- Amazon.co.jp ・電子書籍 (425ページ)
感想・レビュー・書評
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戦後北海道の礼文島を襲った寄生虫「エキノコックス」。
これに対処、退治すべく札幌から送り込まれた青年。
青年と島の人たちとの交流が主体の物語。
青年の上司が乗り込み、島の人たちに残酷な提案、いや指示を出す。
島から寄生虫「エキノコックス」をなくすために。
タイトルの「清浄島」。島だけに何か淫靡なものを感じてしまったが大間違い。
島でなくては描けなかった人間ドラマになっている。
皮肉なことに、島内では根絶した寄生虫「エキノコックス」は北海道に、さらに
本州に広がってしまう。
青年は管理職になり、若手が育つ。島の人との交流は続く。
テーマは深刻なものだが、なぜか人間の良さを感じることのできる良書になっている。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
エキノコッカス、キツネが終宿主の寄生虫。
患部のシストの切除が最終手段。主として肝臓に寄生する。
学生時代北海道のみに生息と習うが、現在は本州まで伝搬している。
礼文島に始まり根室方面そして北海道全般へ。
この闘いの記録。残念ながら未だ特効薬はない。
フィラリアや眠り病でも特効薬が出来ているんだ。
きっとできるのだろうと思うが、罹患する人は未だにいる。
これからが人類と寄生虫の戦いになるのであろう -
エキノコックス症を撲滅すべく闘った人々の史実をもとにした小説。
とあるラジオ番組で著者川﨑秋子さんがゲスト出演されていて話が面白く、何より元羊飼いという経歴に興味がわき彼女の本を読んでみたいと思った。
戦前から礼文島に蔓延していたエキノコックス症。隣の利尻島の住人には発症せず、「呪い」とまで言われたこの寄生虫による感染症。
なぜ発症するのか寄生虫の経路がわからないため対策の立てようもない時代。昭和23年にやっと現地調査が開始される。と言っても、初めは研究員1人での奮闘。
エキノコックス症という感染症が今ほどよくわかっていなかった時代。
調査員の奮闘、島民との関わりなどが丁寧に描かれている。
最終的に当時の礼文島では家で飼われている犬、猫も含めて宿主となり得る動物の一斉処分の決断が下される。
島民の気持ちや如何に。
「島民の未来を救う」という言葉が胸に刺さる。
感染症を封じ込めるために、必要なこととわかっている。理論的に正しくとも倫理的に証明できない。
上水道の整備、島民への教育。これ以上エキノコックス症で亡くなる人を増やさないために、色んな人の思いが交錯する。
果たして礼文島は10年、長い年月をかけて、清浄島となる。当時飼っていた犬や猫を提出した家族は再び犬、猫を飼うことを許されるか。
そして12年目、根室で新たな感染例が報告される。再びあの時の悪夢が…。
礼文島の時とは違い、根室は陸続きであり同様の対策は取れないが、礼文島の時の経験、薬の開発などの良いこともある。
礼文島のエキノコックスも初めは、山火事でハゲ山になった山の植林を妨げるネズミを駆除するため、千島からキツネを連れて来たことから始まっている。
良いことと思ってやったことが、後の世で悪いことを引き起こすなんて誰も思っていないけど、悪いことは起こってしまう。誰が悪かったというのは完全に後付け。今、良いことだと信じることをせずにはいられない。
道東のエキノコックスも千島由来と考えられる。
キツネの群の制御も困難。
感染症対策は難しい。
結局、道東からのエキノコックスの汚染は収まることはなく北海道全域に拡大し、現在は愛知県でも確認されている。
トンネルができ、輸送が盛んになる。発展と病は隣り合わせ。
今の新型コロナ感染症も少ない死者でおさえるために尽力している人がいる。
エキノコックス症が礼文島の風土病と言われていた頃、言われのない差別を受けていた人。これも初期の新型コロナと同じだろう。
終宿主に対する駆虫薬は日本でも使われるようになり感染率を下げるているものの虫卵に対する薬はない。人に対する薬も開発はされていない。
感染症は蔓延する前の初期に撲滅できなければ、共存するしかない。
「汝を愛し、汝を憎む」の言葉を胸に感染症を抑えるために闘った人達のことを忘れてはならない。
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利尻島に蔓延したエキノコックス症の研究の為、道立衛生研究所の土橋が赴任し、更には調査団が来島する。最終宿主動物の討伐、それは島民が飼っている犬猫にまで及ぶ。今住んでいる島民だけでなく将来のためと供出を促される。「理論的には正しい、しかし倫理的に納得できない」。重くのしかかる思いがし苦しかった。次郎とトモの別れが悲しかった。そして、やがて利尻島から根絶し清浄島となるが、10年後に同等で拡散する。科長となった土橋と沢渡が根室で再び苦悩の日々を送る。利尻島の大久保議員や役場の山田など人物像が丁寧に描かれていた。