来るべき三体人の侵略に備えて、準備を始めた。国連は、惑星防御理事会(英語:Planetary Defense Council, PDC)を創立し、各大国も宇宙艦隊の建設と宇宙軍兵士の養成に着手した。しかし、三体文明は智子を使うことで、地球人の様々なコミュニケーションや文書を盗聴・閲覧でき、もはや三体人にとって地球人の戦略は開かれた箱のようなものであった。

    各国政府は時間をかけて、以下の事実を究明した。

    長い間進化してきた三体星系の生物は、地球生命体がコミュニケーションを果たすための器官に引き替え、脳が思考・脳波を、可視光線を含める電磁波に変えて放出する機能を有する。彼らの思考は常に周りに晒されて、意思伝達も即座に行える。それゆえ、彼らにとって、「思う」と「言う」とは同義語であり、陰謀や詐欺などの単語は存在しない。
    この知識を手に入れたPDCは、地球人と三体人の思考方式の違いを利用する面壁計画を考案した。面壁計画とはまず、世界各地から数人の適切者(「面壁者」と呼ぶ)を選抜し、彼らに、一人で三体人の侵略を負かす計略を練る責務を授ける。地球上は、くまなく三体文明の智子の監視下に置かれているものの、人間の思考はその例外であったのである。面壁計画によって、面壁者は強大な権限を持ち、戦争資源の一部を調達できる。しかし彼らは自分の行動の本意を誰にも分からないように紛らさなければならない。地球人は科学技術面で劣るものの、計略をうまく巡らせれば三体人を罠に陥れ、戦争に勝利できるかもしれない。

    羅輯は自分が四人の面壁者の一人に選ばれたことを知らされた。世間に無頓着で、女と戯れることが好きな羅輯は、自分に与えられたそんな使命に何の共感もなく、その指名を辞退しようとした。だが、「その辞退も面壁者としての策略なのではないか」と疑われる始末だった。面壁者の地位を辞退しようにも辞退できない羅輯は、自分が新たに得た権限を最大限に利用すると決意した。彼はPDCに、自分の嫁探しの手伝いを要求した。史警官の助力で彼は自分の夢の恋人を探し出し、とある世間離れた所で厳しい警備を持ちながら妻とのんびりとした生活を送った。

    三体文明は面壁計画と対抗すべく、人類の協力者・ETOの残党に助けを求めた。そのETOの残党は面壁者たちの相手として破壁人を選び、破壁人に「面壁者の計略を看破し、彼らの策を無効化せよ」との指示を出した。羅輯以外の面壁者3人にはそれぞれ破壁人が充てられたが、羅輯だけは「彼は自分自身の壁を破って主と直接対決する」とし、破壁人を充てられなかった。

    面壁者の一人目・元アメリカ合衆国国防長官テイラーは僅かな期間で破壁人に看破された。彼はスーパー水爆と自動操作可能な宇宙戦闘機・蚊群編隊を三体人と決戦する際の武器として準備し続けたかのように見えたが、なんと真の計画は、決戦時に蚊群編隊で地球軍を壊滅させ、長い航海を経た三体人が喜ぶであろう大量の水(何度も戦艦内で「脱水」と「再水化」を繰り返した三体人にとって、新鮮な水は当然好まれるはずである)を手土産に、三体艦隊に降伏するふりをし、ゼロ距離でスーパー水爆で攻撃するというものであった。全世界にその計画を暴かれ、絶望した彼は面壁者羅輯の隠居所を訪れた後、自殺した。

    面壁者の二人目・マニュエル・レイ=ディアスは、ウゴ・チャベスを彷彿させるとある南米国家の元大統領である。彼はどんな国家でも簡単に入手できる技術を巧みに武器生産に活用し、ゲリラ戦で米軍の侵略を見事に挫いた。面壁者の三人目・ビル・ハインズは英国の科学者・政治家である。彼は妻・山杉恵子との共同脳科学研究で画期的な研究結果を発見、その功績によりノーベル物理学賞とノーベル生理学・医学賞にノミネートされた。この面壁者二人の計画は、当時の人類のテクノロジーでは実現不可能であった(核融合と高性能計算機が十分なレベルに達していなかった)ので、彼らは自分たちの計画に技術が追いつくまで人工冬眠をすると決めた。

    羅輯は楽園で隠遁生活を5年続けた後、遂にPDCに面壁者としての仕事を強要された。彼の嫁と娘はPDCの決議で人工冬眠させられ、彼に「世界の終りで貴方を待つ」と書かれた手紙を残した。またその頃、宇宙塵を通過した三体艦隊の航跡がハッブル望遠鏡IIによって初めて観測され、三体艦隊は実際には地球に向かっていないのではないか、という懐疑論は終止符を打たれた。

    羅輯は自分が面壁者に選ばれた訳を改めて考えていた。数ヶ月瞑想したあと、羅輯はある夜遂に、葉文潔との会話から、宇宙の文明に関わる暗い法則を発見してしまった。自分の仮説を立証するために、羅輯は“呪文”、すなわち、「87J3X1という遠い星系の位置情報を、太陽の増幅反射機能を使って宇宙へ送信する」提案をPDCに提出した。“呪文”が発信されてから間もなく、羅輯はETOが三体人の援助を受けて開発したDNA誘導式生物兵器(軽いインフルエンザのような症状を発症するだけだが、特定の人のDNAを検出すると致死性に変わるウイルス)に感染し、人工冬眠を余儀なくされた。羅輯は、“呪文”が効かないうちは自分を起こさないで欲しいと要求した。

    羅輯が冬眠してから4年が経ち、時は危機紀元12年。また別の宇宙塵を通過した際の三体艦隊の航跡に、1000隻の戦艦から、10個の加速する探知機が発射されたとのことが明らかになった。太陽系と三体星系との距離は4光年であるため、探知器が発射されたのは4年前であり、逆算すると正に羅輯が“呪文”の発信計画をPDCに提出した日であった。

    レイ=ディアスとハインズの計画に必要な技術は、彼らの冬眠からわずか8年後である危機紀元20年に実現され、同時に人工冬眠から起こされた。しかしレイ=ディアスは冬眠から起こされてから間もなくETOの破壁人に看破された。彼の真の目的は、水星に水素爆弾を配置して爆発させることにより、水星の公転を停止させ太陽に突っ込ませ、最終的に太陽系を壊滅させることを可能にし、三体文明を脅迫するというものだった。計画を暴れた後、レイ=ディアスは何とか祖国に戻ったが、怒り狂った自国国民に撲殺されてしまった。

    一方、ハインズは精神印章と呼ばれる機械を発明した。精神印章とは、物理的にニューロンに影響を与える洗脳装置のようなものであり、たとえば「人類は必ず戦争に勝利する」という命題を精神印章によって脳裏に押印された人間は、いかなる不利な状況に置かれてもその考えが揺らぐことはない。宇宙軍人であり、なおかつ自身が希望した場合のみに限り、精神印章を受けられることがPDCにより採決された。精神印章を受けた人々は刻印族と呼ばれた。しかし、実はハインズ自身が敗北主義者であり、彼は密かに精神印章に保存された「人類は必ず戦争に勝利する」という命題を、「人類は必ず戦争に敗北する」と書き換えていた。

    危機紀元205年に人工冬眠から起こされた羅輯が見た世界は一変していた。人類社会は、半世紀にも続いた、世界人口の2/3を失った大不況(通称「大峡谷」)を乗り越えていた。同時に、科学技術も順調に発展し、核融合炉などのテクノロジーの進歩も遂げられていた。ほぼ無限のエネルギー・食糧供給を得た人類は再軍備を始め、「三大艦隊」(亜細亜艦隊・北米艦隊・欧州艦隊)と呼ばれる宇宙空間上にある独立国家が誕生した。人類社会は危機の終焉と、三体文明に対する人類の優勢を確信していた。これにより、面壁計画は中止され、羅輯とハインズは面壁者としての権限も剥奪された。

    未来への増援として危機紀元初年に人工冬眠された宇宙軍将校・章しょう 北海ほっかいは、亜細亜艦隊にて、自然選択という名の巡洋艦の執行艦長に指名された。艦隊上層部は、どこに潜んでいるともわからない敗北主義である刻印族が、宇宙戦艦をハイジャックし、宇宙へ逃亡することを恐れて、章北海のような精神印章が発明される前に冬眠された将校を艦長に起用したのだった。

    太陽系に来たる三体艦隊の最初の探知機との接触の備え、「三大艦隊」は2000隻の戦艦を木星基地に集結させた。危機紀元前生まれの物理学者・丁儀ちょう ぎは二人の艦隊事務官と一緒に、雫の形をした三体艦隊の探知器(以下「水滴」)を間近で観察し、その探知機の表面が完璧に滑らかであり、それが強い相互作用によるものであると考察した。直後、「水滴」が動き出し、人類の艦船を一隻一隻、猛スピードの体当たりによって破壊した。20分にも及ばないうちに、三大艦隊の2000隻の戦艦は、逃走に成功した数隻を除いて全滅した。逃走した戦艦の中に、自然選択も含まれていた。

    艦隊の惨敗を目の当たりにした人類社会は取り乱し、崩壊が始まった。だが、さらに恐ろしいことに、成功に逃走した戦艦同士で、内ゲバが行われた。限られた核燃料とスペア部品しか持っておらず、ある戦艦が他の全戦艦の燃料と部品を奪うために全滅させてしまったのである。

    その一年後、187J3X1星系が破壊されたことが観測されると、羅輯は再び面壁者としての権限を得た。"呪文"と戦艦同士での内ゲバは羅輯の仮説を立証した。

    この仮説は、以下の二つの定理が前提となる。

    ・猜疑連鎖:宇宙の文明と文明は、文化的な違いと非常に遠い距離に隔てられているために、お互いに理解することも信頼することも不可能である。国際関係論でいう「安全保障のジレンマ」と似た概念であるが、地球上の国同士と違い、宇宙の文明間だとコミュニケーションに制約があり、互いに猜疑心が深まる一方となる。

    ・技術爆発:宇宙の時間的スケールから見れば、たとえ文明が発展段階にある惑星があったとしても、突然、技術革新が起こり、他文明の脅威になる可能性がある。

    以上二つの定理により導き出される結論は、もし宇宙の中に他の文明を見つけたら、生存のための最善策はすぐに相手を消滅させる、ということである。見つけた相手の文明が善意を持っているのか、悪意を持っているのか分からず、また、文明が発展段階であったとしても、急激な技術革新を起こし、脅威になる可能性があるからである。そのような状況下では、他の文明に見つからないよう隠れることが重要である。自分の存在を曝すと、即座に他の文明から攻撃される恐れがあるからである。例えるならば、宇宙は暗黒の森であり、あらゆる文明は猟銃を携えた狩人で、幽霊のようにひっそりと森の中に隠れている。もしほかの生命を発見したら、それが獲物であろうと、別の狩人であろうと、出来ることは銃のひきがねを引いて、相手を消滅させる。

    「水滴」は地球に接近し、"呪文"をこれ以上送信できないよう、ジャミングにより太陽の増幅反射機能を封印した。

    羅輯は水素爆弾を海王星で爆破させ、油膜を宇宙に広げることで三体艦隊の航跡を突き止める作業に従事した。しかし、実際には三体人に気づかれないうちに、水素爆弾の同時爆破によって、三体星系の座標を符号化した情報を宇宙に発信することの準備を整えていた。

    その後、彼は葉文潔の墓の前で、智子を介して三体文明と対決した。自分に銃を突きつけ、自分が死ねば三体星系の座標が宇宙に発信されると威嚇したのだ。結果的に、三体文明に地球侵攻を中止させることに成功した。「水滴」も太陽系から離れ、三体艦隊も方向転換を余儀なくされた。危機紀元は終わり、羅輯の妻と子供も冬眠から起こされ、再び彼と共に暮らしはじめた。


    以上のようにWikipediaで紹介される中国SF作品。
    中国語原本は2008年5月に出たものだ。
    現代社会での情勢分析などが今(2023年)と比較するとやや古く感じる所がある。
    冷戦が終わって久しいとか、そういうの。
    今、中国・ロシアとアメリカの新たな冷戦時代であるが故に少し懐かしい世界情勢だなと。
    結局、人間とは弱いもので共通の敵がいなければあっという間にお互いを罵しあい罵倒しだす。
    話を戻す。
    この下巻ではついに三体黒暗森林編が終了する。
    途中の水滴の体当たり攻撃で宇宙艦隊がほぼ全滅する場面には驚く。
    なんという絶望感だろう。
    恐ろしく硬く且つ(人類の兵器より)自在に動けるのであれば確かに有効な戦法ではある。
    章北海の敢えて戦線を脱出し残りの艦隊で戦うのか!!!と思わせてからの艦隊同士の内ゲバ・・・なんとも悲しい。
    そして宇宙空間という広さ故にも起こるその可能性が「猜疑連鎖」
    羅輯は葉文潔にそのヒントをもらい、実際に三体世界と対峙し見事に地球侵略を阻止したのだった。宇宙への呼びかけが危険になると。
    最後の最後にかつて葉文潔と最初にコンタクトした三体人(応答するな!と警告してくれた三体人)と羅輯がやり取りする辺は感慨深い。
    なんだかんだ綺麗に完結しちゃった???
    まだ続編上下巻があるけれども。

    黒暗森林では冬眠技術で舞台が未来になったこともあって、非常にSFっぽくなっている。
    史強が同じ未来についてきて活躍したことも幸いであった。
    ラストも史強出てきてくれたら良かったんやけど。

    2023/01/10(火)記述

  • 一巻目はSF✖️歴史の視点が面白くて、二巻目はSF✖️世界(外交)の視点が面白かった。

    ハードSFという分野があるらしく、これはそれに分類されるらしいが、個人的には科学の正しさよりも、フィクションたらしめる世界観の作り込みも備わっているところが評価されているところだと思う。

    最終巻がどうなるのか楽しみ。出るまでに読み終えられて良かった。

  • 上巻の伏線などしっかり回収してのクライマックス。割と上巻の「呪文」はこの時点で予想できたりするが、それが総合的にどういった動機でなされたものなのか、宇宙社会における猜疑連鎖に基づく「黒闇森林」理論と絡めて実に軽快に収束させてくれる。

    全体を通して科学な高度な言い回しをたくみに使いこないしているが、それでも決して難解にならない文体となっているところが、SFファン以外をも魅了して大ヒットとなった理由だと思う。

    クライマックスがあっさりとしているのでは?という印象もあるとは思うが、そうなるべく必然性がそれまでの「三体」「三体II上」「三体II下」の流れから構成されているのだ、と個人的には腑に落ちた。

    久々に寝る間を惜しんで読み込めるシリーズ小説だった。

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著者プロフィール

1963年、山西省陽泉生まれ。発電所でエンジニアとして働くかたわら、SF短篇を執筆。2008年に刊行された『三体』で人気に火が付き、“三体”三部作(『三体』『黒暗森林』『死神永生』)は中国で2100万部以上を売り上げた。2014年にはケン・リュウ訳の英訳版が刊行され、2015年、アジア人作家として初めてSF最大の賞であるヒューゴー賞を受賞。2019年には日本語訳版が刊行され、11万部を超える大ヒット。

「2023年 『神様の介護係』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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