アリ語で寝言を言いました (扶桑社BOOKS新書) [Kindle]

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  • アリ研究のエキスパートである著者が、とぼけた味のある砕けた文体で、研究旅行先のパナマや個性的な恩師、家庭内での出来事についてなどのプライベートなエピソードもふんだんに交えながら、両極を除いて世界中に広く分布するというアリの生態と社会にまつわる幅広い話題が繰り広げられる。

    著者が「社会進化の段階では(人間よりも)アリのほうが複雑で合理的」とするアリの社会は、キノコを育てるハキリアリから巣をつくらずノマディックな生活をするグンタイアリ、その名にそぐわず他種のアリに寄生するサムライアリなど、まさに多様で、「大きく発展した複雑な社会を築いたものもあれば、小さく慎み深い社会を営むものもいる」とする概説が実感できる。また、社会のなかでの役割を果たすため個体ごとに大きな違いをもつ場合もあり、同種のアリとは思えないようなその役目に特化した、場合によってはグロテスクとも表現できる個々の外形的な特徴の違いにも驚かされる。個人的には「一定の割合の働きアリは働かない」とする有名な「働きアリの法則」が、すべてのアリにあてはまるわけではなく、実質100%が働き通すアリも存在するなど一概に言えない点も、社会の多様性という話の流れもあって興味深く読めた。

    そして終章からあとがきにかけては、アリたちの多様性から顧みて、経済優先で画一化の流れにある現在の人間社会においても多様な個性や社会システムが許されるべきだという著者のメッセージ性が現れる。

    全般に驚かされる部分も多く面白く読めたが、前半は話題がコロコロ変わりすぎる散漫な印象もあり、その点は構成によっては解消できたようにも思えた。余談だが、どこまでも精子の伝達役としてしか扱われないアリのオスに対しての「絶対に生まれ変わりたくない」とする著者の見解に同意。

  • 安住紳一郎氏が勧めていたので読みました。研究者の皆さんの書く本は面白いものが多い気がします

  • 身近なクロヤマアリやクロナガアリを観察するのは大好き。でも本書はそのアリの世界は奥深いことを垣間見させてくれる。

    DNAの塩基配列で人とチンパンジーは約97%同じで、ヒト亜科が分岐したのは1300万年ほど前だが、アリが出現したのは1億5000万年前で、ハチとの共通祖先から分岐した。アリの進化の過程における大きな変化は翅を捨てたこと。ハチの方がアリより種が多様で社会形態も一匹で生きているものから集団生活をするものまでさまざまだが基本フォルムは変わらない。飛ばなくてはいけないという制約から逃れられないから。アリは飛ばないという選択によってある程度形が自由になった、とうのはなるほどと思う。飛ぶ生きものって鳥にしてもコウモリにしても飛ぶために体が制限されるよね。

    現在地球上には1万1千種、1京個体のありがいると言われている。生物量は人間とすべての野生哺乳類を足した重さと同じ程度らしい。

    女王アリだって寿命があるはずだけど、働き蟻だけになるとどうなるのだろうと思っていたけど、女王アリにいないコロニーで飼育下でちょうど7年生きたものがあるそうだ。自由アリ生活万歳???

    真社会性生物とは、集団が子どもを協力して育て、子どもを産まない個体が存在すること、繁殖だけを行う女王アリが存在すること世代が重なることで、アリ、ハチ、シロアリ、ハダカデバネズミ、ダマラランドデバネズミが知られていて、人間は亜社会性生物かあ。私は子どもを産まない個体。

    働き蟻が割り当てられる仕事は年齢によって決まっているってのは聞いたことがある。餌探しや偵察など巣から出る危険な仕事は老齢なアリだそうだ。たぶん行ったっきり帰ってこない率って高いんだろうなあ。事故に遭ったり潰されたり迷子になったり。

    どんぐりの中に巣を作りそれを一つのコロニーとするアリもいるし、自爆するアリもいる。

    アリのグルーミングは外から巣に帰ってきたとき微生物を持ち込まないよう体を清潔に保つためと仲間同士で体表炭化水素の成分を交換・混合し合う 同じ巣の仲間同士が同じにおいをまとう。でも多女王性は餌がなくて巣を作る場所が限定されるなど環境が厳しい場所で出現するものだけど、同じ巣の中で別のオスと交尾をした女王アリも産卵するので子どもどうしの遺伝子の近さも変わるつまりにおいが変わる必然として識別能力が下がるそのぶん協力的になることで多くの個体が生きられる。

    著者がバロコロラド島スミソニアン研究所で修士研究としてムカシキノコアリでは、外から巣に入るときは100%グルーミングするのは、キノコ畑に寄生性の細菌やウィルスを持ち込まないためであると。畑の基質は働き蟻が吐き出したゼリー状の菌床で、菌を食べるのは幼虫 修論をまとめている最中にもっと祖先的な形質を残したのはウロコキノコアリとの論文が発表されて愕然とする。

    キノコアリ・ハキリアリが栽培している共生菌は,地球上でキノコアリ・ハキリアリの巣の中にしか存在しない。このキノコにしか寄生しない菌がいてそれをやっつける抗生物質を出すバクテリアはキノコアリの体にしかいない。この場合、アリが菌を選んでいるというより菌がアリを選んでいる。キノコアリは少しだが花の蜜や果汁も摂取しているが、共生菌はカサを作るのをやめ胞子をつくるのをやめ100%クローン繁殖でアリのお世話にならないと次世代をつなぐことができない。

    キノコアリの体についている点々を本を読んでワックスだろうという推定で満足した村上氏と、培養して抗生物質を出す放線菌であることを見つけた文献をあまり読まないキャメロン氏の対比は、面白い。

    ハキリアリの女王の寿命は10-15年で、カナブンかセミかと思うくらい多いきい最も大きな女王アリの一つ結婚飛行で5-10個体のオスと交尾し5000万から3億の精子を貯蔵生涯に3000万個の卵を産む。ハキリアリの働き蟻の寿命は3ヶ月で、女王が死ぬとすぐキノコ畑がだめになりコロニーはあっというまに小さくなるそうだ。

    あまりにも小さいので聞き取れないが多くのアリ(フタフシアリやハリアリの仲間)は腹柄節(胸と腹の間のもう一節)で音を出し、脚と触覚にある基質振動と空気振動を受容する器官で聞いている。腹柄節をもつ昆虫はアリだけ。1つあるアリと2つあるアリがいる。これがタイトルになっているアリ語。

    ハキリアリの働き蟻は卵巣がないので例外的に女王アリがいなくなるとそのまま急激にコロニーが縮小して(働き蟻は寿命3ヶ月ほど)消滅するが通常は一部の働き蟻の卵巣が膨らんで卵を産む。精子をもっていないので、みな単為生殖でオスになる。新たな働き蟻を増やすことはできないのでだんだんコロニーは小さくなり、今いる働き蟻がいなくなったら消滅。

    シワクシケアリは2割がよく働き6割が普通に働き2割はあまり働かない。実質100%働く。10を越える体の大きさが異なるアリのクラスターがあり生まれたときから仕事が決まっていて生涯続く。

    テキサスのアレハダキノコアリは交尾できなかった女王アリは実家に戻って働き蟻として働く。出戻りなのね。でも女王候補から働きアリへのアリ生ってえらい降格・・・

    サムライアリの女王は最初クロヤマアリの女王を殺して巣を乗っ取り、クロヤマアリの働き蟻が少なくなってきたら奴隷狩りに行って繭や幼虫を盗んでくる。匂いでクロヤマアリを混乱させるので、あまり抵抗はないとのこと。

    ヒアリは原産地の南米では単女王性、アラバマに移入して多女王性(最大100個体以上)で血縁度はほとんど0で血縁認識行動をまったくとらなくなりコロニー同士も融合してスーパーコロニーとなる。6000キロに及ぶアルゼンチンアリの両端の個体をあわせても敵対行動は見られないとのこと。

    ハキリアリって、コスタリカで至るところで見かけた。もう一度行きたいなあ。

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著者プロフィール

九州大学持続可能な社会のための決断科学センター准教授1971年、神奈川県生まれ。茨城大学理学部卒、北海道大学大学院地球環境科学研究科博士課程修了。博士(地球環境科学)。研究テーマは菌食アリの行動生態、社会性生物の社会進化など。NHK Eテレ「又吉直樹のヘウレーカ!」ほかヒアリの生態についてなどメディア出演も多い。共著に『アリの社会 小さな虫の大きな知恵』(東海大学出版部)など。

「2020年 『アリ語で寝言を言いました』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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