るん(笑) (集英社文芸単行本) [Kindle]

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  • すごい世界である。独特の毒々しいディストピアが物語の舞台。

    だがしかし、そこに生きる人たちの、人間関係や喜怒哀楽は、我々の住む世界と何らかわりない。普遍性がある。
    奇妙な世界の設定に惑わされてはいけない。本質的には人は何もかわらないのだ、と思った。

    様々な示唆や含蓄がある。
    病を避けて病だれを消しているのに、病だれが必要ない字が病におかされていたり、興味が尽きない。

  • 民間療法が主流になった日本が舞台のディストピア。主人公は熱が下がらず体調不良を引きずっているが対策が月明かりでかき混ぜた水を飲んだり何週間もお湯をかえてないお風呂に浸かったりと嫌なリアリティがある。暗闇で何かわからないぬめぬめに触ってしまったような感覚が続く読書体験。
    出てくるキャラ達は普通の人たちで仕事や病院や学校にいくなど日常生活を送っているだけなのが余計に異常さが際立つ。すごい面白い。

  • 私たちと同じことで悩んだり助け合いながら、一見私たちと同じような人たちなのに、社会通念が全く違って読んでると背筋がヒヤリとする。

  • スピリチュアルの信憑性が科学や医学を上回った世界の日常を描いたSF小説集。
    医学が淘汰され、頭痛ヤクをヤクザイシが路地裏で売る世の中。「んな訳ねぇだろ(笑)」と一蹴できないほど生々しい架空のスピリチュアル文化にただただ圧倒された。表題怖すぎる。

  • 科学が否定されスピリチュアルが支配する近未来が、男性、女性、子供の3つの視点で描かれています。身の回りの全てがスピリチュアルなものや行動に置き換えられると思うと、今でもできそうでちょっと怖いです。

  • 牛乳は人が飲むものではない、肉食忌避、思考が盗聴される、医者が病気を作っている、通信機器が身体に良くない、言霊が大切だから悪い漢字は変えて新しい言葉を作る、千羽鶴…。
    この小説に登場する自然派や祈念はどれも科学を否定したスピリチュアルで極端だが、どれも現在の日常の延長線上にあるものだと思った。


    平熱が引き上げられた箇所は時事ネタっぽくて面白かった。

    癌→蟠りと言い換えたのに結局は虫が番うから良くないから蟠→るん(笑)になっている。
    人材を人財と言い換えたあとは何に変化するんだろう。

    勝手に贈られた千羽鶴なのに折ったひと全員にお礼の電話をかけなければいけない風習は個人的に一番つらいと思った。

  • 【三十八度通り】

    38℃の熱が続いていたので
    妻に隠れて残っていた解熱剤を
    服用したときに彼女に

    「どうして自分の体を信じで上げないの!」
    「まさかそんなものにたよっていただなんて」

    と悲しませる結果となってしまったのです。

    考えてみれば彼女は発熱に共鳴する
    イエロージャスミンの根をすりおろし
    アクアを注いで限りなく薄めて
    攪拌した愈水(ゆすい)という
    心縁どうしの間で作り方の広まった
    免疫力を高める水を作ってくれていたのです。

    その愈水はそもそもごく親しい人間が
    心から愛情をこめて作らない限り
    愈効の成分がうまく熟成しないことからも
    夫の体調が思うようにすぐれないことに悩んでいたので、
    解熱剤を服用した姿に幻滅するのは
    仕方ありません。

    38℃の熱というほんの微熱とはいえ、
    霊障は長引くと辛く、
    元素でいえばストロンチウムで炎は赤色です。

    牡羊座は火のエレメントで
    衣服を身に着ける際は
    火の気の強い化成は避けたほうがよく
    現在の状況を打破するためにも
    お墓参りに行くことが必要などと
    隣人にまで言われてしまう始末です。

    夢うつつのなかで時間が過ぎで気づくと
    平熱は38℃に引き上げられるなんて
    かなり驚きです。

    【千羽びらき】

    「おかあさん、こんな病気になってしまって」
    と謝り始めると真弓は
    「だめじゃない、そんな波長の悪い疒(やまいだれ)なんかとって丙気(へいき)といわないと。そうすれば平気になってくるでしょう」
    と母を元気づけます。

    このまま入院していては
    牛乳やヨーグルトのように
    もともと人間が食べるように
    できていないものを食べて
    ますます状態が悪くなってしまうと考えた
    真弓は母を退院させることにします。

    母を家に戻すと真弓は岩盤浴寝具一式だと
    説明した部屋で彼女を休ませることにします。

    その後『るん(笑)』という
    邪気を祓う力を秘めた
    強い言葉で必ず笑顔で明るくほっこり
    とした気落ちでいることが重要という
    治療法を始めることになります。

    その教えの中に
    内なる獣は、時に凶暴さを露わにして
    食らいついてきますが、慈愛をもって接し、
    うまく心を通わせることができれば
    世話は大変ながらそれ以上の喜びを与えてくれる
    ペットのごとく、ともに幸せな人生を歩むことができる
    といい『るん(笑)』を
    ペットのように接していくことを勧められたのです。

    それにしても疒(やまいだれ)を外す
    という考え方はまさに
    「病は気から」ですね。

    【猫の舌と宇宙】

    真弓の甥の真(まこと)は
    小学校の先生に
    「このところ、どうも君の字は乱れているようだから」
    と注意を受けます。

    「心が乱れているとそのまま字に表れるものだからね。
    乱という漢字に舌があることに気づいていたかい?字と言葉と心は不可分だ。
    筆跡からすると、君はもうほぼ別人といってもいいくらいだよ」

    と言いながら真の書いた文字を
    みせながら説明してくれたのです。

    真の血液型がA型なのに
    書いている文字はAB型の人が
    書いたみたいにちぐはぐになっているので
    この場合、両親との関係で悩んでいるか
    可能性があると心配したのもあり
    彼を引き留めて話したようです。

    でもその指摘は真の心に響くことはなかったようです。

    真は友人と「すづか山」
    (不死の龍が代わりに死んでくれた人間が
    死なずに旅立てるようになったので龍を祀っている山)
    の話をして友人が引っ越す前に
    一度登ってみようという話になったのです。

    龍に祟られるということから
    封鎖されているのに登ろうと考える
    小学生のすごさを感じます。

    「すづか山」に銀杏を踏まないように
    気を付けながら登っていくと
    彼らはねこ(?)を発見します。

    ところで“ラングドシャ”って
    “ねこの舌”って知っていましたか。

  • スピリチュアル系の要素はまんべんなく入っていて、「スピリチュアルな価値観がもし常識に置き換わったら」というWhat-ifとしては、ぶっ飛んだ世界がしっかり書かれていた。振り切るならここまで書かなくてはいけない。

    科学が否定された世界の恐ろしさがよく描かれていた。
    主人公がその世界に違和感を感じたり、疑問に思うという「転校生の物語」ではなく、あくまでそのような社会の成員として最後まで描く、価値観自体を書く、という点で参考になる。

    ただ、評判だったので読んでみたが、総括として期待ほどではなかった。
    世界観は興味深く読むことができ、怖いもの見たさで的な意味合いでの好奇心は最後まで刺激されは下物の、物語としてはどうしても退屈さがぬぐえなかった。

    あと比喩表現はわざとらしいというか、稚拙だったと思う。


    EOF

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