タイトル通り、戦後に社会科学が何を問題としてきたかについて、その道しるべを示してくれている。
1950年代に流行したのは大衆社会論であった。全体主義をもたらした社会に関心を向けるドイツ系の議論(筆者はその代表としてエーリッヒ・フロムとハンナ・アーレントを挙げている)、WWII後の経済成長による社会の変容に関心を向けるアメリカ系の議論とに別れこそすれ、両者はマルクスの階級社会論を批判するという点で一致していた。
60-70年代は、ニューレフトの時代として知られるとともに、西洋諸国にとっては資本主義の全盛の時代でもあった。なぜ豊かさの中で叛乱が起こったのか。当時の運動を特徴付けるものとして、筆者は直接参加と解放を挙げている。こうした運動は、知の刷新にもつながった。例えば、政治権力によって歪められたマルクス像(マルクス=レーニン主義)ではなく、初期草稿に代表されるような"本当の"マルクス像の探求が進んだ。また、先進諸国は途上国や女性といった外部を搾取することで成立していることが懸念された。
80年代に入ると保守的な思想が地保を固めてくる。それは大きく草の根保守主義・新保守主義・新自由主義に分けられるのではないだろうか。草の根保守主義は主に文化面で反フェミニズム、コミュニティの復権、宗教の擁護などを掲げるとともに、中絶の批判、多文化主義の批判を行った。これらが草の根の運動だったのに対し、新保守主義は主に文化・政治面における知識人の保守化であった。彼らは工学的に社会を変えていくリベラルな発想を批判し、政治への万能視に慎重だった。そして最後に、経済政策としての性格が強い新自由主義である。
フーコーの統治性論は新自由主義が格差の拡大をもたらすにもかかわらず、なぜ市民に選ばれてしまうのかを説明する発端となった。他にも構造的な国家理解を試みるネオマルクス主義(グラムシやアルチュセール)、政府に企業団体や労働団体を加えたネオコーポラティズム、利益団体の調整を重視する多元主義といった思想が現われた。