- Amazon.co.jp ・電子書籍 (295ページ)
感想・レビュー・書評
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豊臣統一こと豊田章一を本人だけでなく、他者の視点からも織り交ぜながら描いた作品。限りなくノンフィクションなんだろうなと思わせるリアリティ。
批判一辺倒という訳でなく、統一が成長する姿も描かれていた。しかし、ドロドロしてるな。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
トヨタを題材にした企業小説。フィクションとのことであるが、かなりリアリティのある内容。その意味で面白かったし、勉強にもなった。
一族が未だ力をもつ一方で日本を代表するグローバル企業。他に類をみない企業でもある。改めて会社が誰のものなのか、、考えさせられる小説であった。 -
豊田章男の悪戦苦闘の物語である。「裸の王様」と揶揄される。
売上高28兆円、純利益3兆円に迫る巨大自動車メーカーの内実を詳細に暴露している。ここまで書いて大丈夫かとさえ思える。これが、ジャーナリスト魂なんでしょうね。梶山三郎は日経新聞のトヨタ担当の卒業生かな。
トヨタ担当の新聞記者たちが、提灯記事ばかり書いていると批判する。毎年広告料1000億円を使うトヨタ。トヨタの言うことをろくに検証もしない、裏も取らない。批判めいたことを書けば、上部からもトヨタからも抗議が来る。忖度するマスメディア。批判して広告料がなくなるのは、致命的だ。トヨタ批判は怖くて書けない。あら、ジャニーズ的だ。
この本のシリーズで言えば、豊田章男は、批判するもの、意義を唱えるものは、即刻左遷される。ふーむ。会社を、イエスマンのお友達だけで運営する。社長にゴマをすり、忖度のうまい奴だけが重用される。とにかく、創業家の長男である豊田章男は生まれながらの筋金入りの御坊ちゃま。そして、見せ物パンダとして価値ある人間でしかないとも言われる。
大学を出て、アメリカに留学しMBAを取得し、外資系証券会社に就職し、ニューヨーク、ロンドンに駐在し、30歳手前で証券会社を辞め、トヨタに入ろうとした。父親の章一郎は「お前を部下に持ちたいと思う人間はトヨタにはいない。それでもよければ人事部宛に正式に願書を出せ」と言う。実にはっきりしている。そして、とんとん拍子に社長にまでなるのだ。
その豊田章男社長をコントロールするのが、70歳を超えての副社長の林公平(モデルは、小林耕士、1948年生まれ。2023年4月現在はExecutive Fellow。日本語が「番頭」と訳されている。実にトヨタらしい)。林公平は的確な判断ができる。そして豊田章男の名前を使って、仕事を押し付ける。
それでも、豊田章男は林公平を重視する。章一郎に注意されて、やっとわかる程度なのだ。
そんなふうな状況であっても、自動車産業は大きな転換点にきている。
豊田章男は「勝つか負けるかではありません。生きるか死ぬかです。そして、戦いはもう始まっている」という。まぁ。そう言いながらも愛人を囲ってご満悦しているという場面も出てくる。
現在の業績がよくても、将来にわたってうまくいくとは限らない時代になっている。
それは、CASE(C=コネクテッド、A=オートノマス、S=シェアリング、E=エレクトリックモビリティ)の時代で、自動運転の電気自動車になることで、自動車産業だけでなく、テスラ、グーグル、アップルなどの巨大産業が取り組み始めている。つまり、IT産業が参入する。
本書では、2018年10月のトヨタとソフトバンクの提携の意味を掘り下げる。ソフトバンクはホンダと提携していたが、トヨタ側からのソフトバンクへのアプローチだったことを明かす。それは、アメリカ大統領がトランプとなることで、米中の貿易衝突が生まれ、トヨタとしてアメリカの市場も欲しいが、中国の市場も欲しい。それをつなげるには、トランプと仲がいい孫正義が重要であり、中国にも強力なパイプラインを持っている孫正義が必要だった。ふーむ。なるほどねぇ。それにしても、孫正義が自動車産業さえ取り込もうとしているのことに、野望を感じる。トヨタはクルマをたくさん作りたい。孫正義は、徹底してクルマをライドシェアー、自動運転に持って行こうとしている。矛盾した関係の提携が進む。また、自動運転、コネクテッド運転になれば、サイバーテロされた場合に惨事が起こることも予測する。
本書の物語の中心は、2020年までに、トヨタはEV車を作り、走行1000キロを達成するという豊田章男の逆襲が実現できるかだ。燃料電池の固体化の開発だけでは、走行距離は延びない。この本では、森製作所が重要な役割を担う。この森製作所の物語が、素晴らしい。職人魂がある。
そして、トヨタは1000キロ走行できる電気自動車を量産できてハッピイな形で終わる。それだけでは、終わらないのが自動車産業だ。豊田章男(66歳)は、2023年4月1日で、レクサスのチーフエンジニア出身の佐藤恒治(1969年生まれ。53歳)に社長を譲った。豊田章男は会長になって、創業家の求心力を維持する。豊田章男は、リーマンショック後の業績回復を主導し、アメリカ公聴会、大規模リコール、東震災大地震などの難局を乗り越え、世界1の自動車メーカーになしえた。めでたし。めでたし。
もてはやされているEV車。アメリカでの市場シェアが1.2%。最も進んでいると言われるカリフォルニアで3.5%。アメリカのガソリン車は98%で、EV車は普及していると言い難い。日本は2.1%。
中国のEV車は、政府が強力な推進をした。電気自動車は中国がリードするという勢いがあり、1時期は400近い電気自動車メーカーが生まれた。しかし百度や騰訊が出資した「威馬汽車」は2023年10月に倒産、「拜騰汽車」は2021年に倒産、「奇点汽車」も1台も販売せずに経営破綻、「恒大汽車」は恒大グループで窮地に陥っている。世界的に見ても電気自動車だと騒いでいる割には、普及していないのが現実だ。でも、2019年のドイツで、ベンツ、BMW、アウディを抑えてテスラモデル3はトップにたった。中国でもシェアーを伸ばしている。BYDも、同じように伸びて、日本で販売を始めている。 -
面白かったです。EV化向けてトヨタの戦いが垣間見えてた気がします。
常に変化へ対応していき、開発を進めていかなければ企業価値は下がり、組織が崩壊しかねないことが分かりました。 -
トヨタ前社長の弁護をしているように取れる内容であるが、いずれにしても結末はバラ色で表現されていたが実際にはそうなっていない。ただ、自動車のこれからについて考え方が少しわかった。
〇既存のサプライヤーだけでEVシフトや自動運転化の波を乗り切れるとは思っていない。
〇痛みもリスクも伴う戦略だが、EVでもヒットを作り上げるカギはここにあるのではないかと安本は思った。
〇「私は実業はからきしダメ。どれがどれだけ売れるなんてことを考えるのも好きじゃない。世の中の風を読んで需要を探るのも、実はさっぱりできない。
〇しかしだ、だからこそまだ風が届かない遠くが見渡せる。世の中の動向じゃなく、自分がかくあってほしいと思う世の中を作るのが私のやり方だ。だから買収です。実業をちまちまやっていては先にくたばってしまう。それをカネに任せた買収屋と呼ぶか、世界を変える一大事業に身を投じる義士と呼ぶかはお任せします。
〇新型電池は、この電解質に液体ではなく固体を使う、「全固体電池」と呼ばれるものだ。これにより既存の電池が抱えていた「液漏れリスク」や「設計の自由度」「充電時間」の問題は解決することになるが、固体電解質の素材も量産技術もいまだ確立していない。
〇独裁には技量と才覚がいる。おまえにはそれはない。耳に痛い意見を受け入れろ。本当に重用すべきはそういう人間だ。
〇日本企業固有のしきたりと言われる顧問・相談役制度には、外国人投資家らから「会社法に規定がないため、権限や報酬に透明性がない」といった批判が強く、東京証券取引所からも、人数と条件を開示するよう要請されている。
〇近未来的な箱形のデザインのクルマが走るアニメーションが映し出され、ときに移動型飲食店となり、ときに小型のカジノとなり、ときに乗り合いバスとなる未来図が華やかに演出された。しかし、現実には「Tキャリア」が実際に走っているのを見た者はだれ一人いない。
〇「デジュール・スタンダード」とは、工業製品などにおいて、国や省庁など公的機関が性能や製造方法、生産のための技術などを定めた規格のことである。市場競争の結果として事実上の標準となった規格を指す「デファクト・スタンダード」の対極となる概念である。
〇飽くことを知らない買収は、人を嗅ぎ分ける嗅覚と、キーパーソンと見込んだ人間と 繫 がる能力があってのものだ。常人にはとうてい真似できない。 -
99%が実話と言える内容で、その生々しさがよく伝わってくる。
これまで多くの経済小説を読んできたが、前編を含めてこの作品はベストと言える。
特に自動車業界に携わってきた身としては、押し寄せる電動化の波とそれに対応すべくもがく自動車メーカーの実態が忠実に描かれ、何度頷いても足りないくらい。
そして本作は2021年末に発売されたとのことだが、その時点では豊田章男氏の社長退任はまだ発表されていなかったはず。
それを予想して本作を描いていたのであれば、なんとすごいことか(後で付け足しただけなのかどうかは知らないが) -
実際の豊田章男社長が思い浮かぶだけに、何とも言えない面白さがある
庶民には、華やかに見える舞台の裏側に、いろいろな物語や思い入れがあると感じた -
トヨタの内幕のような話ではあるが、やはりそこは小説。ただその中でやはりある程度の真実がありそうに思える。特に社内での争いは多分、本当だろう。そんな事は同族でなくてもあり得る話だが。最後は引退で終わるが、現実はまだまだ章男さん元気です。