つくられた格差~不公平税制が生んだ所得の不平等~ [Kindle]

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  • 過剰な富の集中は不公平な税制により生み出されており、これを解消しなければならないことを説いた本。

    近年、一部の富裕層へ過剰に富が集中する一方、中間層や低所得者層に富が循環せず、異常なほどの大きな格差が出来ています。富は自然には社会全体に流れないので、各国政府が税制を通して富の流れをつくる必要があります。富を循環させるには不公平な税制を廃止し、社会全体のために公正な税制を構築することです。

  • レーガン政権以降、アメリカの貧富の差は広がるばかりである。本書はその根本にある不平等な税制を解説する前半と、どういった税制をすればいいのかを低減する後半部に分かれる。

    1980年代以降の富裕層にだけ有利な税制改革は民主主義の帰結ではなく、租税回避スキームが存在するゆえである。民主主義には関係ない。

    アメリカでは中間層が消失しつつあると言われるが、上位10%〜50%の上位中間層の所得は増えている。問題は超富裕層「のみ」が恩恵を受けている点である。

    現代アメリカの税制は超富裕層以外にとってはほとんど均等税である。法人税を<最終的に>負担するのは株主であるが、法人税が海外に回避されることで超富裕層が納税せずに済んでいる。

    また、サービスに対しては課税がされないが物品に対しては(売上税の形で)課税される。これは明確に逆進的な税制である。

    1930年代のほうが累進率は高かった。今よりも遥かに高い累進率でもアメリカは「社会主義」化しなかったことは特筆に値するだろう。

    南北戦争の時にも所得税は存在したが10%で、第二次世界大戦時には90%以上となった。課税の強化は戦争によるものではなく、政治状況の変化に対応したものである。

    アメリカ人が課税を嫌うという<神話>は、南部の地主が資産(奴隷)に課税される恐怖から作り出したプロパガンダが人口に膾炙してしまったものだそうだ。この辺りは日本における「単一民族」神話に似たものを感じる。

    1970年代までは高所得者への課税率だけではなく、法人税も機能していた。法人税には累進性がなく、純粋に均等税であった。そして、政府は租税回避を厳しく取り締まっていた。

    '86年の税制改革はゴアやバイデンをはじめとした民主党議員も署名した。背景には、租税回避の横行がある。租税回避が先にあり、徴税を諦めた政治が最高税率の引き下げを行うという図式は日米ともに変わらない。80年代までの政府は租税回避を防いでいたし、社会通念もまた課税に協力的であった。

    しかし'81年にレーガンが租税回避を奨励したことで租税回避産業が爆発的に成長し、政府が徴税の意志を失ったこともあり税収は落ち込んだ。

    市場は優れたシステムだが、公益を考慮しない。そのため共有地の悲劇を引き起こすようなものも育ててしまう。

    現在増えているのはタックスヘイブンを利用した租税回避だが、ここ数年当局がやる気になっている。つまり租税回避をどうするかはやる気次第である。

    アメリカでは日本と同様に一般的否認規定を設けていなかったが、その代わりとして、一般的に租税回避を否認する機能を果たす判例法理である「経済的実質主義(economic substance doctrine)」が発展してきた

    現代の企業は国家主権を売り渡してでもタックスヘイブン化を勝ち取ろうとする。小国であればあるほど、この戦略は有効だ。にもかかわらず、主権国家は租税競争自体を是認している。租税競争を拒否し、税率を一定にしなければ解決は望めない。

    租税回避は負の外部性が強い行為である。そしてゼロサム的な取引である。

    あらゆる生産活動は資本と労働のどちらかによる。税も資本税と労働税に分けられ、アメリカでは長らく資本税が主要な税収であった。しかし近年、この値が下がってきており、とうとう資本税の量が労働税よりも低くなった。

    医療保険料を含めれば、アメリカの労働税は他国と大して変わりない。

    経済学(スティグリッツ)は「資産課税は労働者に帰着する」と主張しているが、過去100年のデータを見ると資産税の税率と資本蓄積には相関はない。(資産課税が下がっても投資率は高まっていない!)資産課税が減って国民貯蓄が減った事実のみがある。

    このような<経済学>は特定の思想を肯定するためのものであり、現にこの思想を最も賞賛しているのは資本家である。立場が逆転したマルクス経済学の趣がある。

    租税回避が抑制されてさえいれば、資本の弾力性は低い。最大税率は75%が望ましいとされる。

    そのためには所得税と法人税を統合するなどの策がある。これは租税協定さえ結べばグローバル化にも対応可能だ。

    ラッファー曲線の下側に立ち入るべきではないとされているが、70年代までの政治家は「税収が減ることを理解して」最高限界税率を100%近くに設定していた。目的は格差の縮小である。巨大資本は独占力や政策・世論への影響力(そしてレントシーキング)からも民主主義への驚異となる。巨大資本は負の外部性が強い。

    1980年以前と以降で比べると、下位90%が貧しくなり上位10%のみが豊かになっている。論理的な観点からいえば「富裕層を優遇しなければ更にひどいことになっている」可能性もあるが、あまり肯定できないだろう。

    国民所得は給与+企業利益+利子所得なのだから、この全てに課税する。これができないのは課税競争が原因なのだから、課税競争を終わらせるための課税強化が必要であるし、これは技術的に可能である。

  • 大富豪、多国籍企業。国際協力で多国籍企業に納税させる。

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著者プロフィール

カリフォルニア大学バークレー校教授。世界不平等研究所共同ディレクター。

「2018年 『世界不平等レポート 2018』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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