統合失調症の一族 遺伝か、環境か [Kindle]

  • 早川書房
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感想・レビュー・書評

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  • 12人の子どもたちのうち、半数が統合失調症を発症したギャルヴィン一家の記録。

    人一倍体裁を重んじる父親のドンと母親のミミだが、まるで運命に付け狙われているかのように子どもたちの意識が混濁しはじめ、家庭が崩壊していくさまがすさまじい。

    本書は発症しなかった末娘のメアリー寄りの視点からも語られている。彼女は晩年の老いた兄たちや母親の介護に奔走した、行動と意志の人。
    子ども時代は地獄のような環境に置かれていたにもかかわらず、その地獄に参入することを決意した。
    もちろん、兄たちが好んで幻聴や幻覚に悩まされ、暴力をふるっているわけではないからだ。そうはいっても、受けたトラウマの大きさを思えば、彼女の決断はなかなかできるものではない。

    彼女はまた、統合失調症研究の進展にも一役になうことになる。そう、遅々とした研究の進展に、忸怩たる思いがあったからだ。
    例えばあのファイザー社が統合失調症の薬剤研究を打ち切ってしまった。そのため旧来の副作用の大きい薬を兄たちは服用し続けなければならなかった。もしももう少し薬剤研究が活発に行われていたなら、兄は廃人のようにならずに済んだかもしれないと。

    その意味でギャルヴィン一家は統合失調症の気まぐれな治療法の変遷にも翻弄されたわけだ。
    悪名高い、冷水療法や電気ショック療法に始まり、発症の原因を母親のせいにされる時代が続き、精神病患者を悪しき精神病院から解放する運動が始まり、やがて狂気が社会へと開かれていく過程をこの一家は生きたのだった。

    なるほど、この一家が味わった不幸をかんがみると、家族関係という枠組みで精神疾患を分析したフロイトにも責任の一端がある(というよりか、フロイトの理論の不正確な受容の仕方のほうにこそより責任があるというべきか)。

    本書を読むと、いわば狂気を家族というフレームから解放しようとする流れから、ドゥルーズ=ガタリの『アンチ・オイディプス』のような反精神分析の著作が書かれた理由がよくわかる。

  • ノンフィクションですよね。

    この本が特別なのは、ギャルヴィン一家がこの本を出版することに協力したということだと思います。

    多子だった時代はありますし、現代でも多子の国はあります。そして、統合失調症が家族内で発症することは、珍しくありません。

    なので、探せばこのような家族は、実は稀ではないと思います。

    ただ、みんな隠しますよね。
    偏見の目にさらされる勇気はなかなか持てないです。

    子供をたくさん産み育てるというのは、カトリックの伝統的な文化でしょう。カトリック信仰がこの家族の重要な思想、行動様式であり、この家族のエネルギーの源だと感じました。信仰は、強いです。

    統合失調症は、現代でも原因がよくわからない疾患です。統合失調症が完治する未来を期待しています。

  • 12人の子供のいる大家族で次々と統合失調症を発症していく家族の話です。
    とにかく、救いようのない地獄の日々。そんな厳しい環境でも強い生き抜き、最後には崩壊するのではなく、それぞれが助け合って生きていく姿には圧倒された。
    また、彼らのような特異な家族が、統合失調症の解明に多大な貢献をしていることに、ものごとには無駄なものは全くないのだと思わされた。

    統合失調症の発症は、遺伝なのか、はたまた環境による後天的原因なのか?
    医療の進歩した現代でも、原因の解明はまだまだできていないとのこと。脳の疾患であることは明らかになっている模様。
    それと昔からある、抑圧的な母親の育て方が疾患に影響しているというのは間違った考え方だそうだ。引き金であり、助長していると思うけど。

  • 12人兄弟のうち6人が統合失調症の一家という状況について興味本位で読み始めたのだが、統合失調症の原因を探る研究者側の説明もわかりやすく、とても良い本だった。長男に最初の症状があらわれてからの50年は、この病気についての研究や治療法の歴史とも重なる。著者は、遺伝なのか環境なのかという問いについて、性急に答えを出さずに、一家に起こった出来事を記載していく。発症した人だけでなく、発症しなかった6人についても、彼らが感じている恐れと、それにどう対処していたかについて、丁寧に記載している。発症しなかったのは運がよかっただけなのか。セラピストなどと出会って、自分の問題と向き合うことができたからなのか。50年前の、ただ患者を大人しくさせるだけのお粗末な薬物療法と、それによる副作用。非協力的な製薬企業。問題を直視することが困難な両親。母親にすべての責任を押し付ける考え方によって追い詰められる母親。最後は、医療の進歩を信じて、医学的な実験に協力する家族の姿が描かれて、未来への希望へと通じている。原因は一つと限らない。家族の誰かを悪人にするのではない、著者の書き方によって、一人ひとりの生涯に想いを馳せる内容になっていて感動させられる。

  • 実話。
    12人兄妹。下の妹は、現在50代後半。
    何この兄妹の多さ。これだけでも、うわーってなるんだけど、さらに統合失調症を発症した兄弟と、発症しなかった兄弟姉妹がいる。

    興味深く読んだけど、この環境を自分に置き換えるのさ遠慮しといた。怖い。

    途中、病気に関する専門的な事も出てくるけど、割とサクッと読めます。長いけど。

    でもあまり周囲にオススメはしないかな。

  • 統合失調症や機能不全家庭についてのノンフィクション作品。
    ですがこの本の評価が高いのは、それにとどまらず、ある家族の盛衰と愛憎の歴史をクロノジカルに精密に描き出しているからではないかと思います。
    まるで著者が当時にハンディカメラを持っていき、ある極めて特殊な家族のホームビデオを撮って我々に見せてくれているような視点で淡々と物語が進んでいきます。
    そして年代が現代に近づくにつれ、映像が鮮明になり、過去には見えていなかった残酷な事実までもが読者にも見えてくる…という仕掛けがあり、後半は読み進むのが止まりません。

    「遺伝か、環境か」という副題から科学的/医学的なアプローチを期待すると肩透かしかもしれませんし、私には専門的な知識がないので難しい部分もあったのですが、ある家族の物語としてほんとうに感動できるノンフィクション大作です。

  • 12人兄弟の半数が精神疾患を発症した家族を中心に統合失調症の原因究明と創薬に挑む人々を取材したドキュメンタリー大作。
    画期的な成果とか病気の克服といった結末を期待してはいけない。創薬は挫折したままで、研究はようやく光明が見えてきたもののまだ道なかば。この病気は遺伝によるものか、環境によって後発的に引き起こされるのかと言う古典的議論にすら決着はつかない。
    それでも未来の患者の為に奮闘し続ける研究者とそれを支える善意の人達に希望をみいだせる。そしてこの家族を一生支え続けた母親ミミと、研究や本書に協力してきた末娘リンジーのアメリカ的ポジティブ思考が感動的で勇気づけられる。

  • 【私たちが人間らしさを備えているのは、周りの人々が私たちを人間たらしめているからにほかならない】

    12人兄妹のうち6人が統合失調症と診断されたギャルヴィン一家。壮絶にして稀有な歴史をたどった家族の歴史をたどりながら、統合失調症をめぐる科学史を振り返る作品です。あまりに衝撃の展開と人体の不可思議さを痛感させられるラストに驚嘆しっぱなしの読書体験でした。著者は、本作が軒並み高評価を獲得したロバート・コルカー。訳者は、重厚なノンフィクションの翻訳に定評のある柴田裕之。原題は、『Hidden Valley Road: Inside the Mind of an American Family』。

    米amazonで15,000近くのレビューが集まって4.5評価なんだからそりゃ間違いないでしょう☆5つ

  • メンタルがえぐられそうになる内容。
    p22〜25の兄弟のプロフィールと名前を何度も確認しながら読み進めた。

  • 12人の子供たちのうち、6人が統合失調症を発症したギャルヴィン家。
    この衝撃的な一文は、統合失調症がいかなるものなのかについて興味のある人間からすると、とんでもなく気にかかるものだと思います。
    一族に起きる出来事と並行して語られる統合失調症への研究は、まさに副題である『遺伝か、環境か』の論争に外なりません。
    ある種の母親が全ての原因だとされていた悪夢のような時代から、遺伝子が原因だと判明するまでの間、それどころか原因の一端が判明してもなお治療が確立されていない現在において、世間に翻弄されつつも必死に生き延びてきた一族の姿は壮絶です。

    作中、『統合失調症と呼ばれるものは、疾患ではなく症状である可能性がある』という話が出てくるのですが、私にとってこれは目から鱗の視点でした。
    かつて発熱は『熱病』という一つの疾患として扱われていたそうですが、実際には発熱とはさまざまな疾患に伴って体にあらわれる『症状』です。
    統合失調症も発熱と同じで、様々な精神疾患に伴ってあらわれる『症状』に過ぎないのかもしれず、であれば統合失調症の治療とは一体何なのか?という話になってきます。
    ひとつの病として統合失調症を捉えていた私にとって、この視点と可能性は非常に驚きでした。

    現在ですら未だ効果的な治療法が確立されないこの疾患(あるいは症状)は、それでも熱意ある研究者達により発症原因となる複数の遺伝子が発見されています。
    妊婦が特定の栄養素を接種することで、胎児の段階で統合失調症の発症リスクを抑制できるまでになっているのだそうです。
    それでもまだ、発症してしまった患者への効果的な治療の確立には手が届いていません。
    時に製薬会社が利益の面で価値を見出さず、統合失調症研究への支援を打ち切る中(その会社がコロナ禍でさんざん耳にしたファイザー社なのは驚きでした)、ギャルヴィン家が善意によって提供した稀有な遺伝子データ群が研究の基盤となってきた事実は、凄惨な環境を越えて生きてきた彼らが未来へと送るメッセージです。
    物語の最後、一族に連なる女性がこの研究の分野へ足を踏み入れようとする姿は、希望そのものに見えました。

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