なめらかな世界と、その敵 (ハヤカワ文庫JA) [Kindle]

著者 :
  • 早川書房
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感想・レビュー・書評

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  • 無限の平行世界を行き来して未来を書き換えることができる世界に住む主人公は、その選択肢をすべて捨てる決断をする。表題作を含めた珠玉のSF短編集。

    若手SF作家の旗手と名高い伴名さん。初ですが、とても楽しめました。SFらしいSFを読んだなあ、と思えたし、その視点や技法が縦横に走り回るので飽きずに楽しめました。「美亜羽へ贈る拳銃」ではインディファレンスエンジンが出てきて、「おお!伊藤計劃!」と思ったのですけどトリビュートだったんですね。これからの活躍にも期待です。

    そうですね。とりあえず超弩級のAI(シンギュラリティ・ソビエト)がやりあうといえば手塚治虫の火の鳥未来編と一緒にお楽しみください。

  • 解説ではハードSFという言葉が使われていた。たしかにハードSFの素養があるのは充分に伝わるけれど、それが表出された小説集かといえば微妙。
    ただし、それはこの短編集の瑕疵ではまったくなく、おなじく解説に書かれていたエモーショナルという言葉のほうが印象は残る。

    ややもすればライトノベルっぽくなりそうな危うい場面もあるけど(危ないわけではないけど)、そこは先のSFの素養により回避できている感じがある。

    情緒的なストーリーテリングも使われるが、基本はアイデア先行だとは思う。発想だけの出オチにならず、物語としておもしろく構成されていて読みやすかった。

  • どの作品もそれぞれ違った世界観と文体があり、ひとりでこれだけバラエティに富んだ作品が書けるのかと驚きとともに、とても面白く一気に読めた。

    お気に入りは、ホーリーアイアンメイデン。妹から姉へ向けた数通の手紙の告白文。手紙は一方的に妹の想いがぶちまけられるけれど、姉はどう感じたのか気になった。

  • 長編小説だとばかり思っていたので、読み進めてくうちに短編集だと知って驚いた。

    しかも、それぞれ作品ごとに文体を変えているところに感嘆。

    しかしまあ、それぞれすごい世界観だなあ。たまげたよ。

    SFってホント凄いのなあ。

    しかし、割ととっつきにくくてわかりにくい内容と世界観の表題作を一番最初に持ってくることで、結構損してるんじゃなかろうか、とも思った。

  • 事前評判通り、めちゃめちゃSFしてる。SFが好きすぎてたまらない感が溢れ出ている著者。アイデアならいくらでも湧いてくるので、あらゆるタイプのSF描いてみましたという感じ。(解説にもあったが)それでいてエモーショナルな作品が多く、それによってか、SFだけどSFらしくない読後感と読みやすさがあるのかなと。
    男性作家でありながら、女性が主人公の作品が多い(かつ女性同士の恋愛も多い)のも一つの特徴。表紙のイラストがなかなかうまいことこと短編集のイメージを表している気がする。短編集だし、具体的にどの作品の誰を書いているのかはわからないけど、大体登場人物のイメージはこんな感じだし、なんとなく萌え系漫画やラノベに通ずる雰囲気がある。

    ===

    「なめらかな世界と、その敵」★★★★★
    - パラレルワールドもの。別の現実にいる自分と常にシンクロしているのが通常という設定。ある時、転校してきたマコトは、事件に巻き込まれたことで乗格障害になっており、別世界と通じることがてきなくなっていた。
    - 事件を起こした一陣は脱走し、マコトを誘拐。
    - サスペンスかと思いきや、ヒューマンドラマ(百合的な)で幕閉じ。美しい短編の終え方。

    「ゼロ年代の臨界点」★★★☆☆
    - 『結晶銀河』にて既読。日本SF史初期の3人の女性作家について書くノンフィクション風フィクション。1回目はなんじゃこれだったけど、2回目はちょっと面白かった。

    「美亜羽へ贈る拳銃」★★★★★
    - 天才的技術者の美亜羽は銃の形状をした脳インプラント機械を開発。インプラントによって感情や性格を変えたり、固定したりできる、という世界。
    - 天才であり、神冴家に強い恨みを持つ本来の北条美亜羽と、その後、脳インプラントにより、実継を愛するようにプログラムされた北条美亜羽。
    - 伊藤計劃『ハーモニー』へのトリビュート作品でもあり、作中では『ハーモニー』いう名前こそ出てこないが、その真っ白い装丁の本は聖書と呼ばれている(美亜羽は聖書に登場するミァハから取って名付けられたという設定)。

    「ホーリーアイアンメイデン」 ★★★★☆
    - 「プロジェクト・シャーロック」にて既読。
    - 人に抱きつくとその人のエネルギーを奪い、柔和な人格に変えてしまうという特殊能力を持つ姉、という新鮮なSF設定も良いし、「妹から姉に対する手紙」という形態なのも面白い。

    「シンギュラリティ・ソヴィエト」★★★★★
    - 冷戦時代、ソ連はAIを開発し、月面着陸をアメリカより先に達成した。ソ連を支配するAIヴォジャノーイは人間の脳の半分を計算資源として利用しており、人々は労働者現実(とか党員現実とか)という技術で繋がっている。
    - 対する西側はAIリンカーンは電脳世界を作り、人々を移住させた。そこではソ連は崩壊しており、幸せに暮らしている。
    - ソ連に潜入したマイケルの目的はかつて義姉を殺したベレンコの真実を暴くこと。

    「ひかりより速く、ゆるやかに」★★★★★
    - 突如時間の流れが遅くなり、硬直してしまった新幹線と、その中に閉じ込められた修学旅行の帰路にある高校生集団。超自然現象的なSFの雰囲気で始まり、途中からこれはタイムトラベルものなのかと思わせ、最後はファーストコンタクトものだったと判明し、それでいてドラマチックな感動モノの様相で幕を閉じる。
    - 一方で、竜がいる世界の話が並行して進むが、これは後に僕が書いている小説だと判明する。

  • SF短編集なので、それぞれの作品についての感想を。

    『なめらかな世界と、その敵』
    ありうる可能性の世界を自由に行き来できる「なめらかな世界」にあって、乗覚障害という世界を行き来できないヒロイン。
    ぼくらの現実は1つしかない。ありうる可能性をいつでも選び放題というifの面白さと、1つしかない現実を生きるしかないことを選び直そうと思わせてくれる。
    『ゼロ年代の臨界点』
    日本SF黎明期(1900年代)の研究解説。中在家富江、宮前フジ、小平おとらの3名を中止とした小論。の体裁をとった偽史小説。すごくリアリティを感じるし、作中作の、歴史を修正するために時間を遡りながら生きる藤原氏という設定の中宮定子と清少納言の話は読んでみたいと思った。
    『美亜羽へ贈る拳銃』
    ヒロインの名前はミァハから。その他使われる単語に名残を感じる。
    脳へのインプラントで、人格までもを変えられる世界。今日の自分と明日の自分は他人。
    同じ脳、別の相手への恋の物語。
    いろいろと仕掛もあって面白かった。
    『ホーリーアイアンメイデン』
    書簡形式でつづられる、姉の力と妹の死の秘密。
    読者に知り得るのは、手紙の内容だけなので、実際の出来事には想像の余地があるのが、またいいなと思った。
    『シンギュラリティ・ソヴィエト』
    ソヴィエトのAIがシンギュラリティを迎え、西側の勝利した世界。ソヴィエトでは国民1人1人が演算のために脳の一部を明け渡し、アメリカではソヴィエトに対抗するためのAIが作られたものの、劣勢が続き、国民は西側が勝利した歴史という電脳世界に移住している。その世界観と現実の歴史を作中におけるif世界として取り込む手法はすごい。
    『ひかりより速く、ゆるやかに』
    同級生たちが乗った修学旅行から帰る新幹線が時間低速化に巻き込まれ、1000年以上の時をへだてて、幼なじみとも引き離されてしまった主人公。
    設定なんかを含めて、個人的にはSCP-2040-JP“ようこそ未来へ”を思いだした。
    ハッピーエンドでよかったなぁと思う。
    あとやっぱり、作中の世界観描写にリアリティを感じるのがいい。

  • レビューは未定。

  • すごく良作な短編集。最初と最後の作品が好き。
    SF好きにはたまらないと思われる作品で、著者のSF愛がすごいんだと思う。

  • 文章が素敵です。パラレルワールド、脳科学などを題材に、「青春」を感じる物語が多い。最後の「ひかりより速く、ゆるやかに」はとても独創的なストーリ。引き込まれました。

  • 近未来系の王道SF。
    短編集でどの短編も視点やアイデアが違うので、それぞれ楽しむことができる。
    個人的には一番最初の『なめらかな世界と、その敵』は難しいので、初めて読む人はいきなり難関にぶつかるのではと感じた。そこを乗り越えるとかなり面白いし、映像化してもおかしくないレベル。

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著者プロフィール

’88年生まれ。’10年「遠呪」で日本ホラー小説大賞短編賞を受賞し、受賞作を改題・改稿した『少女禁区』でデビュー。編書に「日本SFの臨界点」シリーズなど。最新作は『なめらかな世界と、その敵』。

「2022年 『ifの世界線  改変歴史SFアンソロジー』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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