脳と森から学ぶ日本の未来 [Kindle]

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感想・レビュー・書評

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  • 立教大学物理学の教員を辞めて、岐阜県飛騨の山奥に住み、オークヴィレッジという木工会社を1975年に作った。「100年かかって育った木は100年使えるものに」という循環型の持続可能な方向を提案し、同時に生活全般で木を有効利用すべく「お椀から建物まで」というスローガンを掲げる。
    広葉樹の植林活動を行い、地域の森林資源活用と日本産アロマに関する研究開発をしている。2005年にトヨタ白川郷自然學校の初代校長となる。文字通り、森とともに生きている人である。
    本書を読んだ。うーん。読むのにひどく時間がかかった。「脳」と「森」というかけ離れたテーマを論じていて、文系と理系の枠を超えて、論じている。またわかりやすく説明しようとして、饒舌な感じもする。世界の森を駆け巡り、そして様々な人に会う。その人脈の広がりに目をみはる。
    本書は生命と生物史、縄文、人類史、脳の機能、宇宙論、ブラックホール、SDGs、則天去私、梵我一如、共同幻想、そして共生進化と、小さな生命の始まりから宇宙にまで広げる。「宇宙は私であり、私は宇宙である」と言う。ある意味では、稲本正の世界観の集大成ともいえる書である。
    今までに考えたことのないような視点もありいい気づきを与えられた。
    地球上に存在する生物は、約175万種が確認されている。そのうち動物は約130万種。動物の約70%が昆虫を含む節足動物であり約95万種いる。地球上の半分以上が虫なのだ。維管束植物は約29万種。人類を含む脊索動物は、約7万種。生物の多様性といっても、意外と少ない。
    生物の全体の重量は、約550ギガドン。そのうち植物は約450ギガドンで約80%で、細菌は約70ギガドンである。動物は、全重量の0.5%でしかない。この品種数と重量のデータはおもしろい。
    裸子植物は約800種しかないのに、被子植物は約28万種ある。つまり花を咲かせ実を結ぶのにパートナーがいるのだ。昆虫や鳥に蜜を与える代わりに、花粉を運んでもらっている。
    現在問題となっているのは、ミツバチが消えつつあるのだ。農薬の中でも「ネオニコチノイド」がハチを殺している。もしハチがいなくなると食料生産の3分の1が消えるという話もある。とりわけ、ニホンミツバチの減少が激しいという。ニホンミツバチは森の樹々や草花から蜜を集め、その蜜は「百花蜜」と言われ、味が濃厚であるという。確かにレイチェル・カーソンの世界が生まれている。
    日本の森林面積のうち、スギ、ヒノキなどの針葉樹林は約41%。山を木材製造工場にしてしまった。そのため花粉症が日本国民病となる。
    植えて、30〜70年になるので、建材として使える時期に来ているが、放棄されているところが多い。
    日本の原生林は3%以下であり、広葉樹の2次林は約55%。これも放置されたままだ。これをどう手入れしていくかが、現在の大きな課題となる。日本の木材自給率は、1955年には約95%だったが、1970年になると約40%台に落ち込んだ。現在は、木材の自給率が約30%になっている。ふーむ。あまり木材の自給率など考えたことがなかった。森の再生が大きなテーマだろう。
    隈研吾が、木材に注目して、木を使った公共施設を作るという試みは、森を再生させる上でも重要だ。稲本正は、「森と共生進化すること」を提案している。
    木の文化は、縄文人が積極的に取り入れていた。青森県の三内丸山遺跡(約5900-4200年前)では、縄文人が直径90cm、長さ30mくらいのクリの木を使って、6本柱建造物を作っていた。そのような建造物は、石川県の真脇遺跡、富山県の不動堂遺跡にもある。縄文時代は、主食としてクリを使っていたようだ。佐藤洋一郎は、そのクリは遺伝的バラツキが少なく、縄文人が植林した園芸種であると指摘している。日本の農業はクリの育てることから始まった。三内丸山遺跡からは、緑豆、ヒョウタン、シソ、エゴマなどが見つかっている。縄文時代は、狩猟採集と菜園式農業を組み合わせた文明を創出していた。約3000年前の縄文時代後期にはすでに大陸から稲作がきていたことも確認された。福岡県の板付遺跡、佐賀県唐津市の菜畑遺跡などから、炭化米や土器に付着したモミの圧痕、水田跡、石包丁、石斧といった農具、用水路、田下駄等が発見されている。
    日本の歴史から見ると、有機栽培をして、菜食主義的な生活が江戸時代まで行われていたことになる。肉を食べるようになったのは、明治からだ。
    筆者のなぜ植物の葉は、緑であるかという考察も面白い。葉が緑に見えるのは、緑を反射しているからに過ぎない。だったら、緑を反射するとは、光合成をする上で不利になる。なぜ全部の光線を吸収しなかったかと疑問を持つのがいい。そうすれば、葉は真っ黒になるはずだった。
    木から積極的にアロマを取る話も貴重だ。木はなぜアロマを発生するのか。それは自分自身を守るためである。森の活用の一つだ。46種の木の紹介がいい。放置されている森をどう再生するかは、これからの大きな課題となるだろう。
    本書は、いろんな示唆があって、読むのは難儀であったが、おもしろかった。
    これからは、森を守る体験と昆虫が好きになる体験こそが、SDGsとなっていくだろう。

  • なんといえばいいか。この本のタイトル以上に、内容は多岐にわたり、人類の脳から自然、はたまた素粒子から宇宙、そしてマインドフルネスや哲学と、ほんとうに様々な分野の話が展開されている。
    だが、その中でも見えてくる共通点があるような気がしている。
    自分が感じたのは、日本の未来の可能性だ。日本は世界でみてもとても自然豊かな国で、さらに産業や経済も発展している。
    その技術や日本古来からの文化をいかし、自然とともに共生していくためにひとりひとりがすこしでもいいから自然を意識して生活していくことが大切だと感じた。
    自然の中にすこしでも過ごすだけで人は元気になり自然に感謝し、森を育む行動をとれば、森が地球を変えてくれる。そして社会まで変えてくれる。
    壮大に思えるがなんてことはない。
    とりあえず、なにか植物を自分も育ててみようと思う。人間と自然の無限の可能性を信じて。

  • もの事はすべて繋がっている大変面白く読ませていただきました!おもろいと言う感情もどこから作られているのだろうか!

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著者プロフィール

1945年富山県生まれ。69年立教大学理学部物理科卒業。94年『森の形 森の仕事』(世界文化社)で毎日出版文化賞受賞。トヨタ白川郷自然學校設立校長。東京農大客員教授。岐阜県教育委員。『緑の生活』(角川書店)、、『森の旅 森の人』(世界文化社)『脳と森から学ぶ日本の未来』(WAVE出版)他多数。

「2021年 『日本の森のアロマ 人と地球の未来を結ぶ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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