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感想・レビュー・書評
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ローカル紙の記者をしています。
取材で、学校の部活動や少年団スポーツの現場にお邪魔することがしばしばあります。
監督が子供たちを一方的に怒鳴りつけたり、罵声を浴びせたりする場面を何度も目撃しました。
さすがに身体的な暴力を目にしたことはありません。
ただ、「言葉の暴力」がこれだけ横行している現状から、身体的な暴力の存在を想像するのは難しいことではありません。
本書は、米国で13年間生活したジャーナリストによるスポーツコーチングについての書。
米国と比べ、日本のスポーツ指導がいかに遅れているかをまざまざと見せつけられ、愕然とします。
まず、冒頭でも触れた暴力的指導者の問題。
たとえば、2012年に大阪市立桜宮高校バスケ部事件が紹介されます。
主将だった17歳の男子生徒が自殺した事件は、大きな波紋を呼びました。
男子生徒は顧問から過剰な体罰を受け、追い詰められた末の自殺でした。
初公判で、「何を考えて殴ったのか」と問われた顧問は、「指導です。強くなってほしいと」「自分も叩かれて育った。体罰で成長し、伸びた選手がいた」と答えました。
元全日本男子プロバスケチーム監督の吉田正彦は、過去に見てきた暴力指導者の例を紹介します。
その上で「彼らのように問題を起こすコーチは、自らの体験を伝えているに過ぎません。それしか知らないんですね」と指摘し、正しいコーチング術を身につける必要を説いています。
ちなみに米国では、スポーツ指導者が体罰を行った時点で通報され、以後、スポーツ指導の現場からは永久追放されます。
スポーツ先進国、米国に学ぶことは多そうです。
たとえば、高校生アスリートは競技が何であれ、学業が評定平均以下に下がると、チームにいられなくなります。
「高校生は学業が本分」が国の隅々まで浸透しているのです。
選手が監督にストレートにものを言える風土も見習いたい。
日本はいまだに指導者と選手の主従関係が強固で、選手を過度に委縮させるばかりか、上記の暴力問題の温床ともなっています。
こうした指導者と選手の強固な主従関係は、たとえば本書でも指摘されるサッカーでの「バックパス文化」にも表れています。
ブラジルサッカー界のスカウトを務めたヴァイス氏は、シュートを外すと怒鳴られる日本の小学生の現状を嘆き、「セレソンの選手がシュートを外しながら、何度も失敗を重ねてあそこまで辿り着いたことを忘れないで」と日本の子供たちにエールを送ります。
本書では、書名にもなっている「ほめて伸ばす」指導法や、科学的な根拠に基づいた練習法についても紙幅が割かれ、スポーツ指導者には有用でしょう。
特に、チームを活性化する目的で、UCLA監督のジョン・ウッデンが生み出した「成功のピラミッド」は、ぜひチェックしてほしいです。詳細をみるコメント0件をすべて表示