人口減少時代の農業と食 (ちくま新書) [Kindle]

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  •  『誰が農業を殺したか』の後に、両者の著者から出版されている本である。日本の人口が減少していくというのは現実なのだ。人口が増加するという思考方法で、農業を考えてはいないだろうか。
     そのために農業をする上で、人手不足になるということが、明らかだ。まず外国人労働者に頼る。2021年には、外国人が農業で3万8532人が働いていた。コロナ禍によって減少したが、また増えることだろう。しかし、円安、低賃金などから日本で働くことの意味が見出せなくなっている。日本の農業技術を学べるという魅力しか残っていない。それにしても、職員を確保するためには、農業が周年働くことができる仕組みを構築できるかも必要だ。農業は作物に合わせて作業をしなければならない。適正規模の農場面積と適正な労働力の配分がいる。農業を持続的に経営するためには、農業の収益性、効率性を上げ生産性を上げることが必要になってくる。
     一方で、AIやロボットを活用して人手不足を補うことも考えられる。自動走行のトラクターなどが始まっている。それは、あくまでも栽培面積が多くなければ導入は困難だ。三ヶ日みかんの集荷に対するロボットの活用など進んだ例がある。まだ実証段階であるが、熊本のイチゴのパック詰めロボットについても評価されている。
     この本で重要な指摘は、2024年問題であり、物流問題がよく考察されていた。非常に参考になった。
     関東でイチゴの「あまおう」が食べられないという。これまで集荷して3日目までに関東地方で販売するという仕組みを作ってきた。労働基準法の改正によって無理になるという。それを工夫する。パレットの活用が必要になる。パレットの回収。パレットのレンタル料。パレットの大きさの不揃い。パレットの大きさにあった箱の大きさ。11型パレット、パレットは十トン車は16枚。トレーラーは22枚。フォークリフトの活用。バラバラに考えるのでなく、いかに効率的な物流をするのかにかかっている。ある意味では、生産者よりも、JAの物流に対する取り組みの姿勢が問われる。また、集荷施設そのものも老朽化しており、それを改修もしくは新たに建設する必要性もあるという。その中で、典型的な事例を提示することで、よりわかりやすくしている。愛媛のサトイモの集荷施設のやり方も可能性を秘めている。集荷を効率的にするには、量が決め手だ。まぁ。JAの取り組み姿勢がかなり影響する。物流の過程として、保管技術は今後さらに工夫すべき課題といえよう。CA貯蔵によって、収穫できない時に出荷することで利益を得るというのも今後の農産物のあり方である。
     データから見れば食品の中で、中食が大きく伸びている、とりわけ独身世帯が増加していることが挙げられる。コメの消費が減っているが、パックごはんが急速に伸びているというのは、ご飯を炊くこと自体が面倒で、時間がかかるという時短要求に応えている。確かに、コンビニのおにぎりも伸びているような気がする。安くて早いという牛丼チェーンはコメ産業に貢献している。そういう中で、県がブランド米を推進しているのは、明らかに方向性が違っている。結局、惣菜のさつまいもの天ぷらさえ、中国でスライスされ、冷凍で送り込まれているので、高い国産のさつまいもはいらない。中食は、安くて便利であることが基本なので、高い国産にこだわる必要もない。それを切り替えることができるかだ。
     農業の6次化が言われるが、栽培する農家と食品や加工をすることは、明らかにセンスが違う。農家は、プロダクトアウトであり、食品や加工はあくまでもマーケットインだ。それだけの思考方法が違うのに、農家がそれができると考えるのには無理がある。マーケットインが強力であっても、生産部門が安易だと、青森の老舗弁当屋の食中毒事件が起こる。中食分野はかなりの管理システムの確立がいる。会社組織をきちんと運営し、経営する能力がまず必要な上で、全く違った思考方法のビジネスを作るのは難しい。まして、海外に生産物と農産加工品を輸出することは、さらにハードルが高くなる。
     ある意味では、輸送農業は、一定の限界に来ており、地産地消の農業が本来の姿だと思う。著者は、人口減少しているので、人口増がある海外に目を向けよと強調するが、自分達の足元の消費者のニーズに、真っ向から受けとめて、技術を上げ、生産することがもっと必要な気がする。

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著者プロフィール

窪田 新之助(くぼた・しんのすけ):農業ジャーナリスト。日本農業新聞記者を経て、フリー。著書に『農協の闇』(講談社現代新書)、『データ農業が日本を救う』(インターナショナル新書)など。

「2023年 『人口減少時代の農業と食』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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