人が成長するとは、どういうことか [Kindle]

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  • 日本能率協会マネジメントセンター
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  • 「人が成長するとは、どういうことか」鈴木規夫

    計画や戦略の構築活動に投じる資源を最低限に留め、粗雑なものでもいいので暫定的な計画や戦略に基づいて実際に行動を起こしてみる事。そしてそうした行動に対して、世界がどのような反応をするのかを観察する事。

    それまでに我々を支えていた価値観や世界観を全否定するような新たな現実が共同体を覆い、人々の意識を深く混乱させる事がある。こんな時には麻痺状態にならず、次々と目の前に突きつけられる危機や脅威に対処し続ける事。

    叡智と瞬発力と胆力を発揮して過酷な課題や問題に対処しながらカオスを収束させ、関係者が理性的な思考ができるように状況を安定化させる事が求められる。

    困難な判断を下すために拠り所とできる価値観や世界観や宗教観を確立している必要がある。

    世界の複雑化に対応するためには、関係者の内的な成長や成熟が必要となる。

    これまでに開発されてきた能力はこれまでの煩雑な状況に適応する事に最適化されたものであるので、これまでの世界には存在しなかったより複雑な課題や問題に対応する為の感性や能力はほとんど開発されていない。結果として、突然目の前により複雑性の高い状況が出現した場合には、そのことを認識できないか、認識できたとしてもそこで求められる思考や行動を発動できない。

    端的に言うと、自らが認知する現実の幅や高さ、深さを拡張していかなければならない。意識そのものの変容が必要。

    着目すべきは、その人がどのような知識を所有しているかではなく、それをどのように運用しているか。whatではなく、howに着目する。

    人間の意識は、人間が世界をどのように認知、認識しているのかに関して探究する認識論と、開示された世界の中で人間が自らの存在をどう経験するかという存在論から考察する。

    人間の発達とは、世界の複雑性をよりありのままに受容、尊重する事ができるようになるプロセスである。

    対立構造を相補的なものとして捉え、そこに息づく緊張や葛藤を全体が存続、進化する為の重要な条件として認識する。


    我々の日常生活を規定している「日常の意識状態」という特定の視点を対象化して、その呪縛から離れてより広く大きく深く、より透徹した視点から現実を眺める事ができるようになる。

    シャドウとは心理学用語で意識から排除され、無意識化された人格の部分や側面を意味する。

    人生の前半期において、生活を通してさまざまな悦びや苦しみを経験する事で、人間としての成長と成熟を遂げている事が大きな価値を持つ事になる。

    社会的な適応を目的とした意志ではなく、純粋な生命体としての、あるいは実存的存在としての意志が自然に発揮される事。この時、損得勘定を抜きにして社会的に課せられた「規則」や「立場」や「役割」に呪縛される事なく、1人のホリスティックな人間存在として自己の内に息づく意志が表現される。

    感覚、衝動、希求、感情、思考、直感、霊感、倫理をはじめとする自己の存在に内包されるあらゆる要素が統合され、活用される事になる。

    論理的に一つ一つ概念を積み上げていくのではなく、瞬間の中に「全て」を把握する。

    我々がゲーム(世界)を現実と錯覚して、それに夢中になればなるほど「どのような構造が維持され、そしてどのような利益や思惑が満たされる事になるのか?」という問いは発せられなくなる。

    文化は戦略を簡単に食う。

    人間の身体や精神を従順化する文化的、社会的な装置の影響下におかれたままで自己実現の実践に取り組んでも結局は従順化された身体と心のいっそうの従順化を推し進める事になる。

    真の意味の自己実現とは、外的な条件付けの影響から自由になろうとする過程の中で萌芽するもの。

    生物社会的帯域の探究とは、これまでの人生を通して自らの存在に深く刻みつけられた条件づけの呪縛に気づき、それを解除し、そこから自由になる為の探求。

    自分よりも高次の発達段階により発せられた知識や洞察や叡智を自らの未熟な意識を通してより正確に理解しようと苦闘し続ける事を通して徐々に高次の領域に対する感覚を高めていく事ができる。

    水平的成長が垂直的成長(進化)を可能とする重要な要素。

    それぞれの土地や地域で継承されてきた伝統的な技をどの発達段階よりも大切にし、それを長い時間の中で合理的に洗練させていけるのが前期合理性段階(アンバー、オレンジ)。

    インディゴの課題は、思考が非常に重要な活動である事を認めつつ、同時にそれが構造的な限界を内包するものである事を認識する。

    世界の美しさは既に与えられているものであり、それを認める為に我々がしなければならない事は何もない。我々が為すべき事はそれを認めることだけ。


    真、、、それ、三人称、客観的な事実、科学
    善、、、私たち、二人称、間主観的な合意、倫理
    美、、、私、一人称、主観的な経験、芸術

    美とは、何が自己の内的な真実に照らして正しいのか?を問う領域。個人の存在の中に息づく感覚や直感、思想や哲学、美意識や宗教観に照らして最も誠実な選択や判断をしようと希求する真実性の領域である。

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著者プロフィール

(すずき・のりお)
1957年横浜市生まれ。愛知大学国際コミュニケーション学部教授。政治哲学・イスラーム研究。上智大学文学部仏文科卒後、中央大学大学院法学研究科(法学修士)、成蹊大学法学政治学研究科博士課程単位取得退学、論文博士(政治学)取得。シリア共和国国立アレッポ大学アラブ伝統科学歴史研究所、ロンドン大学バークベックコレッジ政治社会学科、エクサンプロヴァンス政治学院、復旦大学客員研究員、ケンブリッジ大学コーパス・クリスティ・コレッジ・ヴィジティング・フェロー等。現在NPO法人アジア・アフリカ研究所理事、南原繁研究会幹事、日本東アジア実学研究会副会長、国際儒学連合会(北京)理事など。著書に『日本人にとってイスラームとは何か』(ちくま新書)、『光の政治哲学――スフラワルディーとモダン』(国際書院)、『現代イスラーム現象』(同)、翻訳書にヘルド他(共訳)『グローバル・トランスフォーメーションズ』(中央大学出版部)など。尾崎=ゾルゲ研究会事務局長。
*ここに掲載する略歴は本書刊行時のものです。

「2023年 『ゾルゲ伝』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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