バカと無知―人間、この不都合な生きもの―(新潮新書) 言ってはいけない [Kindle]

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  • 週刊新潮の連載「人間、この不都合な生きもの」(2021年8月~22年6月)をまとめたもの。

    人はなぜ正義を振りかざして他人のゴシップを糾弾するのか、バカは自分がバカだと気づかない、自尊心の高さの功罪、差別と偏見は人間の生まれもった本性、すべての記憶は捏造された偽物等々、人間の負の本性を炙り出した一冊。

    「キャンセルカルチャー」、行き過ぎたリベラル思想の蔓延と「ポリティカル・コレクトネス」の潮流等々、考えてもゾッとするな。「能力の高い者が自分の成績を過小評価し、能力の低い者は逆に(大幅に)過大評価する」ダニング=クルーガー効果のなんと皮肉なことか!

    「ヒトは徹底的に社会化された動物なので」「生存のためには他者と協働しなければならないが、生殖のためには他者を押しのけなければならない。これが、数十万年前から人類が直面してきた究極の矛盾(トレードオフ)だ。その結果わたしたちは、徒党を組んで敵と対抗する一方で、表向きは協力するふりをしながら裏では足を引っ張って、仲間を陥れて自分のステイタスを上げるという複雑な戦略を駆使するようになった」とのこと(あとがき)。

    人間が進化の過程で獲得した性癖が、世の争いやトラブル全ての元凶。なので、教育に力を入れたり共感力を養ったりしたところで根本的な解決策にはならず、この状況を黙って受け入れるしかない??

    まあ、ヒトは自己家畜化している最中なのだとすれば、世の争いや犯罪は今後徐々に減っていくのかな。「ファクトフルネス」によれば、客観的にみて世の中着実に改善する方向に向かっているようだし(ただ、人にはネガティビティバイアスがあるのでそのような変化になかなか気づかない)。

  • 相変わらずタイトルは過激だが、内容は社会心理学の古典的実験の超ダイジェストである。
    これらの中からピックアップしたいくつかの知見を、著者は手際よく組み合わせて現代に生起するさまざまな現象をスッパリ、バッサリと説明していく。
    社会心理学の初学者や一般人にしてみれば、実験の手続きと結果の説明は平明簡潔だし、実験の追試による最新の動向もカバーした、非常によくできた概説書。
    しかも研究者が踏み込まない現実問題(ポリコレ含む)に踏み込む爽快さもある。
    橘さんのことは優れたサイエンスコミュニケーターと呼んでも差し支えないだろう。

    しかし、どうしてだろう。私の中のなにかが星5つにすることを拒むのだ。
    橘氏があまりに簡潔明瞭に説明しすぎるからかもしれない。

  • オーディブルで聴了。

  • 痛快だった。
    無知は良いが、バカはダメ。

    バカとは自分の能力を過大評価する人。自分の能力以上に誇示したがるから、SNSなどによってバカな人の意見は拡散されやすい。
    一方で本当に能力のある人は、思慮深く、決して自分の能力以上に誇示しようとはしないので、実はあまり目立たない。

    研究データをもとにした理論を、「バカは〜」とまとめることで、とてもシンプルで分かりやすい。

    無知を知り、バカにならないように、自らを戒めようと思った。

  • この著者の本は、れも鋭い言説と日常生活で気づき得ない社会の矛盾の「背景」を紐解いてくれて面白い。本書もその一冊。

    タイトルからして刺激的だが、「バカは自分をバカと気づいていないことが問題」というのはその通りで一番深刻。対話が成立しないことが一番しんどい。スーパーや飲食店でこの手の人達をよく見る。

    「良いニュースより悪いニュースに反応する」という人の本性。朝のワイドショーの多くが交通違反のカメラ映像や犯罪を煽る報道が占めているのも、視聴者層が「本能的な快楽」を求めているからか。正直、朝からあんな番組を見て元気でいられる方が羨ましい気もする。

    匿名で自分は一切リスクを追わずに他者を批判できる現代。でもそれによって幸福度が高まる訳ではない。むしろ、安易に批判せず「そんなこともあるさ」くらい楽観的な方が、自分は幸せでいられるという。最近イーロン・マスク氏がTwitterを買収してから、タイムラインがネガティブ報道のリツイートばかりになってきたので、デジタルデトックスも必要。

    リベラルな思想は社会の受けは良いが、「一人ひとりを尊重する」結果、政治は利害調整が複雑になり機能不全に陥る。結局生きづらさが増していく、というのは辛い現実ではあるが、今はその過渡期なのかもしれない。

    日本はイノベーションが不得意だと言われるが、そもそものDNA的に苦手なのでは、とこの本を読んで改めて思ってしまった。そもそも同調圧力が強く、宗教や文化の多様性も乏しく高齢者の割合が極端に高い日本で、「破壊的な創造」が許される土壌はなかなかない。であれば、むしろ得意分野である「改良」にもっと力を入れても良いのでは。

    他人から「魅力的」と思われるかではなく、「自分が主観的に魅力的」に思えるかが幸福のカギ。これができれば、多くの人のストレスが減るだろうが、なかなか簡単にはできない。

    中盤〜後半にかけては実験とその結果の紹介がしばらく続き、単調になり読み飛ばしてしまった部分もあった。

  • 人間ってすごく矛盾している生き物だと、すごくわかる。
    頭がいい人と悪い人がいた場合、悪い人の方に引っ張られる。
    集団で生活をしなければ生きていけないのに、誰かの足を引っ張ったり自分だけは優位ですと上に立つ欲求もある。
    更に人間の記憶なんて結構あいまいなもので、自分を正と思い込めば思い込むほど
    それ以外は悪だと決めつける
    実に厄介な脳みそを持ったのが人間なのかもしれない。

  • バカは自分がバカであることがわからない、なぜならバカだから。あなたもわたしも。
    人間関係、社会関係がうまくいかない理由をいろいろな研究エビデンスを元に明瞭に語っている。
    全体を通して漂うのは人間、人類に対するうっすらとした絶望感。差別や階層社会が出来上がる理由がなんとなくわかってきた気がする。

  • 既読のビジネス書(不都合な真実とかバカの壁とか)をミキサーにかけて焼き直したような内容。目新しい項目はなかった。
    「無知の知」についてはソクラテスが既に大昔に説いたこと。

    さらに、選挙についての著者の考え方が衝撃的だった。ごく簡単に記すと

    選挙に行くだけではダメで、正しく判断して投票しなければならない(これは真実)
    しかし、正しく判断するためには全ての省庁や行政のシステム、候補者の思想を正しく理解する必要があり、そんな膨大な労務をお金にもならないのにやる人はいるのだろうか?私ならやらない。

    「私ならやらない」と言い切っていた。これは・・・ちょっと危険な思想ではないか?
    それができるようにマスコミや教育、国が選挙システムや各党の活動内容などをわかりやすく公に説明する制度、選挙に行きやすい環境を作ることが必要なのではないかと思う。(投票者のリテラシーを上げていく制度)

    橘玲さん、しばしば著書が評判になるけど、私の中では監視銘柄入り。

  • 本書は集合無知の原因について述べたものである。
    能力が高いもの過小評価し能力が低いものが過大評価するダニング=クルーガー効果。また、無知であることを知らない。この2つがバカと無知の原因と説いている。
    この本を読んで「良かった、私はこの本で示される様なバカではない。バカにならない方法も知ることができ助かった。」などと考えるなら危うい。
    この本を読むとほとんどの人はこう思うのではないだろうか。自分は平均以上の知識を持っている。私はこの本で出てくる悪ではなく善であると。義務教育や高等教育が目指す複数の学科で平均的に点数を獲得するのが是であると。
    私はこの本を上記のように読むことには反対だ。それならむしろバカの方が良い。この本が想定しているバカと無知が問題を起こすのにはもう一つ別の理由がある。自分が所属している共同体への共感の欠如である。仲間と思えていないから敵視する。それが根本問題ではないのか。
    知識や知恵は大事である。もっと大切なのは他者を思いやること。信用ではなく信頼を持てるようになること。そう気づくことの方が大事だと思った。

  • 初めての audible の利用。
    「聞く読書」を初体験。
    耳でも楽しむ橘節でした。
    書かれている内容は、これまでの一連の立花さんの本と重なる部分が多いかなぁと感じました。

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著者プロフィール

2002年、金融小説『マネーロンダリング』(幻冬舎文庫)でデビュー。著書に『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』(幻冬舎)、『日本の国家破産に備える資産防衛マニュアル』『橘玲の中国私論』(以上ダイヤモンド社)『「言ってはいけない? --残酷すぎる真実』(新潮新書)などがある。メルマガ『世の中の仕組みと人生のデザイン』配信など精力的に活動の場を広げている。

「2023年 『シンプルで合理的な人生設計』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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