ウイルスVS人類 (文春新書) [Kindle]

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感想・レビュー・書評

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  • 新型コロナウイルスとの闘いが続いています。
    ぼくの(そして恐らく多くの方の)関心は、端的に言って「ワクチンと治療薬の開発はいつか」、それとも密接に絡みますが「いつ収束するのか」の2点。
    打ってつけの本がありました。
    第一線で活躍する専門家が、新型コロナの脅威のさなかに行った徹底討論をまとめたのが本書。
    討論の内容はNHKの「BS1スペシャル ウイルスVS人類」で2回にわたって放送されました。
    コーディネーターは、作家で薬学博士の瀬名秀明さんです。
    瀬名さんといえば、ベストセラーのSF小説「パラサイト・イブ」。
    私も夢中で読んだ記憶があります。
    第1部「未知なる敵と闘うために」の出演者は、新型コロナの感染拡大防止の具体的対策を国に提言し指揮している押谷仁さん、気候変動の生態系への影響やヒアリなど外来生物の研究を進めている五箇公一さん。
    第2部「ワクチンと治療薬」は、2009年の新型インフルエンザのパンデミックをはじめ、国の感染症対策の検討・決定過程で中心的役割を担ってきている岡部信彦さん、感染症やウイルスの研究者で今回のウイルスについてもワクチンや治療薬の研究・開発を進めている河岡義裕さん、多くの患者の治療に当たり、治療法や既存の治療薬の効果の研究を進めている大曲貴夫さん。
    文字通り、第一線で活躍する研究者ばかりです。
    結論を急ぎます。
    ワクチンや治療薬の開発はいつになるのでしょうか。
    ワクチンについては、WHOが少なくとも12~18か月先との見解を先に公表しています。
    河岡さんは「重要なのはワクチンができるかできないかではなく、どれだけの人に打てるかという量の問題」と指摘したうえで、「十分な量が18か月以内で出来るかと言えば、非常に疑問だと思います」と述べています。
    治療薬については、既存の薬を転用した場合の有効性について語られています。
    大曲さんは「レムデシビルは、ウイルスを抑える効果があるとされる薬の中では、私の理解では、現時点で一番性能が良いのではないかと考えています」と述べています。
    一方で、河岡さんは「新薬の開発には、すごく時間がかかるのです」とも述べており、一筋縄ではいかないようです。
    では、収束はいつになるのでしょうか。
    米ハーバード大は先に、現状のままワクチンや治療薬がないと、流行を繰り返しながら、2022年ごろまで新型コロナウイルスの影響が続くと発表しました。
    河岡さんは「ウイルスあるいは公衆衛生、感染症の専門家は、みんな同じことを思っています」としたうえで、次のような見解を示します。
    「数年間は、今のような行動自粛と、感染が落ち着いてきたらそれを少し緩めるといった状況を繰り返して、このウイルスと付き合っていくしか方法はないのかなと思っています」
    「ウィズコロナ」と言われますが、コロナを織り込んで生活していく覚悟があらためて必要なのでしょう。
    私が本書を手に取ったのは、冒頭に申し上げた2点の関心からですが、本書の白眉はまさに、この「ウイルスとどう共生するか」の道筋を示している点ではないでしょうか。
    その点、「リスクの正体を掴むにはエビデンス(科学的証拠)が必要ですが、リスク管理、あるいはその予測対応という部分においては、エビデンスが揃うのを待っていては遅いんですよね。ある程度予想を立てて対策を進めながら、新しい情報が入れば、そのつど見直しを図ることが必要になる」との五箇さんの提言は貴重です。
    未知のウイルスに対処するのですから、間違いは仕方ないことです。
    間違いをあげつらったり、青筋立てて怒ったりせず、ある面では大らかに構えて、トライアンドエラーを繰り返しながら最善の道を探るほかありません。
    五箇さんは、江戸時代のような「過去に戻ることは不可能」としつつ、次のように提案します。
    「行き過ぎたグローバル化から脱却してローカリズムに軸足を移すこと、そしてきちんとした循環型社会をつくって地方経済を回していくといったライフスタイルの転換が、脱温暖化や生物多様性の保全、そして感染症リスクの低減といった諸問題を解決に導いてくれるのではないか」。
    こうした提案はこれまでも、たとえば日本総合研究所調査部主席研究員の藻谷浩介さんらもしており、決して珍しいものではありません。
    ただ、これまでは、どこか理想論的な響きがありました。
    今回の新型コロナの教訓を踏まえ、現実にこうした社会にシフトしていくべきではないでしょうか。

  • ふむ

  • パラサイト・イヴの作者でも知られるSF作家の瀬名さんが座長となって、コロナウィルスの現状と現在進行形の対策を記した本ですね。

    NHKで放送した2回の番組をベースに、情報を強化した本ですが、コロナウィルスとは何なのかというのが基礎的な部分から分かり、これからの対策はどのように進めたら良いかが丁寧に纏められた本。

    病気との闘いに加えて、経済をどのように回していくかも一緒に考える必要があるという考え方を早くから示していて、非常に示唆に富んだ本であると感じました。

    この本の出版は6月ですが、コロナウイルスの考え方は日々アップデートされますから、そろそろ現在の知見を纏めた第二弾の本を出して欲しいな、と感じました。

  • コロナウイルスへの対応について、専門家の話を的確に訊き出し理解を深めやすくしている。
    妥当で穏当な対応に終始している。日々のNHKニュースから受けるこの問題への報じ方とは非常に異なるとの印象。
    センセーショナルを心がけ、視聴者が誤った理解をしてしまうことを狙うがごときのテレビ番組とは違う内容。
    この本で説いているような真っ当な扱いでニュースもワイドショー的番組でも報じていただきたい。日本に於いて需要なことは「コロナ以外は何もない」的な報じ方から転換して欲しい。そういう内容で書かれた、編集されている。

  • 【日本の英知が未曽有の災厄に立ち向かう】未知のウイルスにいかに立ち向かうか。顕わになった現代文明の脆弱性を克服する道はあるのか。第一線の専門家が語り尽くす。

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著者プロフィール

1968年、静岡県生まれ。東北大学大学院薬学研究科(博士課程)在学中の95年『パラサイト・イヴ』で日本ホラー小説大賞を受賞し、作家デビュー。
小説の著作に、第19回日本SF大賞受賞作『BRAIN VALLEY』、『八月の博物館』『デカルトの密室』などがある。
他の著書に『大空の夢と大地の旅』、『パンデミックとたたかう』(押谷仁との共著)、『インフルエンザ21世紀』(鈴木康夫監修)など多数ある。

「2010年 『未来への周遊券』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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