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感想・レビュー・書評
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事実関係は知る由もないけど、単純に読み物として面白い。はてさて真相はいかに…
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突出した経営者とは、どういう人なのだろう。カルロス・ゴーン氏は、あれこれ言われてはいるが、やはり経営者として突出していたと思う。例の事件後の日産とかルノーのアライアンス(同盟)の動向を見るに、以前ほどの存在感はなくなっているのではないか。本書を読んで、そういえば以前はトヨタを抜いて、世界一位になったこともあったんだっけ?そう思うと、やはりゴーン不在の日産・ルノー・アライアンスは迷走していると感じる。俺はそれほど自動車業界に詳しくはないけどさ。
そのゴーン氏が、経営者としてどのように舵取りしてきたかをみると、大きなポイントは2つあったように思う。
ひとつは、アライアンス(同盟)と称するグループによって、規模の経営を追求すること。いろんなものを共用することによってコストを下げ、多く売る。これはゴーン氏によらない著作でも指摘されていた話だ。『日産VSゴーン』とかだったかな。ゴーンのやり方は、規模の追求のみだ、と。あまり肯定的にはとらえてない印象もあったけど。
もうひとつは、意外な気もしたけど、同盟をうまくまわすために調整的な役回りを演じていたこと。中国でのビジネスを展開する際、中国側はフランスを背景としながら日本とうまくやってきたゴーン氏であれば、中国の伝統も尊重してくれるのではないか、との期待を述べたとあった。よく剛腕というけれど、それは力で押し切るのではなく、いつも世話になってるからあの人に頼まれると断れない、みたいな関係を持っているからこそなのだという話もある。まぁ実際、大人になって怒鳴ったり、強く出たりするやつって、めんどくさがられたり、嫌われることはあっても恐れられるわけではない。めんどくさいやつって、かえって排除されるからなぁ。プーチンが笑って、「フランス政府が恐れているのは私(プーチン)ではない。君(ゴーン)だったんだ」と言ったなんてエピソードがあったけど、そこでの恐れられる、というのも、まさに仕事を調整できる能力という面を言われているんじゃないかと思う。
では、カルロス・ゴーンはなぜ排除されたのか。
わりと冒頭の方で、ゴーン氏が排除されたことについて、フランスのグランゼコール(エリートを養成する専門大学校)を出ていながら、生粋の特権階級からなんの注意も払われていないことが指摘されている。
アウトサイダーから、特権階級に入ろうとする過程で、フランスからも日本からも、結局のところ排除されちゃったんだろうなぁ。
株式からの収入で自分よりはるかに高い収入を得ている特権階級がいる中で、なぜ働いている自分の給与がそこまで目の敵にされるのか。ゴーン氏自身の言葉で、そのフラストレーションが語られていた。
でもさぁ。
人情としてわかんなくもないんだけど、それ言っちゃうと、庶民からも強欲なんて言われちゃうんだよなぁ。そのあたりで特権階級に入り込もうとしたアウトサイダーは、帰属する場所を失ったのかもしれない。
なんとも切ない話にも思えるが、まぁそれは本書からの印象。別の視点でみたら、また別の印象に変わるだろう。
あれこれ面白いので、ゴーン氏に関しては、また別の、もう少しゴーン氏側じゃないところの話も読んでみたい。
ゴーン氏を追い出した西川氏は、ゴーン氏以前の日産に、日本の会社に戻すんだと意気込んでいたとかいう。今、そういう時代かなぁというのは、その後の西川氏の顛末からも感じるものはある。
ビジネスの世界はむつかしいね。