まちづくり幻想 地域再生はなぜこれほど失敗するのか (SB新書) [Kindle]
- SBクリエイティブ (2021年3月5日発売)
- Amazon.co.jp ・電子書籍 (205ページ)
感想・レビュー・書評
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「まちづくり」や「地域再生」といった、一見して耳心地の良いの言葉が、「善意」だけで通用するわけはなく、きちんとビジネスとして考えなければならないという、当たり前だけれども「幻想」に囚われがちな分野に現実を突きつけてくれる一冊。
自分自身は地方の中核市で生まれ育ち、今は政令市に住んでいるので、本書に挙げられてるような「幻想」や「神話」を信じていたわけではないが、上の方の世代の人たちの中には「幻想」に囚われている人がいることを見てきたし、もっと田舎に行けば、「幻想」が蔓延していることは想像に難くない。
「椿井文書」で有名になった枚方市は、「偽史」という「幻想」を公文書に用いていたが、全国どこの市町村でも多かれ少なかれ、「幻想」を抱えているだろう。
私はIT系のコンサルの仕事をしており、たまたま先日、東北のある市で策定された「情報基本計画」を拝見する機会があったが、「Society5.0」「働き方改革」「テレワーク」「RPA」「キャッシュレス決済」「5G」「AI」「スマート自治体」「プッシュ型」「ICTガバナンス」「情報セキュリティ」「デジタルトランスフォーメーション(DX)」などのバズワードが並んでいるだけで、その都市独自の課題に切り込まれているようには読めなかった。
膨大な補助金を注ぎ込んで作られて使われなくなった箱モノを著者は「墓標」と称しているが、国の方でデジタル庁ができ、「自治体DX推進計画」を補助金を用いて進めていこうとしている中で、これから先、「IT墓標」や「DX墓標」が全国各地にできていくことは容易に想像できる。
既に、発注者責任を果たさなかったために、100億円近くを投じて「一部除き中断」となった京都市の基幹系システムなど、IT墓標はいくつかできつつある。
本書にもあるが、外注管理や成果物評価のノウハウなど、コアとなるスキルは自治体側に残さないと、コンサルとしても経済成長は望めず、ただの補助金ビジネスに成り下がってしまう。
私自身も自治体DXに関わる機会があるので、墓標を後世に残さないよう、自治体側とは協力してプロジェクトを進めていきたい。
本書の気になる点としては、「稼ぐこと」を無条件に良いものとして前面に押し出している点だろうか。自治体のサービスとしては、「誰一人取り残さない」ことを目的とするので、「稼ぐ」こととは矛盾することが多い。
ただし、「稼ぐ」という視点がないサービスは、「誰一人取り残さない」ことで、全員が取り残される危険性を孕んでいる。その意味では、「稼ぐ」という視点は必要不可欠なものであるといえる。
本書の伝えたいこととしては、冒頭にも書いたような「まちづくり」や「地域再生」といった「善意」だけで通用するような、ご都合主義的な物語はどこにもないということだろう。
そのためには、「稼ぐ」ことが手っ取り早いが、要は、自分の頭で考えることが必要ということである。
「善意」や「ご都合主義」でできた「幻想」を取り払うために、まちづくりや自治体関係者だけではなく、地方の民間企業も含めて、自分の頭で考えるために読むとよい一冊。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
これから町づくりなどに携わっていくうえで必ず手元に置いておきたい一冊。自分が”幻想”に陥っていないか、時には戒めとして、時には本書から改めて学びなおすために。
「経済なき道徳は寝言であり、道徳なき経済は犯罪である」は本当に心に沁みました。お人好しな感じで事業をしてきましたが、自分自身が何らかの思い込みにとらわれていないか整理してまた自分の事業を拡大させていきたいです。 -
「幻想」ではなく、地に足がついた考え方を授けてくれる本。木下さんの主張は、時間軸、空間軸での比較、数値に基づいたものが多く、説得力がある。
印象に残ったところメモ。
・先駆的な取り組みを自分たちで始めなくてはだめ。
・プロジェクトの前提が幻想に基づいていると、もはやその先でどのような膨大な予算をかけても、多様な事業に取り組んでも、結果も成果も伴わない。
・毎年コンサルに害虫したら、限られた回数しかできない。一方、職員を研修にだせば、それ以降は自分たちでワークショップを仕掛けることが可能。→価値の根本となるところや計画は自前主義であった方がよい
・(人々は)勝ち馬には乗りたいけど、負け犬にはなりたくない。 -
地方は集団圧力、ヒラエルキーなど日本の古くからの因習がまだまだ色濃く残ってます。その環境でことを起こすのは東京など都会よりはずっと大変だと思うものの、都会に全くそれが残っていないかというとそんなことは無いわけで、今起こっている地方の衰退はそのまま日本の衰退につながることが良くわかります。
その意味でもこれから日本をどのように創生するかも含めて示唆する良本でした。 -
・教科書指定科目:「特別研究I 森戸」「特別研究II 森戸」
<OPAC>
https://opac.jp.net/Opac/NZ07RHV2FVFkRq0-73eaBwfieml/q19uS-znCtG1VL_cpkxLyA_0T6h/description.html -
まちづくりに関して、
多く抱かれている幻想を端的に表現し、
地方創生を志す人々にエールをくれる1冊だった。 -
役所に出向いて予算をもらおうとする民間が多い地域はダメ。
稼ぎを作り出すのは行政なの仕事ではなく民間の務め。
成功事例を真似れば成功するという幻想。
答えはないので自分達で考えて実行することが大事。
新規事業の注意点は、
負債を伴う設備投資はしない。
在庫がない
粗利率が8割
営業ルートが明確なこと。 -
地域再生、まちづくりは無理ゲーなのか
■概要
まちづくりにおける幻想がいかに地方、地域に蔓延っているかを解説してくれる。地域の住民、自治体、地域に移住する側にある「よくある誤解」を解説。
お金があってもうまくいかないし、他地域の事例を表面的になぞってもうまくいかない。若者、バカモノ、よそもの、に頼るのではなく、地域の人自ら考えて行動に移すにはどうすべきか
■感想
幅を出すより深さを得る本だった。人の業というか、正解をなぞりたい病は企業も地域も同じであるし、これだけ各プレーヤーの前提が異なると同じ方向にむかうのも大変だろう。
補助金ありきの事業になってはいけない、というのは新しい観点というか、補助金の副作用を深く考えたことがなかったことに気づけた。
あとは所得収支と資本収支。地域に資本が残る仕組みを考えないと、他地域のチェーンストア誘致では雇用・所得は改善されても資本の厚みが残らない -
著者の経験に裏付けられたら実践的な内容。「外者・若者・バカ者」といった従来の考えを捨てて、公/民、リーダー/プレイヤーといったカテゴリーからまちづくりへの関わり方を指南している。