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感想・レビュー・書評
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土曜日の夕方、TBSの「報道特集」で、森友学園問題、入管施設での死亡、伊藤詩織さん暴行事件の問題を、執拗に報道続ける金平キャスター。「ジャーナリスト」と認知できる数少なくなった一人。その金平氏が、筑紫哲也氏への思いを込めて、危機的な状況にあるジャーナリズムの中で、自らを鼓舞している書。
筑紫哲也氏「NEWS23」の3つのDNA。①「力の強いものを監視し」②「少数派であることを恐れず」③「多様な意見で社会に自由の気風を保つ」。やりきれるかどうかではなく、そうあろうとする意志をもつ。①がとかく強調される中で、大切なのは②③。筑紫氏は、個人ではなくチームで力を発揮。そのリーダーシップは「旗をたてる意志」。テーマをたてる。個々のテーマは、個人ではなく、チームで担う。リーダーは、それをリードし、サポートしていく。
今、プーチンの戦争で、報道が一色になってくるなかで、「NEWS23」のDNAが大切にされるべき。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
1989年から18年間に渡って放送された「筑紫哲也NEWS23」のスタッフとして関わった著者による当時の筑紫哲也氏の言動や、関係者と番組との関わりを総括したノンフィクション。
当時、夜のニュースと言えば久米宏氏の「ニュースステーション」か筑紫哲也氏の「NEWS23」と言った感じでした。本書はその番組立ち上げから、筑紫哲也氏のガン罹患を自ら番組内で発表し、番組を降板するまでにあった様々な事件、事故の報道の裏側で筑紫氏やスタッフがいかに立ち回ったかが克明に描かれています。
本書で取り上げあれているクリントン大統領訪日の際にTBSで一般市民100人との対話形式でのインタビューや、阪神大震災の時の報道、9.11のニューヨークテロなど、「ああ、あの場面ね」と思い出すことのできるシーンがいくつかありました。
本書で特に重要な事象として取り上げられているのが、大手証券会社による損失補填先にTBSが含まれていた事件、オウム真理教による坂本弁護士殺害に先立ち、TBSが坂本弁護士のインタビュー映像を教団幹部に見せていた事件があります。この番組を放映している自らの会社の起こした不祥事に対して、決して及び腰になるのではなく、この時にこそより徹底的に報道しようとした筑紫氏と、それに対して圧力をかけようとした会社上層部とのぶつかり合いが「編集権」vs「経営権」と言う構図で描かれ、著者によれば当時は明らかに筑紫氏の「編集権」が「経営権」を凌駕していたとの事でした。その辺りの番組制作にかける筑紫氏とスタッフの人達がこの番組に注ぐ熱量の大きさは、本書に引用されている筑紫氏の著書の一節「ジャーナリズムはひとつの事を勇気をもって追及するときには、必ずそれ相応の傷を負わなければならない」という言葉がそれをよく表していると感じます。
ネットの存在の有無など当時と現在ではテレビの位置づけも異なりますが、これほどキャラの際立った報道番組をほとんど目にしなくなったように感じます。大きな事件、事故は次々と発生している一方で、印象に残る報道番組のシーンが少なくなったと感じるのは、筑紫氏がおっしゃる「相応の傷を負う」覚悟のある番組の作り方や作り手が減ったからなのか、それとも私自身が20代から50代へと年齢を重ねて感受性が鈍くなったせいなのか、ちょっと考えさせられました。