理論疫学者・西浦博の挑戦 新型コロナからいのちを守れ! [Kindle]

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感想・レビュー・書評

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  • 新型コロナウイルス以前から、日本の感染症数理モデルの第一人者として西浦先生は存じ上げており、本書以外での西浦先生の情報発信も常に真摯で未来志向だと感じていた。

    本書はクラスター対策班をはじめとした日本の新型コロナウイルス対策について、西浦先生の目線で綴られている。かなり率直に、実名を含めてそのまま書かれている(特に元上司の方や大阪のくだり。)
    感染症・公衆衛生関係者は必読で、その他の方も報道の裏で何があったのか知ることができる一冊。
    また、「あの時何があったのか」だけでなく、何が問題でどうすればいいのかということを考えさせられる。個人的には、
    ・リーダーシップ育成を含めた人材確保(ポジション、待遇の改善を含む)
    ・内外のコミュニケーションチャネルの確立
    ・緊急時の指揮系統と責任所在の明確化(各専門家と政治の関係を含む)
    あたりが重要なのではないかと感じた。

    今回のパンデミックにおいて、西浦先生とそのチームが日本にいらっしゃったこと(もちろんその種も西浦先生が蒔いておられる)、数理モデルが政策提言に繋がり、広く知られるようになったことは日本が得た財産の一つだろう。

  •  2021年最初の読了本は、「8割おじさん」の半年を振り返った電子書籍。親交のあるという小説家・川端裕人氏の構成で、かなり専門的な内容を含むエピソードが手際よくまとめられている。
     
     尾身茂と押谷仁、西浦博が日本のコロナ初期対応を支えた研究者たちだが、西浦のコメントを追いかけると、他にも多くの研究者たちが「専門家」として意志決定に参与していた(参与するはめになった)ことがうかがえる。印象的だったのは、小池百合子と厚労省が西浦の出した被害シミュレーションをどちらが口に出すかで暗闘していた、というくだり。とにかく安倍官邸も、菅の官邸も、都知事も、決断ができない。責任だけは取りたくないからだ。大阪府知事などは、「専門家が言うほどひどくなかったではないか」とスケープゴートにする準備をしていたのではないかと勘繰られている。自分たちが決めたわけではない、責任を押しつけるために「専門家会議」が使われ続けた、というわけだ。
     
     西浦は本書で、「科学コミュニケーション」の必要性を指摘している。しかしそれは、この国の政府が言うところの「リスクコミュニケーション」とどう違うのか。東日本大震災以降、この国の「リスクコミュニケーション」は、政府の立場を「分からせる」という意味で使われてきた。西浦のいう「コミュニケーション」が、一方向的ではない、開かれたものとなるためには、どんな条件が必要なのか。少なくとも本書だけでは、理解することができなかった。

  • Twitterで何名か医師のアカウントをフォローしていて、そのうちの2~3人がこの本を読んだと呟いていたので購入してみた。
    私はSARSなどが流行った頃は子供で、新型インフルエンザの流行もあまり記憶がなかった。2020年、世界中でパンデミックとなった新型コロナ。これに日本はどう立ち向かっていたのか、専門家の話は聞いておかないといけないなと読んでみた。

    難しい話もあって勿論全部は理解できていないけど、それでも読み応えがあった。
    同じ日本人でもコミュニケーションを取るのが難しいなんて…大阪と東京に感染状況や対応策を伝えた時の反応が180度違ったときなんて読んでて「こんなことある?
    」と驚いた。
    あとは政府や都道府県等のお偉いさま方の「責任は取りたくないから発表はそちらで」の押し問答…何だよそれ、本当にそういうことしてるんだと呆れた。

    専門家の意見を「素直に」受け入れて、自分で考えないといけないなとつくづく思った。
    西浦先生も尾身先生もカッコよかった。

  • 昨年の新型コロナウイス感染の始まりから緊急事態宣言で一旦収束させるまでの、最前線で戦ったクラスター対策班のドキュメント。そこでリアルタイムの数値解析を行い適宜政府に助言を行った西浦博氏が主人公。

    自伝ぽい作りだが、実際に書いたのは共著者の川端裕人氏。西浦氏とは10年以上前から知古の間柄といい、氏への綿密な取材に基づいて執筆され、西浦氏の確認の上で本にまとめられている。

    感染症の数値解析が行政に取り入れられたのは初だという。過去に幾多の感染症の流行があったが、数値解析ベースで対策を行った今回は革新的なことだった。

    とはいえ、クラスター対策はデータの収集とクラスターの追跡、濃厚接触者へのケアという膨大な労力抜きには語れない。その大変な作業を有意義なものにし得たのが数値解析による様々なシミュレーション。

    結果、日本は欧米に比べ格段に少ない感染者数と死者数で第一波をなんとか乗り切った。

    もっとも、西浦氏は安心しない。リスクの高い行動が増えればオーバーシュートなる感染爆発はいつでも起こり得るという。ワクチンなど根本的な対策が確立されるまでは、行動変容により感染を抑え込むしかない。

    というコロナ関係のドキュメントとしても意義深い本だが、本書は川端氏のライターとしての仕事がずば抜けている。ただ西浦氏にインタビューしただけではない。感染症全般について深い知識がなければこれほど欠点のない本は書けない。

    リスクコミュニケーションの難しさが常々言われるが、本書のように理系分野を丁寧に正確に分かりやすく伝える文系分野の働きはどうしても欠かせない。そういう有能な人がいることもまた、今回のコロナ禍の中で得難い輝きである。

    サイエンスライターの仕事は自分も興味があるので参考にしたい。

    一方、この本の中で書かれているが、西浦氏は感染の専門家で感染を広めないことは助言できるが、それによる経済のダメージには何もできない。それではと経済の専門家を政府が選べば、当人は「とにかくPCRをやれ」と、経済の専門家として的はずれなことを言い始める始末。

    数値解析ベースで経済を語れる学者がいない、いても政府には見つけられなかったという悲劇。そういえば経済政策で今回のような解析ベースの説明は聞いたことがない。日本の文系分野の大多数が置かれている世界の歪みがここに現れている。

    だからこそ、川端氏のように優れた著者の存在は意味がある。

  • 医学専門家集団からみた新型コロナウイルス感染症に対する序盤戦の記述。
    国の対応のなかでわかりにくかった医学専門家の立ち位置がよくわかって興味深い。

    こういう本によくある通り、タイトルは内容から離れてややキャッチーに設定されていて、どちらかというと「いのちを守れ!」というよりは「科学に対して誠実に!」とか「プロとしての矜恃」とかの記述が中心となっている。もちろんいのちを守るために奮闘している闘いの記述ではあるのだけれど。

  • 刻々と変化する状況に対応する学者たちの疾走感あるエキサイティングな活躍がスリリングでよい。事実は小説より奇なりを字でいく、ノンフィクションのよさと当事者の語りの面白さが結実した作品。
    コロナとの戦い以上に面白いのが、官邸や霞ヶ関との綱引き、そして国民とのコミュニケーション。
    弁護士も含め専門家はとにかく正しいこと、データとそこから導き出される仮説を提示すればよいと思いがちである。しかし新型コロナの感染拡大を少しでも食い止めるためには政治やマスコミを動かさなければならない。そのような真理と現実の間で葛藤し、コミュニケーションの大切さを振り返る著者の姿勢が誠実で、実務家としての矜持を感じさせる。尾身先生への評価にも学者としてではなく実務家としての経緯が感じられる。
    コロナと戦うために政治と戦わざるを得なかったこの専門家たちをディスっていた人たち、特に御用学者扱いしていた人たちは、本書を読んでよく反省するべきだろう。科学や医学のことがわからなくても、専門家として信頼すべきか否かを勘や経験知で判断できないのであれば、人間力が足りなすぎる。

  • 熱いパッションを有する数学者の著。確かな専門性と強い信念を背景に、未曾有のコロナ危機対応へのいか取り組んだかが体感できる一冊。当たる当たらないではなく、数学的予測の利用方法が定着する日はいつになるかも考えさせられる。

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著者プロフィール

西浦 博(にしうら ひろし)京都大学大学院医学研究科教授

「2022年 『感染症流行を読み解く数理』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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