日本銀行 我が国に迫る危機 (講談社現代新書) [Kindle]

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感想・レビュー・書評

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  • 日銀が利上げに踏み切れない本当の理由を分析するものであるが、次に要約される。著者の分析はネット上でも、少し探せば目にすることができるが、これが財政運営にもたらす影響、また、そもそもこのような事態の原因となった異次元緩和、この危機を克服する道筋を大胆に論じられている。
    「担税力がある層は相応いるのに合意形成ができない、日本」「甘え・無理解・無責任からの脱却は私たちの責務」の指摘には同意したい。

    ① 日銀が市場金利の引き上げ誘導をするためには、民間銀行が日銀に預け入れている当座預金の金利(付利といいます)を引き上げる必要がある。
    ② 日銀はこれまで長らく超低金利の国債を買い入れ続けてきたうえ、2016年からは10年国債金利をゼロ%近辺に抑えつけるイールド・カーブ・コントロールの結果、日銀の保有する国債の利回りの加重平均も低下し、2022年9月末時点ではわずか0.221%しかない。
    ③ 日銀が例えば短期の政策金利を1.2%に引き上げれば逆ざやの幅は1%ポイントになり、この逆ざやの幅が1ポイント開くごとに、年度当たり5兆円のコストが日銀にのしかかる。
    ④ 日銀の赤字が年度当たり5兆円となれば、ほぼ2年で自己資本は食いつぶしてしまうことになり、債務超過に転落する。
    ⑤ わが国の通貨の信認が大きく損なわれる可能性が極めて高くなり、円は大幅に売られることになる。

  • 日銀に厳しい批判の書。
    ただ、内容が専門的なので、レビューにまとめるのは、難しい。
    小生の中途半端な知識程度では、はっきりとは言えないが、本書を読んだ限りにおいては、日銀の異次元の金融緩和からの出口が、如何に困難であるかは伝わってくる。
    日本の将来のために、本書の予想が外れていることを願うが、本書を読んだ限りにおいては、「出口」での負担と混乱は必須のように思えた。

  • とても多くを学べる本であるとともに、自分の現在の金融政策に対する認識にとても影響する本でした。日銀の現在のマイナス金利、YCC政策の継続について、素人目からは同じようなことをやっているように思っていた他の中央銀行の政策やスタンスの違いを示しつつ、日本の政策の特殊さ(マイナスな意味での)を示してくださっている。
    特に、金利を上げれない理由として政府債務の大きさとそれに伴うコストについて言及されており、債権価格の低下が生じ際のコスト、金利上昇によるコスト、金利を上げられない状況は債務超過となってしまうことからではないかというもの。インフレにより結局は消費者の負担が大きくなること、財政のできることがそれにより制限されてしまいうること。MMTについての意見。直近の様子を見ていると、財政政策で抑え込もうとしても限界があることはなんとなくわかるのですが、これまでうまくいっているように見えていたのは市場の関心の低さだったのかもしれないと考えるととても皮肉に思えました。マイナス金利の下ではマネタリーベースを増やしても流通するお金の総量は増えないというのは、恥ずかしながらえっ?となりました。
    金融政策の有効性についてこれまでに得られている知見と、今行っている政策の変遷について書いてくださっており、学びが深いです。
    素人からでも繰り返し読んで何とか理解できる内容に思えました。(まだ理解できていない部分は多いながらも)

  • 黒田バズーカ、2年で消費者物価2%が実現できずずるずる延長は大東亜戦争初期と同じ。
    大量に国債を抱える日銀、金利が上がれば破綻。だから上げられない。
    しかしこのままでは円安、物価高、外貨不足でIMF介入。
    財政均衡を!

    ・・・そんな感じの新書。
    データを多数並べ、説得力ある文章。

    しかし。
    結局は増税で財政を立て直せ、と言っているようにしか見えない。
    取れるところから取っていない、つまり累進課税で富裕層から取れ、
    と言っているようには見えるが。
    内部留保を抱える企業と、税金を払わぬ富裕層。

    努力したから金持ちになれる、何てのはごく一部の起業家だけ。
    あとは、サラリーマン上がりで大企業の社長になって結構な報酬をもらうとか、
    天下りと退職を繰り返す高級官僚ってとこではないのか。

    そもそも国の財政が傾く原因の一部は、
    やれオリンピックだなんだと、謎の巨額の投資が行われ、
    何とか法人ができ、そこにすいあげられていった国税の無駄遣いにあるのではないか。
    その何とか法人に天下りする官僚たち、、、

    国税をまともに庶民に使って行けば、泉元明石市長のような善政ができるはず。

    ということでこの新書には、途中まで賛成、
    最後増税に目が向くのは反対。

    この人誰なんだろ?日銀、日本総研。

  • 位置: 518
    いずれ必ず来たる正常化局面では、中央銀行の赤字幅は「〝逆ざや〟の幅」×「資産規模」で決まります。〝逆ざや〟の幅が同じでも、当該中央銀行の資産規模が大きければ大きいほど赤字幅は大きくなってしまいます。中央銀行が特定の国債金利の水準を防衛しようと、超低金利の国債をさらに買い入れて中央銀行自らのバランス・シートに抱え込めば、いずれ来たる正常化局面での赤字幅をさらに拡大させることになってしまうため、政府から真の意味で独立した立場にあり、〝中長期的な物価安定〟という目標の達成のために金融政策を運営する普通の中央銀行であれば、こうしたオペレーションは、まず、やりません。

    位置: 599
    黒田日銀のもとで、市場の金利形成機能をずっと封じ続けてきたものが突然、外れることになるのです。タガが外れた長期金利は糸の切れた凧のようになってしまう可能性が高いと思われます。そうしたなかで市場金利の上昇を少しでも抑えるには、新規国債の発行は見送らざるを得なくなり、発行金額を減額するどころでは済まず、新規国債の発行はいっさい不可能になる、という事態も絵空事ではありません。市場金利に低下してもらえるようになるためには、実際にはさらに踏み込んで、満期到来債の元本償還額を増やして、借換債の発行額を減額し、国債発行額全体の縮小を迫られる可能性もあるでしょう。

    位置: 619
    優先させざるを得ないのは、他のどの歳出項目よりも、国債費になるのです。満期が到来した国債の元本が予定通りに償還できないか、もしくは利払費を一部でも支払えないとなれば、我が国はその時点で正真正銘の財政破綻(デフォルト=債務不履行) になってしまいます。それを回避するには、国債費を優先させるしかありません。

    位置: 626
    単純計算では、これらの歳出のすべてを、社会保障費も防衛費も義務教育の国庫負担金も地方交付税も、一律とすればすべて4割カットしなければ収まらない、ということになります。実際には国債費がもっと膨張するでしょうから、カットする幅はもっと上乗せせざるを得なくなるでしょう。ただし、私たち国民がある程度の増税の負担に耐えられれば、このカット率はその分だけ少なく済ませることもできます。日銀が利上げ局面に入って財務が悪化し、国債の買い入れを続けられなくなって長期金利を抑えることができなくなった局面で、我が国が財政運営上、直面すると想定されるのは、こういう厳しい事態なのです。



    位置: 1,826
    中央銀行による国債の大規模な買い入れや引き受け(〝財政ファイナンス〟と呼ばれます) は、結局は国民にとって重い負担をもたらすことは明らかでしょう。

    位置: 2,376
    なぜ、こうした事態に陥ってしまったのでしょうか。私はその原因は、 ①私たち一人ひとりに、社会を、国を支えるのは私たち市民であり、国民である、という意識や自覚が希薄なこと。具体的には、我が国でも税を追加的に負担する余力のある層は相応に存在するのに、社会全体として、その〝追加的な税の負担〟に関する合意の形成ができないこと。 ②財政再建に関する議論はもっぱら、毎年度、そしてせいぜい目先数年間の基礎的財政収支(プライマリー・バランス) の幅をどうするか、にとどまり、国全体、私たち全体として、過去の借金(国債残高) を国として返済していかなければならない、という意識が欠けていること。という2点にあると考えます。そしてその背景には何よりも、私たちの〝甘え〟と〝無理解〟、〝無責任〟があると考えます

    位置: 2,386
    我が国は、多額の家計金融資産があります。これは言い換えれば、追加的な税負担に応じる経済的な余力のある層は相応に存在する、ということを意味します。ではその家計金融資産をどの年代が保有しているのか ... 実に全体のほぼ3分の2を、 60 歳以上の高齢世代が保有しているのです。

    位置: 2,390
    これは財政運営の観点からいえば、そうやって、自分たちの世代がこれまですでに使ってきたお金を、同じ世代のなかには担税力のある層も結構いるはずなのに、同じ世代のなかで負担しようとせず、国債発行にして後の世代に借金を平気で付け回してきた、ということにほかなりません。民主主義社会、市民社会において、税を誰がいくらずつ負担するのが公平なのか、私たちは改めて考え直す必要があります。自分が働いて得た報酬から、社会や国にできるだけ貢献したいと思っても、得ている所得が十分でなければ、納税できる額にはどうしても限りがあります。高所得層、富裕層の方々は、自分たちは政府の支出からの恩恵をそれほど受けてはいないのだから、負担する必要はない、とお考えなのかもしれませんが、私はそれは違うと思います。民主主義社会、市民社会においては、富める者、富裕層は相応の税負担をする、少なくとも自分たちと同世代が恩恵を受けた歳出に見合う納税負担をする社会的な責任があるのではないでしょうか。

    位置: 2,409
    しかしながら、こうした社会の運営に、とりわけ若い世代が納得しているわけでも満足しているわけでもありません。多くの人が何かと理由を付けて納税を嫌がり、とりわけ富裕層の不十分な税の負担状態は放置され、その結果として後の世代への負担の付け回しが年々、膨張する一方なのです。それを、若い世代はよくわかっています。だからこそ、結婚して子どもを持つという選択肢にとても積極的にはなれない。だから、少子化が止まらないのです。そして、経済の低成長も止まらないのです。我が国では、〝不公平〟に対するデモ行進は起こらなくても、その代わり、〝不公平〟を感じている層が正直に行動した、行動せざるを得なくなった結果が、〝国全体としての経済活動の低迷〟という形で現れているのです。現状の税制は、超低金利状態の長期化で資源再配分機能が低下した金融と並び、我が国に低成長という結果をもたらした大きな原因の一つだろうと私は考えます。

  • 今のままでは間違いなく筆者の河村氏が書いているようになるだろう。その時国民は大きな犠牲を払うことになる。資本移動規制、預金引出し規制、これらは長く続く。そして増税、年金をはじめ社会保障のカットが確実に行われるだろう。さらに酷い場合は預金封鎖そして財産税だが、さすがに今の世の中でこれが通じるのかはわからない。危機感を持って対策をとれ、と教えてくれる本であった。

  • 10年に及ぶ黒田日銀の金融政策が、我が国の金融・財政にどれだけの禍根を残したか。このタイミングで総括しておくのは大事なこと。

    筆者の批判は、政策そのものと同じくらい情報開示に不誠実であったことに向けられている。まずは、実情を認め、これから起こり得る悲惨なことを正直に開示するところから始めるべきだろう。

  • 読んでいて悲しい気持ちになる本ですが、将来起こる事態を今のうちから理解し、対処策を取り始める上では、重要なインプット。

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著者プロフィール

株式会社日本総合研究所調査部主席研究員。1988年京都大学法学部卒業、日本銀行入行。1991年株式会社日本総合研究所入社。2019年より現職。財務省財政制度等審議会財政制度分科会臨時委員、国税庁国税審議会委員、厚生労働省社会保障審議会委員、内閣官房行政改革推進会議民間議員等を歴任

「2023年 『日本銀行 我が国に迫る危機』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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