ユニクロ潜入一年 (文春文庫) [Kindle]

著者 :
  • 文藝春秋
3.70
  • (2)
  • (12)
  • (9)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 69
感想 : 16
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・電子書籍 (343ページ)

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 同著者の『ユニクロ帝国の光と影』の続編にあたる。
    前著を提訴(のちに完全敗訴)したユニクロ側が株主総会への参加を拒んだことに憤った著者が、店舗従業員としての潜入取材を決意する。違法取材を回避するるために、著者は妻と離婚・再婚して実名変更までしてアルバイト面接に臨むところに始まる。主な構成内容は、千葉・東京の三店舗における約一年間の勤務体験と、中国・カンボジアの下請け縫製企業でのブラック労働への告発で、文庫版には単行本刊行後の2017年、2019年に決行された株主総会潜入取材記が追加されている。

    アルバイト勤務での潜入取材については、店舗によって印象が異なる。一店舗目は優秀な店長の存在もあって良好な人間関係のもとにある。二店舗目は休憩室が狭かったことで同僚から得られる情報が少ないと判断した著者が早々に勤務を切り上げる。ビックカメラとの合同店舗である最後の勤務となる大型店舗ビックロについては、面接の段階から高圧的な総店長の存在や、店舗規模と来客数の多さのためにトラブルが多く、本書の主旨からすれば、ある意味もっとも収穫の多い店舗となっている。各店での共通点としては、サービス残業の存在や人手不足が挙げられる。

    さらに本書は海外における問題も報じ、香港の人権NGO・SACOMの活動から伝えられる中国深圳の下請け縫製工場での問題と、カンボジアの同じく下請け縫製工場における未払い残業を始めたブラック労働の実態を伝える。とくに中国人監督者が管理するカンボジア工場は、労働者への暴力や「労働者の頭脳は犬と同じ」といった信じがたい暴言までもが報告されるような、相当に悲惨な状況である。そのうえで同業のライバル企業とは乖離した、下請け企業に対するユニクロの酷薄な対応が浮き彫りになる。

    ユニクロがどのような企業かを明らかにするといった主旨は前著同様で、やはり著者自らによる約一年間のユニクロ勤務の実体験によって、ユニクロの労働者を搾取する企業風土を裏書きする目的が果たされたことが主な特色だろう。また、企業内の社報や、文庫版向けに追加された章が伝える株主総会の柳井社長の言動によって、柳井氏の組織に対する独裁的な立ち位置がより印象づけられる。逆に言えば、伝わる要旨は前著からの継続で結論にも大きな変わりはないため、特別な興味がない限りは二冊ともに読む必要性はあまり感じなかった。また、本書のエッセンスである、店舗従業員としての潜入取材をもとに報じるユニクロ内部の実態も期待したほど濃厚でもなかった。

  • ユニクロへの潜入物。著者の執念を感じた。

  • アルバイトとしての潜入記。
    現場は厳しいし社長はワンマンだけど、民間企業で小売りだとこんなもんかなと思ってしまった。

  • この本を読み終えてもなお、UNIQLOの大ファンだ。
    UNIQLOに行くと、いつもこの本の内容を思い出す。
    この店の従業員もワンマンなトップから、無茶な要求を突きつけられているのだろうか、などと考えてしまう。

  • もうユニクロで買い物できない

  • 最終章での結論、そして柳井社長への提言も的確でうんうんとうなづきながら読んでいた。名前を変えてまで潜入取材を実行する著者の執念というのもすごい。 ただ、ひとつ欠けているなと思ったのが商品を愛用している消費者の目線だ。著者はユニクロの商品を耐久性が無いし質も良くないと言うが、ファッションとしてのジーンズに耐久性を求めるのは間違っているし、海外のアパレル製品に比べるとユニクロの縫製は質も高い。そういった視点もあると更に面白かっただろう。

  • 苗字を法的に変更し、ユニクロに潜入、現場の実態が詳細に記載されている。サービス残業の常態化、過重労働など現場の問題が、ここまでひどいのかと驚いた。それはユニクロの納入元である海外工場も同様だ。中国のNGO団体が告発したものの、ユニクロの反応はイマイチだったということからも、ユニクロの意識欠如が感じられる。
    筆者はファストリのトップ柳井正氏に対し、現状の改善を過去訴えている。本書からは氏個人を否定するものではなく、あくまで今後の発展を目指すためにも必要だと、訴えている。そこには敵対関係は感じられなかった。
    社内に公開される、部長会議レポートには、柳井氏の発言が掲載されるが、その多くは従業員の意識や取り組みが悪いといった責任転嫁が目立つ。自分は悪くない、他人が悪いという姿勢が、こうした問題を引き起こす。
    恐らく私は今後もユニクロを利用するだろう。ただその背景には苦しむ人達がいるのは忘れてはならないし、仕事上においても責任転嫁な姿勢とならないよう気を付けたい。

  • ふむ

  • ユニクロのバイトに潜入し、実態を暴く暴露本。
    ユニクロの職場や役職形態が明確に説明されており、実際にこれから就職やバイトを考えている人にはおすすめ。
    ファッション業界のビジネス状況も説明

  • ユニクロ潜入一年
    著者:横田增生

    発行:2017年10月25日
    文芸春秋

    著者は最近、「潜入ルポamazon帝国」を出し話題になっているが、図書館予約の順番はまだまだ先のため、2年前に出たこの本をまず読むことに。これも出た当時は予約いっぱいだったが、今は待たずに読める。なかなか面白かった。横田氏はルポライターとしては優秀だと思う。たたき上げライターとは、ひと味違う。

    著者はこの本の前にも「ユニクロ帝国の光と影」というルポルタージュを出しているため、本名では潜入できない。妻と一度離婚し、再婚して妻の姓を選んだ。合法的改姓をして、履歴書を書いた。氏がアルバイトとして働いたのは、イオンモール幕張新都心店、ららぽーと豊洲店、ビックロ新宿東口店。あわせて1年ちょっとだが、最後のビックロ新宿東口店は潜入ルポの第1回が週刊文春に掲載された2日後、掲載後初出勤日に、記事を書いたのが彼だと特定されて解雇された。なお、ユニクロ帝国の光と影については、2億円の損害賠償訴訟が起こされていたが、ユニクロ側の負けが確定している。

    言うまでもなく、ユニクロのブラック企業ぶり(現在は取材当時より改善点もあるらしい)を批判的に書いているが、潜入して一生懸命働いているうち、本人が柳井流になっている自分に気づくところが2カ所ほどあった。
    売上げをとることで働く人の達成感につながる、をアルバイトにも呼びかける。時給を上げるのではなく、やりがいという“報酬”を出す。東大の本田由紀教授の言葉を借りて「やりがい搾取」と批判。
    しかし、「今日やる仕事を今日やるのは作業。明日やる仕事を今日やるのが仕事である」という柳井社長の言葉に刺激され、免税専用レジを外国人にわかりやすく4カ国語で表示することを提案。柳井流を実践してしまった自分を見つける。

    他に、柳井流になってしまったという本人指摘の記述がもう1カ所あるが、それ以外にも、ユニクロ店舗で働くことを通じて知ったマナーの悪い顧客に対する立腹ぶりなどもあり、なかなかリアルなルポルタージュだった。

    レジ勤務のすさまじさ、店頭にない商品をバックヤードから5分以内に探し出して持ってくるという作業が不可能であることなど、地獄のような勤務内容を紹介しているが、一方で、柳井社長を頂点に上の命令が絶対であるユニクロにあって、店長が自分のミスについて入ったばかりのアルバイトである著者にみんなの前で何度も何度も頭を下げて謝る光景を、著者も驚きを隠すことなく書いている。

    *******(メモ)******

    ・ユニクロの社販価格は定価の3割引。赤字となるはず。

    ・11月の感謝祭の恒例として、柳井社長から煎餅、ミカン、お菓子などの差し入れがある。

    ・2015年11月感謝祭、翌月12月とも国内ユニクロ事業は大敗を喫した。

    ・アルバイトに勤務を延長できるかどうか聞く場合は、「のびれる?」と聞く。「ストレッチ対応」とも。

    ・ユニクロは同じ商品でも売れ筋の色は高い。「色変売」と呼ぶ。

    ・売り場の状態をA~Dランクに分ける。Aランクは全ての商品が綺麗にたたまれて完璧なこと。Dは商品がひどく乱れている上に畳む前にしなければいけないことがある状態。

    ・2016年8月段階で、柳井氏の家族4人で43%の持ち株比率。

    ・柳井社長は役員給与のほか、年100億円の配当を得ている

    ・CRS活動は企業戦略の一つであり、よい企業であると認知されれば志の高い人材が集まり、企業の成長につながる。そのためにやっているのであり、単なる社会貢献という意識はない。柳井氏は公言。

    ・2016年の時点での一般工員の賃金は、日本を100とすると、中国は50、カンボジアやバングラデシュは10以下

    ・カンボジアの下請け工場で労働争議が起きた時、ユニクロは従業員との話し合いによる和解の実現を強く求めてきたが、長期化したためその工場での生産は中止した、と発表したが、実際は争議の元凶である厳しい条件下での生産をし続けていた。

    ・ユニクロ大型店の代表選手である「ビッグロ新宿東口店」は、銀座店と並ぶトップクラスの売上げを誇っていたが、家賃が高く、開店から4年間赤字だった。潜入ルポ時点での「今期のスローガン」として「ビッグロ黒字化」があった。

    ・残業手当のない「名ばかり管理職」は潜入時点では存在したが、現在は支払われているようである

    ・柳井社長はサービス残業が行われていることを認めつつ、「絶対に発生させてはならない。上司の責任だから必ず上司が管理して頂きたい」と他人のせいにしている。

    ・ある大学生アルバイトが退職届を出したら、「大学生はいったんユニクロに入ったら、卒業するまで働くことになっている。途中で辞めるのは契約違反だ」と店長から言われた。もちろんそんな奴隷のようなことは法律違反で退職届けを出したら2週間で辞められるが、その大学生は(逃げ回っているのか)店長と1週間以上顔をあわせることなく、取材時点ではまだ退職届けを出せずにいた

全16件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

横田増生

一九六五年、福岡県生まれ。関西学院大学を卒業後、予備校講師を経て、アメリカ・アイオワ大学ジャーナリズム学部で修士号を取得。九三年に帰国後、物流業界紙『輸送経済』の記者、編集長を務める。九九年よりフリーランスとして活躍。二〇二〇年、『潜入ルポ amazon帝国』で第一九回新潮ドキュメント賞を受賞。著書に『ユニクロ潜入一年』『「トランプ信者」潜入一年』など。

「2022年 『評伝 ナンシー関』 で使われていた紹介文から引用しています。」

横田増生の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×